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安倍元首相銃撃 容疑者は宗教団体との関係が動機と供述も…自民党応援団は事件を安倍批判のせいにして「言論封殺」に利用
自民党HPより
安倍晋三・元首相銃撃の意外な動機が明らかになりつつある。元自衛官の容疑者が事情聴取で「特定の宗教団体」の名をあげ、「母親が信者で多額の寄付をした」「そのせいで家庭がめちゃくちゃになった」「安倍がこの団体と近く、宗教を広めたので、絶対に成敗しないといけないと思った」などと供述。一部メディアによる容疑者の親族取材でも、容疑者の母親がその宗教団体の熱心な信者で、自己破産したことがわかったからだ。その宗教団体の広報担当も母親が長年の信者であることを認めている。
新聞・テレビはこの宗教団体の名前を報じていないが、ネット上では「統一教会」(現・世界平和統一家庭連合)ではないかという声が広がっている。
安倍元首相は自民党の中でも、統一教会と関係が深いことで知られ、昨年9月12日には、統一教会系団体・天宙平和連合(UPF)の集会に安倍氏がビデオメッセージを寄せ、「今日に至るまでUPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、みなさまに敬意を表します」と発言したことが報じられた。
犯行の動機についてはさらなる取材・検証作業が必要だが、しかし、今回の事件で改めてはっきりしたことがある。それは、こうした事件を「政権批判封じ」に利用しようとする自民党応援団や御用メディアの卑劣さだ。
彼らは、安倍元首相の死が伝えられた直後、容疑者の素性がまったく明らかになっていない段階から、「メディアやネット民が安倍さんへの憎悪を煽ったせい」などと決めつけ、政権を批判してきた人たちに責任をなすりつけようとしてきた。
その典型が、安倍応援団の筆頭である百田尚樹氏だ。百田氏は今回の事件で死亡発表の前から〈安倍晋三さんが亡くなられました〉と先出しし、顰蹙を買ったが、その前には、こんなツイートをしていた。
〈今回の事件を引き起こしたのはメディアだ! 犯人の背景は不明だが、何年にもわたって「安倍が悪い」「安倍こそすべての元凶」などと報道して、多くの国民に安倍さんに対する憎悪を植え付けてきたメディアの責任は大きい。〉
さらに、ワイドショーなどで露骨な政権応援団コメントを連発してきた北村晴男弁護士も、百田氏のツイートに賛同する形でこう言い切った。
〈全く同じ事を考えていました。この犯行との因果関係は厳密には分からないが、マスコミの多くが不当に憎悪を掻き立ててきたことは間違いない。これまでの人生でこれほど悔しい事件は無い。〉
「犯人の背景は不明」と言いながら、「憎悪を植え付けたメディアが事件を引き起こした」と断言するとは、いくらなんでも意図がミエミエすぎるだろう。
堀江貴文「反省すべきはアベガー達」と事件を政権批判封じに利用、落合陽一、長谷川豊も…
自民党政権の格差助長政策を後押ししてきた新自由主義者たちも同様だ。とくに近年、政権への擦り寄りが目立つ堀江貴文氏は、事件から数時間後にはこんな決めつけをおこなった。
〈反省すべきはネット上に無数にいたアベカー達だよな。そいつらに犯人は洗脳されてたようなもんだ。〉
また、落合陽一氏にいたっては、こんなレトリックで、事件を政権批判封じに利用した。
〈政府で働く人の悪口をみんなで言うと,その悪口を聞いた誰かが,日本を良くしようと思って銃でその人を撃ったりするんだよ.その人が撃たれた後にみんな暴力はいけない断固として許せないって言うんだよ.言葉の使い方は気をつけようね,みんなの悪意の責任はみんなで取ろうね,メディアも個人も.〉
ようするに、政府で働く人の悪口は言うな、ということらしいのだが、政府で働く人たちの悪口を言えない社会って、完全に北朝鮮ではないか。
さらにひどかったのが、2017年の衆院選に日本維新の会公認で出馬したこともある元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏だ。
〈朝日毎日、東京新聞は心から満足だろう。日刊ゲンダイは社内でお祭りか?
