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新型肺炎を政治利用する安倍首相、中国人を“ばい菌”扱いのワイドショーが起こすモラルパニック! 長嶋一茂は空も船も封鎖を主張
フジテレビ『ワイドナショー』1月26日放送より
連日、マスコミが取り上げている新型コロナウイルスによる新型肺炎。安倍首相は日曜日、26日夕方のぶら下がり会見で、中国・武漢に在留する日本人を帰国させるチャーター機を手配する方針を明らかにした。
日本政府のこの対応は当然だが、うんざりさせられたのは、安倍首相自らがわざわざ発表したことだ。災害時などにチャーター機を飛ばすという程度の話なら、官房長官、もしくは事務的な政府発表で十分な案件だ。普段、都合の悪いことは国民にギリギリまで説明しないで逃げ回るくせに、自分の得点になりそうな発表のときだけは首相自らがしゃしゃり出てくるというのは、安倍首相の行動パターンだが、この状況でやるとは……。
しかも、安倍首相が自慢したこの行動、実は、アメリカの対応を知って慌てて動いただけという可能性が高い。
安倍首相は26日、いつもの休日のように終日、休養にあてる予定で、実際、午後5時までは自宅で静養していた。ところが、その前日夜中、米政府が武漢にいる米国人の帰国のためにチャーター機を運行させる手続きに入ったと米紙が報道すると、日本政府もチャーター機の手配に動き出す。そして、安倍首相は夕方に公邸に移動、側近中の側近である今井尚哉首相補佐官や北村滋国家完全保障局長らと会議を行ない、そのあとにすぐ「チャーター機手配」を発表したのである。
「ようするに、米政府の対応を見て、今井氏や北村氏ら側近たちが『日本もチャーター機を飛ばした方がいい』と言い出し、あわてて手配。手配を終えたところで、安倍首相がこれは国民にアピールできると、『それなら自分で発表する』ということになったんでしょう」(全国紙官邸担当記者)
また、安倍首相が今回の行動には、人気取り以外にもうひとつ政治的な理由があるとの見方もある。というのも、国内の台風被害などには冷淡で、なかなか行動を起こさない安倍首相にしては、行動が迅速すぎるからだ。
「今回のチャーター機手配で、国外に取り残された邦人を救助するということを国民に強くアピールすれば、自衛隊の集団的自衛権行使を正当化し、改憲などの世論を形成するのにもプラスになるという判断があったはずだ。あと、中国発の感染ということで、自分の支持層が反中に沸き立っているからね。そこに敢然と対応するポーズを見せれば、これも得点になると考えたんだろう」(政治評論家)
こういう行動を見ていると、新型コロナウイルスよりも、あらゆることを自分の政治目的に利用することしか考えない総理大臣のほうが恐ろしいんじゃないか、という気がしてくるが、この国には、もう一つ新型肺炎より恐ろしい状況が起きている。それは、新型コロナウイルスに乗じた中国ヘイトがさらに高まり、マスコミにまで広がっていることだ。
前回の記事で指摘したように、ネットでは「日本から叩き出せ」「来るな」「死ね」などと、「中国人」という属性で一括りにして排除を扇動するヘイトスピーチが跋扈している。「チャーター機手配」の報道でも、Twitterには〈むしろ、中国人が「自分は日本人だ」と嘘をついてどさくさ紛れに乗り込もうとするかもしれないぞ〉〈今現在日本にいる春節で入国した中国人も送り帰して欲しい〉などというコメントが溢れかえった。
街角でも「中国ヘイト」と呼ぶべき言葉が聞こえてくる。朝日新聞デジタル(1月21日)が報じたように、神奈川県箱根町の駄菓子店では中国人の入店を禁止する貼り紙を掲示。「ウイルスをばらまかれるのは嫌だ」との趣旨の記載もあり、店主は取材に対して「コロナウイルスに自衛手段を取りたい。中国人は入ってほしくない」と話したという。
SNSでは〈自衛したいという個人店主からの依頼で、中国人お断り貼り紙をつくりました〉という投稿や、〈こちとら病気うつされたくないのになーにが差別だよ自衛だよ自衛〉といった書き込みが見られる。「自衛」という名目で排斥するのは、まるで「自衛戦争」の名の下に行われる殺人行為を彷彿とさせる。もはや、戦うべき相手は「ウイルス」ではなく「中国人」かのようだ。
日本国内でインフルエンザの死亡者は年間1万人以上いるのに、中国人を“ばい菌”扱い
