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RADWIMPS野田洋次郎の優生思想丸出し差別発言の背景! テレビやネットでも公然と“アスリートの遺伝子を残せ”的言説が流通
野田洋次郎Twitter
元厚労省医系技官ら2人の医師がALSの女性を殺害した事件をめぐり、高齢者や障害者は社会資源の無駄であり、早く死んだほうがいいというグロテスクな優生思想が想像以上に浸透していることに慄然としていたら、人気アーティストがこの事件とは関係ないところで、優生思想丸出しの発言をしていたことがわかり、大きな問題になっている。
人気バンドRADWIMPSのボーカル・野田洋次郎が7月16日、ツイッターにこう投稿していたのだ。
〈前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。
お父さんはそう思ってる。
#個人の見解です〉
野田洋次郎といえば、2018年に「HINOMARU」という軍国主義や特攻賛美とも受け取れるような歌詞の楽曲を発表し、「表現の自由」をめぐる議論に発展したが、今回の発言のグロテスクさは「表現の自由」ですませられるような発言ではない。
「優秀な遺伝子を国家が管理し残す」というこの考え方こそが、ユダヤ人や障害者を虐殺したナチスドイツのベースになった優生思想そのものだからだ。
しかも、個人の活躍をすべて遺伝子に還元し、個人の性的指向を無視して子どもを作ることを前提に配偶者を国家が決めるべきとするなど、発言はきわめて差別的で悪質だ。
当然、このツイートは大きな問題になり、ツイッターでも「ナチスドイツか」「優生思想そのもの」という批判が殺到した。
〈それって優生思想だよね。ナチスドイツや日本でもあった優生保護法やヨーロッパでも選別の禁止をしているし、過去の様々な失敗で差別が生まれたからそれを解消してきたんだよね。過去の失敗から学ばない中々に危険な思想ですね。〉
〈あなたと同じ意見を持っていた人たちを知っています。ナチスドイツって言うんですけど。純粋なアーリア人のための繁殖のための施設まで作っていました。結果、幼児死亡率が高く、敗戦で破綻しました。〉
〈野田さん それが優生学のきっかけなんです その後、劣った遺伝子はこの社会に不必要、とされ ナチス台頭下のドイツでは自警団が街中に「障害者は貴方の財産を減らす敵」というような内容のポスターを貼り出しました。
お父さんの思想の行き着く先をじっくり想像してみてください〉
〈ある人たちがすぐれた業績をあげたとしても、それは遺伝的特質だけによるものでなく、生育環境や社会状況や周囲の人々の影響等にもよる。そして何より本人の努力も。それを無視し、彼らの人生を「遺伝子を運ぶ牛馬」のように国家管理できたら…というのは #優生思想。〉
野田は続けて、〈めちゃめちゃ真面目に返信してくださる人いますが冗談で言っています、あしからず。〉とごまかしたものの、批判はまったくやまず「冗談で済ませられる発言ではない」と、炎上はさらに拡大している。
乙武洋匡や能町みね子も野田を批判、一方で「何が問題なの」という意見も
有識者や著名人も野田の発言に反応している。たとえば、乙武洋匡氏は野田発言にある優生思想と性差別の問題をこう指摘した。
〈「これぞ優生思想」という考え方をここまで無邪気に開陳できてしまうのは無知ゆえだと思う一方、私だって無知ゆえにトンデモ発言をしてしまっていることはあるかもしれない。そう思うとゾッとする。〉
〈もうひとつ別の観点から言うと、ここでお名前の挙がった方に限らず、すべての人が異性愛者であることを前提に話す時代もそろそろ終わりにしなきゃ。配偶者を持つこと、子どもを持つこと。それができない人だっているという事実を、そろそろみんなで共有していきたいですよね。〉
能町みね子氏の批判はもっと辛辣だった。
〈こんなゴリゴリの優生思想を言いながら「個人の見解です」ってわざわざつけて保険かけて(ツイートなんか誰でも個人の見解じゃん)、やっぱり猛批判され、今度は「冗談です」ってごまかしてて本当にダサい。とんでもなくダサい。以前のHINOMARUの歌詞もダサすぎて文春でとりあげた。〉
もっとも、当の野田自身は国家主義的な極右思想や確信犯的な差別・排外思想をもっているわけではないだろう。「HINOMARU」のときもそうだったが、歴史や世界の状況に無知なまま、なんとなくムードに乗っかって口にしただけ。「冗談で言ってます」と軽い調子でごまかしていたのを見てもわかるように、本人はいまも何が問題なのかよくわかっていないのではないか。
いや、それは野田だけではない。ネットの反応を見ていると、実は批判と同じくらい「何が問題なの」「冗談だろ、こんなことでなに目くじらをたててるの」「ほめてるんだからいいだろ」といった擁護意見が多い。
つまり、彼らもまた、その発言がナチスドイツと同じ優生思想であることも、優生思想がいかに危険であるかもまったくわかっていないのだ。
ネットやテレビで急速に語られ始めた「アスリートのDNA」礼賛の裏にあるもの
それも当然だろう。実は、近年、ネット上では、今回と野田と同じような世界的な活躍しているアスリートなどについて「遺伝子を残そう」的トークが、かなりカジュアルにしょっちゅう語られている。野田のツイートにあった大谷選手も活躍されるたびに「最強のDNA」「遺伝子を残さなきゃ」などという投稿が見受けられるし、レスリングの吉田沙保里選手もV16を達成したときなどに、ネットで「遺伝子を残せ」の大合唱が起こっているとネットニュースに肯定的に取り上げられた。
ネットだけでははない。テレビ番組などでも公然と遺伝子礼賛が語られるようになった。たとえば、2019年1月『ナカイの窓』(日本テレビ)で、「日本の宝・大谷翔平のお嫁さんにしたい人」ランキングを出演者たちが話し合うという企画があった。ハンマー投げの室伏由佳選手や、フィギュアスケートの浅田真央選手、ソフトボールの上野由岐子選手など女性アスリートの名前が飛び交い、「すごいDNAだね」などと盛り上がっていた。
しかし、みんなが語っているから、マスコミでもネタとして流通しているからといって、その悪質性は軽減されるわけではない。むしろ、野田をはじめ多くの人がまったく無自覚なまま、優生思想そのものである「遺伝子を残せ」的なセリフを平気で口にするようになったことこそが問題だというべきだろう。
10年以上前は、アスリートが活躍をしても語られるのは「努力」や「根性」などであって、こうした表現や言葉が使われることはほとんどなかった。それが、弱肉強食の新自由主義が台頭し、社会的弱者の排除やマイノリティへのヘイトが露骨になった2000年代後半から、「DNA」礼賛が目につくようになり、いまではそれが当たり前、何が問題なのかわからなくなってしまったのだ。
これはまさに、ナチスドイツと同じ差別的な「優生思想」が無自覚なままこの国の人々に内面化されつつあることの証ではないか。
フォトジャーナリストの安田菜津紀氏は、ツイッターで今回の野田発言を批判したうえで、こう指摘していた。
〈アウシュビッツ博物館を案内下さった方が、国家ぐるみの「優生思想」は、街中で飛び交う言葉と結びついていたと教えてくれました。だから見過ごしたくない。〉
コロナの感染拡大で「老人の命より若者の経済生活を優先しろ」という“命の選別”論も台頭してきているいま、この無自覚な優生思想にきちんと対峙しないと、日本はほんとうにナチス化してしまいかねない。
(酒井まど)
最終更新:2020.07.25 11:59
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