反日サヨクのヒーローな訳だ。あの容疑者は。言論には暴力。言論にはレッテル張り。言論には殺害予告。僕も一歩間違えれば安倍さんのようになっていた。狂気を扇動し煽り世界を歪める。本当に悔しい〉(現在は削除)
自分は「自業自得の人工透析患者を殺せ」と扇動しておいて、何を被害者ヅラして「狂気を扇動し煽り世界を歪める」なのか。いい加減にしろ、という話だろう
そのほかの有象無象のネトウヨたちも同様で、口々に「アベガーのせいだ」「反日の仕業だ」「パヨクが安倍さんへの中傷をしたせいだ」などと叫び続けていた。
読売新聞はデモでの発言や、国会での公文書改ざんや統計不正などの構造的不正の追及まで「中傷」扱い
いや、個人だけではない。なんと、発行部数日本最大を誇る読売新聞までが、この事件を利用して「政権批判」封じ込めに利用していた。
それは、事件の翌日の朝刊の〈「戦う政治家」安倍氏の首相退任後も中傷続々…批判が先鋭化・演説を妨害〉と題された記事。安倍氏の小学生時代に家庭教師を務めた自民党の平沢勝栄・衆院議員が8日、記者団に対して「『安倍氏になら何を言ってもいい』という空気がエスカレートしていったことも考えられる。今回の事件がそれに起因しているとは思わないが、そういった風潮は反省すべきだ」と語ったことを受けて、これまで安倍氏に対して向けられた批判を「中傷」呼ばわりし、あたかもそれが事件を誘発したかのようにミスリードする記事を掲載したのだ。
しかも、読売は安倍元首相が受けた「主な批判」をわざわざ表にしていたのだが、これが安保法制反対デモでの学者の発言や、2019年の参院選の街頭演説中に市民が「安倍辞めろ」と叫んで北海道警に強制排除されたときのヤジなど、背景を無視した発言の切り取り、もしくは、正当な政権批判ばかりだったのだ。
「首相退任後の中傷」として挙げていたものも、昨年12月、参院予算員会で日本共産党の小池晃書記局長が、国の基幹統計のデータが書き換えられていた問題について岸田首相に質問する際、森友問題の公文書改ざんなどを挙げ、「安倍政権時代からの異常な体質だ」と追及したこと。これのどこが問題だというのか。
周知のように、読売は安倍政権時代、官邸の意向を受け、加計問題を告発しようとした前川喜平・元文科事務次官をフレームアップ攻撃するなど、政権批判潰しに躍起になってきた御用メディアだが、まさか、デモでの発言や、国会での公文書改ざんや統計不正などの構造的不正の追及まで「中傷」扱いをして、攻撃するとは……。読売はこれで報道機関などと名乗る資格があるのか。
言っておくが、本サイトが「政権批判のせい」とがなりたてている御用メディアや応援団を批判しているのは、結果的に銃撃の動機が宗教団体をめぐる個人的な怨恨という可能性が高くなったからではない。仮に犯行が安倍政権を批判する一部の跳ね上がりによるものだったとしても、だからといって言論による安倍批判を問題にする姿勢は完全に間違っている。
暴力によって言論を封じ込めようとするテロは民主主義を破壊する行為で絶対に否定するべきものだが(とりわけ、安倍元首相に対してのテロは、その政治的責任を免罪してしまうという点で最悪だ)、それと言論による批判はまったく違う。言論による批判はむしろ、民主主義を維持するために不可欠な行為なのだ。
「批判はいいけど、悪口はダメ」などという落合陽一的なロジックを駆使する輩も多いが、これもまやかしにすぎない。だいたい「批判」と「悪口」をどうやって区別するのか。「批判は許されるが、悪口は禁止」などとなったら、権力側が拡大解釈をして、すべての批判を取り締まるようになるのは明白だろう。
そんな事態にならないよう、民主主義国家では、権力者に対する批判は、悪口や揶揄、激烈な言葉も含めて認められている。権力者と一般国民の圧倒的な力の非対称性を埋め、権力の暴走を抑制するために、その保障は不可欠であり、民主主義の大前提なのだ。実際、日本でも、揶揄や侮蔑表現であっても政治家などの権力者は受容すべき、という判例も出ている。逆に、これが認められなくなれば、日本はロシアや中国、北朝鮮のような独裁国家になってしまう、ということだ。
いや、連中の本音はそういうことなのだろう。テロを「民主主義を否定するもの」などと言いながら、その実、この事件を利用して自分たちが「民主主義」を潰し、日本をロシアのような国にしようとしているのだ。
警備の不備を“「安倍やめろ」のヤジ取り締まり・強制排除を違法とした判決のせい”と責任転嫁
