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香港の国家安全法制「反対声明に日本が参加拒否」の共同電 安倍応援団の「デマ認定」こそフェイクだ! 本田圭佑も踊らされた詐術を検証
8日、会見した菅官房長官(首相官邸HPより)
中国が香港での導入を決めた「国家安全法制」。香港で市民の抗議デモが広がっているのはもちろん、国際社会からも厳しい批判の声が上がっている。当然だろう。この国家安全法制は政治活動や言論の自由を奪い、中国の直接支配を強行しようとする制度。「香港の高度な自治」「一国二制度」を崩壊させるものでもある。日本政府もこの問題については、きちんと批判と抗議の姿勢を示すべきだろう。
だが、この「国家安全法制」に対する日本政府の姿勢を報じた記事について、いま、ネット上ではある騒ぎが起こっている。安倍自民党の極右議員やネトウヨたちが「共同通信がデマの誤報を出した!」と吹き上がり、いつのまにか「デマ記事であることが確定」したことになっているのだ。
「デマ」「誤報」とされているのは、共同通信が7日に配信した「日本、中国批判声明に参加拒否 香港安全法巡り、欧米は失望も」という記事。内容は以下のとおりだ。
〈香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していたことが6日分かった。複数の関係国当局者が明らかにした。中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随しないことで配慮を示したが、米国など関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている。
新型コロナの感染拡大などで当面見合わせとなった中国の習近平国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙いがあるとみられる。ただ香港を巡り欧米各国が中国との対立を深める中、日本の決断は欧米諸国との亀裂を生む恐れがある。〉
この記事が配信されるとSNS上で多くの人が反応し、日本政府の姿勢を批判。そのなかのひとりがサッカーのブラジル1部リーグ・ボタフォゴに所属する本田圭佑選手で、本田選手はこうツイートした。
〈中国批判声明 に日本は参加拒否って何してるん!香港の民主化を犠牲にしてまで拒否する理由を聞くまで納得できひん。〉
〈どんだけ他人事なん。〉
〈この記事が本当なら日本は本気でヤバい。
この記事がフェイクなら共同通信は本気でヤバい。〉
だが、この共同通信の記事に安倍自民党のネトウヨ議員が次々と噛みつき、記事内容を全否定。この共同電を配信していた産経新聞が記事を削除したことから、「共同通信のデマ記事」だと決めつけたのだ。
たとえば、元共同記者でもある青山繁晴参院議員は自身のブログに〈極めて悪意のあるねじ曲げ〉〈誤報と言うより、つくられた虚報です〉と投稿。また、長尾敬衆院議員や山田宏参院議員、和田政宗参院議員らもこぞってこうツイートした。
〈誤報の可能性が非常に高いです。日本政府が否定したようで、某紙が記事を削除。「米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診された」という事実はない、ようです。〉(長尾議員)
〈酷い印象操作記事。当初各国足並みの揃わない時期未定の共同声明ではなく、速やかに明確な形でわが国が独自の声明を出した。後追いでEUが同様の「深い懸念」声明となったというのが事実。〉(山田議員)
〈産経新聞はネット版に共同の配信記事をそのまま転載したが、後に削除。産経の記者に聞いたところ、何かのミスで削除されたのではなく、意志を持って削除したと。誤報とみなしたのではないか〉(和田議員)
本田圭佑は踊らされて謝罪も…菅官房長官は「参加拒否」報道を否定していなかった
さらに、翌8日には時事通信が「日本の対応「米英も評価」 中国の国家安全法導入方針で―菅官房長官」というタイトルで記事を配信すると、ネトウヨは「デマが確定した」として大騒ぎ。本田選手もこの記事をリツイートし、こう投稿したのだ。
〈共同通信がフェイクニュースでヤバい方やったか。
