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『報道特集』と『ETV特集』が特集! 戦前・戦中の特高警察による言論弾圧と安倍政権のやり口の共通点
TBS『報道特集』番組ホームページより
昨日、TBS『報道特集』が放送した特集企画「消えた村のしんぶん」が反響を呼んでいる。戦前・戦中に各町村の青年団が自主発行していた「時報」と呼ばれるミニコミ新聞と、それが特高警察によって発禁処分や休刊が相次いでいった経緯を、丹念な取材と調査によって伝えたこの特集は、現在の安倍政権下で起きている問題を想起せざるを得ないものだった。
番組が中心的にとりあげたのは、長野県の旧・滋野村にて自主的に刊行されていた「滋野時報」。地元青年団の手によって1927年に創刊。月に一回、村民に無料で配布され、欠かせぬ情報源として愛されていたという。
日々の生活情報だけでなく、政治についても紙上で自由闊達な議論が交わされた。たとえば創刊初期の記事では、地方の人々が自立と民主主義を希求する力強い文がしたためられている(以下「滋野時報」より、旧字体等は引用者の判断で改めた)。
「我等昭和の民はよろしく村政に携はって今迄為政者の感の有った政治を捨てて絶対的の村民のための為政であらしむべく村当局否大きくは国政までも注視すべきだ」
「二十日の投票日には一人残らず投票所へ押しかけ農民の真の代表者と目すべき候補者に全的信頼を以て投票すべきである」
ところが、この時報は次第に言論弾圧にさらされていく。特高警察が青年団と時報を監視していたのだ。当時の長野県特高課がまとめた資料には「村自治機干紙ナルモ思想容疑記事多シ」「左翼分子ノ策動」「誤解スル青年ヲ生ズ」などと記されており、「滋野時報」創刊の2年後には、青年団の研究大会へ向かう代表の一部を特高が事前に拘束、次第に時報に対する押収や記事差し止め、そして発禁処分が科せられていった。
『報道特集』によれば、1931年の満州事変以降、満州に関する記事は掲載してはならないとする通牒が出され、これに反発した「滋野時報」は当局から2度、配布前に押収された。1932年1月の号では、「時報を尖鋭化とか、赤いとかの名において押収するのはあまりの重壓である」「人類幸福の為め一斉支那より手を引け」と抗議を記した。だが、この記事を最後に「滋野時報」は発禁が相次ぎ、これ以降は何度か発行された記録はあってもほとんど現存しないという。
番組の取材でひとつだけ見つかった1939年1月の号。「滋野時報」の論調はすっかり変わり、「御国のために出来るだけ務めたい、働きたいという心持で一杯である」などと戦争を支持する記事ばかりとなってしまっていた。他の地域の時報からは、こんな子どもによる記述も見つかったという。
「私の父さんがいきているなら今ごろは敵の兵隊いをころして、てがらをたてて、いたかもしれません。兵隊さん支那の兵隊のくびをとってきて下さい」(「神川」(時報)1937年11月)
1938年より政府は全国の新聞の統廃合を進め、1940年には「滋野時報」も廃刊となったという。特高警察の資料には、「自発的廃刊ヲ慫慂ス」とあった。「滋野時報」を発行した青年団長をいとこにもつ高橋隆巳さん(89歳)は、番組の取材に当時を振り返ってこう語っていた。
「新聞がないからね、(世の中が)どうなったのか全然わからなかった。『見ざる』『聞かざる』というような状況に陥っちゃっていたから」
スタジオでは取材をした湯本和寛記者が、1938年からの新聞の統廃合も当初はそれを命じる法律がなかったため世の中の状況を説き、忖度させることによって自主的な廃刊を求めるという手法をとったと解説していた。安倍政権がマスコミに対して陰に陽に圧力をかけて萎縮させている現状を踏まえても、これは決して約70年前の「遠い出来事」ではないだろう。
『ETV特集』が詳細なデータで明らかにした治安維持法の恣意的な運用
この『報道特集』の企画「消えた村のしんぶん」が特徴的だったのは、地方の新聞に対する弾圧に、特高が具体的な役割を担っていたことを当時の資料から浮かび上がらせたことだ。
実は、NHKもこの夏、同じく特高警察による戦前・戦中の言論弾圧を扱っていた。「ETV特集」で放送した『自由はこうして奪われた~治安維持法 10万人の記録~』(8月18日放送)で、こちらは、治安維持法の変遷を詳細なデータで辿りつつその実態を明らかにしている。
1925年に成立した治安維持法は、当初、共産主義の取り締まりを念頭においていたが、28年の緊急勅令による法改正では厳罰化とともに「結社の目的遂行の為にする行為」いわゆる目的遂行罪が規定された。これによって共産主義者でなくとも、当局が恣意的拡大解釈によって社会主義運動等に協力したと認定すれば、事実上、誰であろうとも罪に問うことができようになり、自由主義や反戦思想までもその標的とされた。
ETV特集『自由はこうして奪われた』は、膨大な政府資料をもとに1925年からの治安維持法による検挙者のデータを抽出。それによれば、1945年10月にGHQの命令で廃止されるまで、把握でき る限り国内で延べ6万8332人、朝鮮や台湾などの植民地で3万3322人、合計10万人を超えていた。
