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22億円もの公金をつぎ込んだ官製映画会社がタダ同然で売り飛ばされていた! 経産省クールジャパンのデタラメ
上・ANEW(All Nippon Entertainment Works)公式サイトより/下・産業革新機構公式サイトより
加計学園をめぐる疑惑では、「規制改革」「成長戦略」というかけ声の裏で安倍首相とオトモダチによる私物化、利権化の実態が次々と明らかになったが、こうしたデタラメな「成長戦略」は、なにも加計問題だけではない。
たとえば、あの「クールジャパン」も内実は相当にデタラメなものらしい。周知のように、クールジャパンは海外市場に日本のアニメや音楽、伝統文化などを売り込むために政府をあげて取り組んでいるプロジェクト。だが、その中核をになう経済産業省が、クールジャパンの名のもとに巨額の公的資金をドブに捨て、その事実を隠蔽していたというのだ。
問題になっているのは、官民ファンドの産業革新機構(産革)が100パーセント株主として出資した官製映画会社・All Nippon Entertainment Works(ANEW)だ。ANEWに最大60億円の公金投資を決めた産革は、東芝への救済スキームでも名前が挙がったファンドだが、政府が出資金の9割を出しており、事実上、経済産業省の支配下にある。
実際、2011年のANEW設立じたい、経産省主導で企画されたもので、その設立準備も、当時、同省で文化情報関連産業課長をつとめていた伊吹英明氏を中心に進められた。2013年の業界誌のインタビューでは経産省の職員がANEWに出向していたことも確認できる。
また、ANEWの設立当初から、経産省の後押しを受ける産業革新機構のマネージングディレクター・高橋真一氏が代表取締役や取締役を歴任し、社外取締役に同じく産革出身の長田志織氏が、監査役にも産革の現執行役員である関根武氏が就任。そこに、日活や円谷プロダクションの役員を務めた黒川裕介(COO)、ユニバーサルスタジオの元上級副社長であるサンフォード・R・クライマン(CEO)の両氏を代表として据えるかたちとなった。
しかし、実際にスタートしたANEWの実態はとんでもないものだった。同社は「日本国内コンテンツのハリウッド・リメイクを共同プロデュース」を謳って、アニメ作品や映画などを米国で実写化することを目的としており、設立以降、『大空魔竜ガイキング』、『ソウルリヴァイヴァー』、『オトシモノ』、『藁の楯』、さらにはあの『TIGER & BUNNY』と、7作品もの「ハリウッド・リメイク」企画をぶち上げていた。
ところが、設立して6年も経った現在、これらの企画はほとんどなにも動いていないのだ。
映画はほとんど企画だおれの一方、毎年莫大な赤字が垂れ流し
会員制情報誌「FACTA」8月号で、ジャーナリストの西岡研介氏がANEWの内部資料をもとに企画の進捗状況を暴いているが、それによると、『オトシモノ』は監督選び、『ソウルリヴァイヴァー』『藁の楯』は脚本開発の最終稿段階でストップ。『TIGER & BUNNY』はじめ3作品はあらすじか第1稿止まり。製作が決まったのは『大空魔竜ガイキング』のみなのである。その『大空魔竜ガイキング』も、ANEW設立前から『ターミネーター』を手がけたアメリカ人プロデューサーが企画開発を行っていたところに、横からANEWが入っただけだったという。
しかも、ANEW はほとんどなにも成果を上げることができない一方で、莫大な赤字を垂れ流してきた。1期目は1200万円、2期に2億5000万円、3期に3億1000万円、4期と5期にそれぞれ4億3000万円、直近の16年12月期には3億4000万円と、合計約18億円もの赤字を計上してきた。
実際に映画をつくり始めたわけではないのに、なぜ18億もの赤字が出るのか? その金はどこに行ったのか? 疑問を抱かずにはいられないが、こうした赤字を補填してきたのが、前述した経産省の管轄下にある産業革新機構だった。決算公告によると、産業革新機構は2011年に資本金等として6億円を出資した以外に、13年に5億円、14年に11億と、計22億円を拠出している。
このANEWの問題を早くから追及していた映画プロデューサーのヒロ・マスダ氏は自らのブログで、こうしたノーズロな赤字垂れ流しと資金提供の裏に、産業革新機構の人間が、自ら経営者になっている会社に100パーセント出資するという利益相反関係の構造があったことを指摘。〈行政ぐるみで法令及びガイドラインを歪めた巧妙な公金横流しスキーム〉であると批判している。
しかも、話はこれで終わりではなかった。今年5月、このANEWを京都市に本社を置くフューチャーベンチャーキャピタル株式会社という会社に売り渡すことが、産業革新機構から発表されたのだ。しかも、その売却金額は驚くべきものだった。産革は金額の公表を拒否しているが、前出の西岡氏が取材したところ、フューチャー社が「3400万円」であると認めた。
つまり、22億円もの公金をつぎ込んだ官製映画会社が、ただ同然で売り渡されていたのだ。
22億円もの公金を注ぎ込んだ官製映画会社がなぜタダ同然で売り飛ばされた?