こうした状況は、明らかにテレビマスコミの過剰な報じ方が影響しているだろう。ワイドショーの新型コロナウイルス報道では、春節の休みを利用して日本へ来る中国人観光客を監視するかのように、その一挙手一投足を繰り返し取り上げている。
たとえば27日の『羽鳥慎一モーニングショー 』(テレビ朝日)では、中国人観光客が大阪でマスクを「爆買い」していると報道。さらには北海道の観光ホテルで「中国人宿泊客の部屋に解熱剤がたくさん置いてあった」とのツイートを投稿した女性に取材したり、富士山麓でマスクを外している中国人観光客を「マスク外し『空気がきれい』」とテロップをつけてクローズアップしたりと、まるで中国人全員がウイルスを持っているかのように煽った。同日の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)も同様で、バスから出てくる中国人観光客を取り上げ「ドラックストアでは大量のマスクを求める爆買いが始まっていた」と興奮した調子で取り上げていた。
中国人観光客がマスクを「爆買い」するのは、単純に中国国内でマスクが不足しているからだろう。マスクをしていなければまるで犯罪者かのように扱い、マスクを「爆買い」すればあたかも中国人のせいでマスクが足りなくなるように煽る。いったい、どうしろというのか。
さらに酷かったのは26日の『ワイドナショー』(フジテレビ)だ。番組では、長嶋一茂が「対応策に関しては、中国から日本に渡航する70万人、これ空も船もあるわけですよ。これ、全便欠航です」などと渡航を完全封鎖すべきと主張。さらに松本人志は、明らかに中国を批判する口調で「初めてやないやないですか、中国からこういうのが来るのって。ほんと考えてほしいですよね」「これもっと日本は抗議していい。抗議というか何と言ったらいいんだろうか、ねえ、やっぱり一番被害を受ける国ですよ」などと発言していた。新型ウイルスで「一番被害を受けている国」はそれこそ中国なのに、いったいこのオッサンは何を被害者ヅラして「中国に抗議しろ」とがなり立てているのだろう。
こうしたテレビの報じ方は、もはや一種のモラル・パニックと呼ぶべきだろう。いま「訪日中国人」全体が「ウイルスを運んでくる」というふうに拡大して定義され、メディアがそのステレオタイプを繰り返し報じることで、日本社会に対する脅威として位置付けられている。本来、防御すべきは「ウイルス」なのに、いつの間にかメディアによって中国人自体が「敵」にすり替えられており、その結果、「自衛」名目のヘイトが肯定されてしまっているのではないか。
実は、新型コロナウイルスによる肺炎の致死率は現時点で3%で、これはSARS(10%)やMERS(34%)よりも低い。これまでに亡くなった人の大半は高齢者で、糖尿病や高血圧、喘息、肝硬変などの基礎疾患を抱えており、もともと健康状態が悪かったという。多くの患者は軽症のまま回復しているとされる。また、インフルエンザの流行によって直接的及び間接的に死亡した者を推計する「超過死亡」の概念では、インフルエンザによる日本の年間死亡者数は約1万人だ。新型ウイルスの感染が拡がっているのは事実でも、テレビなど一部マスコミが「春節で来日する中国人」をセンセーショナルに報じて、無理やり社会問題化させているのは、どう考えても過剰だろう。
マスコミがこんな状態では、本当に、日本で中国人観光客の宿泊拒否が起きたり、最悪の場合、暴漢に襲われるというような事態が起きかねない。モラル・パニックが生まれる報道状況下で、もともと嫌中意識を持った人たちは「自衛だから」と差別を正当化する。そうでない人であっても「自分の身を守るためには仕方がない」とのエクスキューズによって、簡単にタガが外れてしまうのだ。
さらに言えば、大衆は「非常事態」であると認識・錯覚することで、政治権力による強権的な施策に盲従してしまう傾向にある。その思考停止は新型ウイルスにとどまらない。戦時下のように、「外からの脅威」に対抗する「強い政府」を望む大衆のマインドは、その政府の他の政策や政治状況にも有無を言わせない空気を醸成する。だからこそ、通常国会のタイミングで、安倍首相は自ら表立って「ウイルス対策」をしているとアピールしているのだろう。
何度でも言うが、ウイルスよりも恐ろしいのは人間の集団心理だ。そして、この大衆の不安を政治権力は利用しようとする。肝に命じてほしい。
(編集部)
最終更新:2020.01.28 09:55
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