国内の検挙者数は1928年に前年の約10倍となるなど、1933年にかけて急増。これは、前述したように、目的遂行罪の規定が盛り込まれたことにより、共産主義者でない一般人を取り締まれるようになったからだ。データを検証すると、1931年からはそれまで東京や大阪が中心だった検挙が地方でも増えており、とりわけ、検挙の増加が著しかったのが長野県だった。
番組では、長野で600人以上の教職員らが治安維持法で逮捕された1933年の2.4事件も取り上げられた。検挙された教師・立澤千尋さん(当時26歳)は、共産党との関わりがまったくなかったにもかかわらず、仲間の教師に誘われて組合主催の研究会に参加し、本を読んだことを理由に逮捕された。立澤さんは1日後に釈放されたが、検挙が問題となって学校から追われることになった。
実は、番組によると、2.4事件で検挙された人のなかには、もともと治安維持法が対象としていた共産党員はゼロ。また、データでも1929〜33年の5年間で検挙された人のなかに、共産党員は3.4パーセントしかいなかったという。いかに当局が恣意的な認定で一般の市民を取り締まったかがわかるが、番組では当時、特高警察が目的遂行罪を「至れり尽くせりのこの重要法令」と評価していたことを紹介している(松華堂『特高法令の新研究』より)。
治安維持法の運用実態が物語る共謀罪=組織犯罪処罰法の恐ろしさ
そもそも治安維持法は当初から条文が曖昧で、当時の帝国議会でも懸念の声があがっていたが、これを拡大解釈して運用した結果、その解釈に都合がよいように法改正を繰り返していった。
この経緯を聞いて、想起されるのは、昨年、安倍政権が成立を強行した共謀罪こと改正組織犯罪処罰法だ。
思い出してもらいたいが、国会審議のなか当時の金田勝年法相は、それまで処罰対象を「組織的犯罪集団」に限るとしていたのを一変させ、「組織的犯罪集団の構成員ではないが、組織的犯罪集団と関わり合いがある周辺者」ということで「処罰されることもありうる」と答弁(2017年6月1日参院法務委員会)。まさに治安維持法の拡大運用を決定づけた目的遂行罪と同じしくみだが、金田法相はこの答弁をした翌日の衆院法務委員会で、治安維持法の認識について「当時、適法に制定された」「刑の執行により生じた損害を賠償すべき理由はなく、謝罪及び実態調査の必要もない」と開き直りさえ見せていた。
共謀罪が「平成の治安維持法」と呼ばれている理由はまさにこの適用の恣意性が重要なのだが、こうした“法案を一度制定してしまえば適法”と開き直る法務大臣答弁や、国内だけでなく国連の特別報告者からも強い懸念が示されたなかで成立を押し切った安倍首相の姿勢からは、戦前の言論弾圧や恣意的逮捕への反省はまったく感じられない。いや、それどころか、戦前の特高警察に倣い、まさに法の濫用によって人々の言論を封じ込めようとしているとしか思えないだろう。
実際、共謀罪の成立には、警察庁などの当局からの強い要請があったと言われているが、いまや“安倍官邸の謀略機関”となっている内閣情報調査室(内調)のトップ・北村滋内閣情報官は、警察関係者向けに出版された『講座警察法』(立花書房)第三巻のなかで、戦前・戦中の特高警察や、弾圧体制を生んだ治安維持法に代表される法体系を高く評価している(過去記事参照https://lite-ra.com/2016/09/post-2553.html)。
安倍首相と、特高賛美の内調トップ・北村滋が企てる警察国家化
政府の方針や危険法案を批判するメディアに対して圧力をかけ、忖度させようとしている安倍首相。その手足となって、対抗勢力へのネガティブキャンペーンにまで暗躍しているとされる北村情報官率いる内調。安倍応援団が「反日左翼」の大号令をかけて総攻撃している状況。そのなかで政府が、特定秘密保護法、改正盗聴法、共謀罪などの法を道具として“警察国家化”に邁進していることは、この国がかつておこなった言論弾圧の歴史を着実に辿っているように思えてならない。
〈治安維持法は、まぎれもなく戦前日本の負の遺産の典型のひとつである。しかし、その治安維持法も十分にその悪性が分析され理解されないまま、急速に忘却のかなたへと葬り去られようとしている。それが現代の世相である。〉
〈もともと法制度というものは、近代法の原則のしからしめるところ、単に公権力組織に権力を授与するばかりではなくて、授与した権力に制限を課するものでもあるという性質を持つ。ところが、戦前日本国にあっては、法制度なるものは、権力をしばるという目的には一向にはたらかず、「それゆけ、ドンドン」とばかり力を藉すほうの側ばかりにはたらいてきた。本書は、近代法の原則を欠いた「法の化物」物語でもあるだろう。〉
表現の自由の大家である憲法学者、故・奥平康弘東京大学名誉教授の『治安維持法小史』からの引用だ。安倍政権の現在にこそ警鐘として響く。人々の言論や思想信条、集会、結社、通信の自由を脅かす法が問題になるたびに、冷笑系の連中が「いまの政府が戦前みたいなことをやるはずがない」とうそぶくが、そんな保証などどこにもないことを歴史から学ぶべきだろう。
(編集部)
最終更新:2018.08.26 10:22
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