産業革新機構は売却の理由を、フューチャー社が〈米国拠点を通じた事業展開を行って〉おり、〈提携による成長可能性を慎重に検討した結果〉としているが、西岡氏のレポートによると、同社は毎年億単位の赤字を計上する一方、コロラドでコンサルタント会社を買収している程度で、ハリウッドに人脈があるとは思えないという。
ようするに、産業革新機構は、22億円の公金の損失をもみ消すために、破格の条件で、事業継続の見込みも考えずに、国民の財産を強引に売り渡した、そういうことだろう。前述のマスダ氏は、本サイトの取材に対しこう指摘する。
「映画をつくっている人からみれば、すぐに“詐欺的”だと気がつきます。産革出身のANEW役員も初期に『私ども産業革新機構は業界についてはまったく素人』などと雑誌で語っていますが、ようは、産革は映画製作における資金調達や投資回収根拠を何一つ示さずまま60億円もの投資決定だけを先行させ、3年後からの投資回収の高い蓋然性を語っていました。またANEWへの公的資金が約束していたことは単なるハリウッド映画投資の金儲けではなく、日本のクリエティブ産業の再生までがセットの話でした。しかし、日本で働く多くの『困っている人』がどう豊かになるかなど一切語られず、反対に『グローバルモデルのニッポンのイノベーションで日本のエンタテイメントが生まれ変わる(anew)』などの無意味な企業理念の言葉だけを並べて暴走しました」
さらに、映画プロデューサーであるマスダ氏は、映画産業の現場の立場から産業革新機構とANEWに苦言を重ねる。
「映画ビジネスにおいて『クールジャパンらしさを追求した事業』の自画自賛など何の価値もなく、あくまでも利益を出した作品のポートフォリオが物を言う世界です。当然、撮影に至った作品映画はゼロ。しかし、産業革新機構は、当初語っていた将来見通しが破綻しようが次々と追加投資を実施し、その大半が自分たちへの高額ボーナスや、都内やLAの一等地の家賃などに消え、決算公告をみると映画開発資産への投資すらろくに行っていませんでした。こんなバカな映画会社経営ができるのは『国の金だから』という甘えにほかならず、このずさんな経営で22億円もの国民財産の毀損させる結果を生みました」
公的資金投資を主導した経産省は、事業失敗を隠し「経営は順調」と虚偽答弁
まさに信じられない国民への背信行為だが、問題は、この産業革新機構のバックにいる経産省の責任だ。
前出のマスダ氏はANEW設立への不適切な公的資金投資には経済産業省が深くかかわっていたことをブログで追及している。前述したANEWの黒川祐介・代表取締役CCO(当時)が、2012年に業界誌のインタビューで「ANEWは数年に渡る経済産業省の企画を経て設立された」と述べ、経産省の伊吹英明・文化情報関連産業課課長(当時)も、同年5月の内閣府コンテンツ強化専門調査会において、ANEW設立のためにロサンゼルスまで出張して聞き取り調査を行ったと述べていた。
また、産業革新機構の出資事業については、産業競争力強化法に基づいて、経産大臣による毎年の業績評価が義務付けられているのだが、経産省はANEWの問題点について一切ふれておらず、プロジェクトに進展があったかのような答弁を繰り返してきた。マスダ氏もこう疑義を呈する。
「ANEWの設立に密に関与し、職員まで出向させ、毎年法令による業績評価を行い、さらに国会で「経営は順調」という趣旨の答弁をしていた経産省が、経営実態を知らないはずがない。わざと自分たちで主導したクールジャパン施策の失敗を国民に知られぬよう公表を避けてきたんだと疑わざるをえません。また代表取締役、取締役、社外取締役、監査役、取締役会、株主総会のほとんどが産業革新機構という“身内”で構成したガバナンスの効きにくい経営体制を知りながら、法令に定められた公文書に虚偽を記載し、あたかも官民ファンドのガイドラインに沿った経営体制が組まれていたかのようにごまかす工作まで行っています。さらに監督官庁でありながら映画について何の知識もないと思われる職員を出向させるような監督体制があったために『本来行ってはいけない投資』が『適正な投資』みたいにされてきたんだと思います」