政府の皆さん、すみません。〉
そして、この本田選手の投稿が「ちゃんと謝罪する本田△ですわ」「あなたへの信頼が強くなりました」などと称賛を浴び、「サッカーダイジェストWeb」もネット記事で「「カッコいい漢」「信用できる」本田圭佑が報道を受け日本政府に謝罪。非を認める姿勢に称賛の声」などと紹介。いつのまにか共同記事は完全に「デマ記事」だったことになってしまっているのだ。
だが、はっきり言って、この「共同はデマ記事」という決めつけのほうこそ、あきらかな「デマ」だ。
実際、「デマ認定」の決め手となっているのは時事通信が伝えた8日の菅官房長官の発言だが、じつは、菅官房長官はこの会見で報道を否定してなどいない。
まず、8日の会見では、産経新聞の記者が共同の報道を取り上げ、「(米英などから共同声明の)打診の有無があったのか、そして拒否をしたのか、事実関係を含めて教えて下さい」と質問したのだが、菅官房長官は「国家安全法制」を中国の全国人民代表大会で導入方針が採択された5月28日に「我が国は他の関係国に先駆けて、直ちに私および外務大臣から深い憂慮を表明」したとし、外相の指示のもと秋葉剛男外務次官が駐日中国大使に「こうした我が国の立場を直接、明確に申し入れをおこなった」と回答。その上で、こう述べたのだ。
「このように我が国は強い立場を直接、ハイレベルで中国側に直ちに伝達するとともに、国際社会に対しても明確に発信してきている。米国や英国をはじめとする関係国は我が国のこのような対応を評価しており、失望の声が伝えられるという事実はまったくない」
「本件については関係国と緊密に連携して対応しているが、関係国との関係もあり、外交上のやりとり一つひとつについて答えることは差し控えるが、いずれにせよ繰り返すが、米国や英国をはじめとする関係国は我が国のこのような対応を評価している。このことをあらためて申し上げておきたい」
ようするに、菅官房長官は「共同声明の打診はあったのかどうか、そしてそれを拒否したのかどうか」という問題には一切答えず、「米英は日本の対応を評価している」と繰り返しただけなのだ。
この菅官房長官の回答はあきらかにおかしい。もし「日本が打診を拒否した」という共同の記事がまったくの事実無根だったとしたら、いつものように「そうした事実はない」「ご指摘は一切あたらない」と強く否定したはずだ。だが、それを言うこともなく、「米英は日本の対応を評価している」と主張して押し切っただけなのである。
また、菅官房長官は単独で「憂慮を表明した」ことを持ち出してごまかしているが、中国を厳しく批判した米国や英国などの共同声明とはまったくレベルが違う。
ロイター通信が外務省に事実関係を取材も返事なし、共同は自信満々で記事取り下げず
しかも、イギリスやアメリカのメディアからも、共同記事を補強するような報道が出ている。
たとえば、英・ロイターは7日、「日本、香港安全法めぐり米国などの非難声明参加を断る」として共同の報道を紹介したうえで、ロイターとしても日本の外務省と駐日アメリカ大使館に取材、返事はなかったとしている。そして、コロナの影響で延期になったが習近平国家主席の訪日を計画しており、香港問題について米中の緊張関係のなかで複雑な立場にあるとの見方を示している。さらに同日、ニューヨーク・タイムズも、ロイターの報道を引くかたちでこの問題を報じている。取材の結果、根も葉もない話だったならば、これらのメディアがこうした取り上げ方はしないだろう。
だいたい、これが完全な誤報であれば、共同は安倍官邸からすさまじい抗議を受けているはずだが、いま現在も共同は問題となっている記事を削除することも訂正をおこなうこともなく残したままだ。
以前、本サイトでは、共同が西村康稔・コロナ担当相の記事をめぐり、西村大臣の発言をこっそり訂正していたことを伝えた(既報参照→https://lite-ra.com/2020/04/post-5380.html)。この記事や発言は誤報でも何でもなかったというのに、共同は圧力に屈して記事を“改ざん”したのだが、今回の記事はそれとは影響度がまったく比にもならないほど大きいというのに、取り下げてもいないのだ。
実際、共同の関係者に取材すると、「今回については、社も記事に相当の自信をもっているようだ」との答えが返ってきた。