実際、こうした「安倍批判への責任転嫁」「政権批判つぶしへの利用」は、宗教団体との関係が動機だという容疑者の供述が明らかになった後も続いている。フジテレビのネットニュース「FNNプライムオンライン」も、さんざんフェイク情報を拡散しながらいまだに解説委員に留まり続けている安倍応援団・平井文夫氏を起用。同じく安倍応援団である評論家・八幡和郎氏の「狙撃事件の犯人がいかなる人物かはあまり重要でない」「安倍晋三氏については、特定のマスコミや有識者といわれる人々が、テロ教唆と言われても仕方ないような言動、報道を繰り返し、暗殺されても仕方ないという空気をつくりだしたことが事件を引き起こした」という言葉に賛同した上、〈日本という国が、この社会の空気が、安倍さんを殺してしまったのではないか〉などともっともらしい主張を展開した。
また、安倍応援団やネトウヨは、宗教団体にからんだ動機が明らかになって、「反日」や「誹謗中傷のせい」という言いがかりに説得力がなくなると、新たなすり替えを始めた。
銃撃事件をめぐっては、安倍元首相の背後を十分見ておらず容疑者が近づいたにも関わらず制止しなかったなど警備の甘さが内外で指摘されているが、安倍応援団やネトウヨがこれにからんで持ち出したのが、前述の読売新聞も取り上げた、2019年の参院選の際、北海道で演説中の安倍首相に対して「安倍辞めろ」と叫んだ市民が北海道警の警官によって暴力的に制止・排除された一件。この問題では、排除された市民が「政治的表現の自由を奪われた」として北海道に損害賠償を求める訴訟を起こし、札幌地裁で損害賠償が認められるという当然の判決が出たのだが、この判決によって、警察が警備しづらくなったとがなり立てはじめたのだ。
ネトウヨはもちろん、前出の平井解説委員や石橋文登・元産経新聞政治部長、不倫で議員辞職した宮崎謙介・元自民党衆院議員なども同様の主張をしていたが、ここまで奇天烈なすり替えがなされるとは、頭がくらくらしてくる。
北海道地裁が「違法」としたのは、それこそ離れたところから「言葉」をあげただけの市民に対する排除だったからだ。それがなぜ、背後から近づいていく不審人物を制止しない理由になるのか。実際、奈良以外の会場では警備が厳しく「武器を持って近づくことができなかった」と容疑者は供述しているという。にもかかわらず、こんなすり替えを行うというのは、政権批判を封じ込めるという目的者攻撃だけでなく、窮地に立っている警察幹部に擁護でも頼まれているのかと疑いたくなる。
宗教団体の名前を報じようとしないマスコミ メディアの政権批判萎縮はさらに進むのか
もちろん、安倍応援団や御用メディアが展開しているこうしたとんでもない「政権批判封じへの利用」については、良識ある人たちから、懸念の声も上がっている。
たとえば、映画監督の想田和弘氏はツイッターでこう警鐘を鳴らした。
〈安倍氏や安倍政権に対する批判的言説がテロを誘発したのだと言わんばかりの物言いが散見されますが、政治家や政権に対する批判は、健全なデモクラシーを維持するために必要不可欠です。否定すべきはテロであり、言論ではありません。テロ行為を言論封鎖に利用するような物言いは、厳に慎んでほしい。〉
近代史研究者の山崎雅弘氏も、以下のようにツイートしている。
〈今回の一件を利用して「政権批判」や「政治家批判」を萎縮させようとする、どうしようもない汚い思考の人間がいるが、民主主義の国で主権者の国民が、民主主義を蹂躙する政権や与党政治家を厳しく批判するのは当たり前のこと。こんな一見もっともらしい詭弁の「黙らせ恫喝」を真に受けてはいけない。〉
しかし、こうしたまっとうな声はほんの一部。新聞もテレビも、ネットニュースでも、安倍元首相の功績を称える声があふれるばかりで、今回の事件を利用して危険な「政権批判封じ」が進んでいることを一言も指摘しない。銃撃の動機には、宗教団体の集金システムと政界との癒着が大きく関係している可能性があるのに、その宗教団体名も報じようとしない。
おそらくこの傾向は選挙が終わって以降も変わらないだろう。宗教団体の問題は「信教の自由」を口実に封印され、むしろ、自民党応援団からの攻撃を恐れて、マスコミの萎縮はさらに進むはずだ。
映画評論家の町山智浩氏が〈226事件はひどい格差社会と貧困に怒った青年将校が財界と結託した政治家を粛清しようとした事件ですが、その結果として思想統制とファシズムがいっきに進みました〉とツイートしていたが、今回の事件はまさに、日本が本格的な言論統制国家化=ロシア化する大きな転換点になるかもしれない。
(編集部)
最終更新:2022.07.10 07:01
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