しかし経産省はこうした責任追及の声に、一切、ほおかむりをしている。
マスダ氏によると、経済産業省に対して情報公開請求を行ったところ、経済産業省はANEW設立に関する公文書は確認できないとして不開示決定を行った。また、産業革新機構が経済産業大臣に提出した『日本コンテンツの海外展開推進会社設立について』の資料は開示されたが、産業革新機構のロゴ以外すべて黒塗りになっていたという。
戦犯の経産官僚は伊吹文明の息子、22億円の公金を捨てたのに大出世
「経産省はANEW設立当初、ANEWのノウハウを日本の産業に幅広く還元するということで公的資金投資の社会的意義を認めていました。しかし、立場が悪くなると『ANEWの競争上の地位など正統な利益を妨げるおそれがあると認められる』と相反する理由で情報開示を拒否する処分を下しています。また、どんなにANEWの経営責任者や担当課課長の発言などの証拠があっても、それは個人的立場の意見に過ぎないと関与を否定し『行政文書は存在しない』としています。それでもANEWの損失だけは一方的に国民が負担させられる仕組みです。これでは、どれだけ行政がタッチしていようが、官民ファンドを経由させて『民間事業』を装えば、公的資金の流れが完全に不透明化されてしまいます」(マスダ氏)
まさに、森友学園問題や加計学園問題を彷彿とさせる情報隠蔽だが、さらに信じられないのは、このANEWの企画者で最大の“戦犯”である経産省の伊吹文化情報関連産業課長(当時)が、責任をとらされるどころか、大出世していたことだ。前述の西岡氏はこう解説する。
「この文化情報産業課課長のあと、クール・ジャパン海外戦略室長に昇格。現在は商務流通保安グループの参事官として大阪万博を担当している。22億円の公的資金をドブに捨ててしまった官僚が、日本のクールジャパンの責任者になって、万博を仕切る存在になっているんですから、あきれてものもいえません。しかも、伊吹氏は自民党の大物・伊吹文明氏の長男なんですが、省内では『将来の次官候補』という声まであるんです。ようするに、22億円の公的資金損失なんて、経産省にとってどうでもいいということなんでしょう。実際、クールジャパンをめぐっては、他にもいろんな疑惑がささやかれいてる」
クールジャパンだけではない。経産省は現在、安倍政権下で重用され、さまざまな成長戦略を主導しているが、こうした政策についても、裏では同省の税金を使ったやりたい放題、自省の利権化が横行していることがささやかれているのだ。
さらにコンテンツ関連では気になるのが、政府が最近、明治維新150年の記念事業としてぶちあげた、明治期の国づくりなどを題材とした映画やテレビ支援の計画だ。戦時中のプロパガンダ映画を彷彿とさせるこの計画だが、明治礼賛、極右思想の宣伝という問題だけでなく、公的資金、血税を使って安倍首相周りに極右勢力に利権が分配される危険性もおおいにある。
この政権の周りには、森友や加計と同じようなレベルの疑惑がゴロゴロ転がっている。メディアは「成長戦略」「規制改革」といった言葉に惑わされず、その正体を徹底的に検証していく必要がある。
(編集部)
最終更新:2017.12.07 06:14
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