「取材にあたったのはワシントン支局でも手堅いと評価の高い記者。米政府関係者からの情報で入念な裏取りもできているようだ。幹部も慌てている様子はまったくない」
逆に、政府のほうは、共同の記事を明確に否定もしない一方、大慌てで報道を打ち消すような動きに出ている。たとえば、共同の記事が出た翌8日の読売新聞は朝刊で「独自」と銘打ち、「香港問題「G7で声明を」…日本働きかけ 「一国二制度」維持求め」という記事を掲載。〈複数の外務省幹部〉の話として、日本政府が提案したかたちでG7の外相が憂慮を示す声明を出す方向で調整していると報じた。
だが、この記事でも、米英からの共同声明の打診を拒否したという共同の報道は否定されておらず、〈米国や英国も同様に数か国での共同声明の取りまとめを調整してきたが、日本政府はG7の枠組みが重要との考えだ〉と強調しているだけだった。
官邸周辺では“共同声明参加を拒否させたのは今井補佐官”の情報が流布
ようするに、米英からの共同声明への参加打診を拒否したというのが事実であるために、それを真っ向から否定もできず、そのかわり「日本が中国に配慮している」という疑念を打ち消すためにこうした記事を御用新聞の読売に書かせたのではないのか。
また、9日になって米国務省のオータガス報道官が「日本は共同声明に参加していないが、中国の国家安全法制に対して強く発言してきた」「香港の民主的な価値観や自由で開放的なシステムを維持すべきだという日本の鋭い呼びかけを歓迎する」というコメントを出したと報じられたが、これも菅官房長官とまったく同じで、米側が日本に共同声明の参加を呼びかけたかどうか、それを日本が拒否したかどうかには一切ふれられていない。しかも、わざわざ参加していないことも言い添えている。
全国紙の政治部記者も、この間の政府と官邸の動きについてこう解説する。
「アメリカ国務省報道官の菅官房長官そっくりの玉虫色コメントも、日本側から頼み込んで出してもらったんでしょう。あの菅官房長官の姿勢をみると、共同声明への参加を呼びかけられ、拒否したのはほぼ間違いない。官邸内でも、“非公式に打診があったが、影の総理といわれる今井尚哉首相補佐官が断らせた“という情報が流れていますね。今井補佐官は経済目的で中国との関係を強めたい経産省の意向を受けて、中国の一帯一路構想やAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加にも積極的。2017年に二階俊博幹事長が訪中した際には、親米タカ派の谷内正太郎国家安全保障局長(当時)が担当した安倍首相の親書を書き換えるよう指示したとされるほどですから、さもありなんです。安倍首相も今井補佐官の言うことにはほとんど逆らいませんしね。ただ、これが明らかになると、安倍首相の支持基盤である右派からの猛反発が起きかねない。それで、安倍応援団を使って必死に否定させているのでしょう」
いずれにしても、はっきりとしていることは、日本政府および安倍官邸は、共同の「米英からの共同声明の打診を拒否」という記事内容に対し、何ひとつ明確に否定していない、できていない、ということだ。
にもかかわらず、ネット上では何の検証もおこなわれないまま、共同のこの記事はネトウヨや極右議員らの声の大きさによって「デマ」「誤報」として流布されているのである。
いや、問題はそれ以前だろう。そもそも政府が否定したとしても、それは事実でないということではない。政府(とくに安倍政権)のこれまでのやり口を見ればわかるように、都合の悪い裏側や不正については、平気で嘘を強弁して、事実を否定してみせるのが権力の常套手段なのだ。それを政府が否定したからといって、デマ扱いしていたら、それこそ不正や裏側を暴く報道が封じ込められてしまう。
マスコミの報道内容をきちんと検証していかなければならないのはもちろんだが、こうした権力の思惑に乗っかった「デマ認定」こそ、マスコミの誤報なんかよりはるかに危険なものであることを、私たちは強く認識しておく必要がある。
(編集部)
最終更新:2020.06.10 12:59
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