泳いで脱走の受刑者に「いじめ」はあったのか? 刑務所で頻発する刑務官による虐待といじめ

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法務省ホームページより

 愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者の男が逃走した事件。23日もの長期に渡る逃亡潜伏、そして対岸の尾道市まで海を泳いで渡っていたことなどから、ワイドショーなどがセンセーショナルにこれを報じている。

 だが、逃亡のきっかけとなったとされる「刑務所内のいじめ」については、それを掘り下げて取り上げる報道はほとんど見られない。受刑者は「刑務官からいじめられていた」「あと半年で(刑務所を)出られるとわかっていたが、それでもつらいので逃げた」と供述しているといい、「刑務官や受刑者との人間関係に悩んでいた」という趣旨のメモを潜伏先に残していたこともわかっているのに、マスコミは脱獄した受刑者の話なんてまともに取り上げるに値しないとばかりに一蹴。松山刑務所が否定すると、ほとんどこの問題は話題にも上らなくなった。

 しかし本当にそうなのだろうか。実は、刑務所内でいじめが常態化しているというのは有名な話であり、なかでも、刑務官による受刑者いじめや虐待は表面化したものだけでもかなりの数にのぼっている。

 刑務官の事件としてまず浮かぶのが2002年に発覚した名古屋刑務所の受刑者殺人事件だ。これは2001年、刑務官が1人の男性受刑者を真冬にズボンを無理やりおろして肛門に消防用高圧ホースで放水、外傷性腸間膜裂傷による細菌性ショックで死亡させたものだ。さらに、名古屋刑務所は2002年にも受刑者の腹部を革手錠つきのベルトで強く締め付け、1人を死亡させ、1人に重傷を負わせた。その陰惨な暴行は当時、大きな問題となった。

 しかし、当局はこれらの死傷事件を隠蔽しようとしていた。当初から「不審な死」と把握していた法務省矯正局だが、その後も何ら対処することなく、また解剖医が検察官に「死因が明確でないので報道機関への発表を控えてほしい」と発言したことも明らかになっている。両事件とも裁判では刑務官による受刑者の「懲らしめ」が目的と認定され、6人に有罪が確定した。

医務官による受刑者への“性的虐待”で自殺者も

 刑務所での虐待といえば、もうひとつ有名なのが、徳島刑務所暴動事件をめぐるものだ。これは、2007年11月、受刑者40人が暴れ、刑務官が怪我をするなどした事件だが、その原因として明らかになったのが刑務官らによる受刑者への“性的”ともいえる虐待だった。医務課長が受刑者の診察の際、パンツを脱がせ肛門に指を入れるなど、医療行為を逸脱した異常な虐待をしていたことが判明し、なかにはそれを苦に自殺した受刑者もいた可能性も浮上したのである。また、痛覚検査と称して皮膚を何度もつねる懲らしめや、絶食処置、診療拒否も頻発していたという。受刑者らは08年に医務課長を特別公務員暴行陵虐容疑などで告訴・告発したが、不起訴処分となっている。

 ほかにも、2009年には福島刑務所の看守部長が、30代の男性受刑者に自らの下半身にわいせつな行為をさせた疑いで逮捕され、2017年2月には秋田刑務所で受刑者17人に対し不要な号令をかけたり、他の受刑者への暴行をけしかけるメモを見せるなどの嫌がらせを繰り返した刑務官が減給処分になっている。

 しかも、注意しなければならないのは、これらの虐待は、氷山の一角にすぎないということだ。刑務所という“閉じられた空間”で、刑務官と受刑者という力関係のもと行われる行為であり、法務省の隠蔽体質もそこに加わっているため、表沙汰になっていない刑務官の受刑者虐待は山ほどあるといわれている。

 さらに、刑務所内では、受刑者同士のいじめも常態化しているといわれるが、これも刑務官が力をもった受刑者と癒着して、見て見ぬ振りをしている結果ではないかとの指摘もある。

 実際、刑務官と受刑者の癒着事件も明らかになっている。2000年から02年にかけては、千葉刑務所の刑務官が暴力団組員に携帯電話を使わせるなど不正な便宜をはかって謝礼を受け取り、別の受刑者の家族に対する保釈金名目での現金詐取に加担した事件が起きている。2006年には大阪拘置所の刑務官が、拘置中の暴力団組長に便宜を図り、見返りに家族旅行や乗用車などを受け取っていたとして、収賄容疑で逮捕された。

 いずれにしても、こうした実態を考えると今回逃亡した受刑者の「刑務官からのいじめ」の訴えを“犯罪者のたわごと”などと一蹴するわけにはいかないだろう。繰り返すが、この受刑者はあと半年で出所できる予定だったのだ。それをわざわざ逃亡するというのは、よほどのことがあったとしか考えられない。

 今後、その実情がどう解明され、公表されるのか。これまでの虐待事件のように隠蔽されることのないよう、注視する必要がある。

最終更新:2018.05.05 01:08

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