警視庁が「春画」掲載の週刊誌4誌にわいせつ注意するも「週刊文春」だけはお咎めなし! その理由は…

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警視庁に口頭注意をうけたうちの1誌である小学館の「週刊ポスト」は15年10月30日号で「あえて問う!春画は「わいせつ物」か「日本の文化」か」という特集を組んでいる

 先ごろ、「週刊ポスト」(小学館)、「週刊現代」(講談社)、「週刊大衆」(双葉社)、「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)の4誌が警視庁により口頭指導を受けていたとの報道がなされた。春画の画像を掲載していたことがわいせつ図画頒布罪に当たる可能性があるとして行われた注意であるという。

 イギリス・大英博物館での春画展は大反響を呼び、9月19日から永青文庫で開かれている春画展も連日行列が絶えない。春画はいまや、日本のみならず世界でも芸術と認められ、単なるポルノグラフィーと捉える見方のほうが時代遅れとなりつつある。にもかかわらず取り締まりの姿勢を見せるとは……警察組織の旧態依然とした感性が露呈してしまったかたちか。

 だが、ここで気になることがある、先ほどあげた4誌のなかに、先日、春画特集を掲載したことが松井清人社長の逆鱗に触れ、新谷学編集長が3カ月の休養処分を命じられた「週刊文春」(文藝春秋)が入っていないのだ。

 報道によれば、警視庁保安課は春画を単体ではわいせつとしては捉えていないが、4誌は同じ号にヌードや下着姿の女性のグラビア写真を掲載していたため、「春画のわいせつ性が強調されている」と判断したのだという。一方、「週刊文春」は春画を掲載しているが、ヌードグラビアが掲載されていないので、注意の対象にならなかったということらしい。

 そんなところから、文春社内では、「警視庁もわいせつではないとした記事を社長が問題にしたわけで、やはり過剰反応だった」という議論が再燃しているという。
 
 しかし、一方で、警視庁が「文春」のみ不問にした背景には裏があったのではないか、という噂も流れている。というのも、今回の警視庁の説明があまりに説得力がないからだ。

 4誌の春画掲載を問題にしたのは、同時にヌードグラビアを載せていたからだというが、春画そのものにわいせつ性がないなら、他の企画がどうあろうと、わいせつ性は成立しないはず。逆に、ヌードグラビアがわいせつならば、春画の掲載不掲載にかかわらず、注意をするはずが、その形跡はない。

 そんなところから、「文春は自主的に編集長の処分をしたので、警視庁からおとがめなしで終わったんじゃないか」、さらには、「警視庁の動きを知った文春上層部が注意処分を受けないためには先手を打ったんじゃないか」という見方も流れている。

「週刊文春」が編集長休養騒動を起こしたときに配信した記事をここに再録するので、今回の件の裏側には何が潜んでいるのか、思いをめぐらせながら読んでみてほしい。
(編集部)

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 発行部数約70万部、日本で一番売れている週刊誌「週刊文春」(文藝春秋)に大激震が走った。なんと、2015年10月8日号の内容が問題視され、新谷学編集長が3ヵ月間の強制休養を言い渡されたというのだ。

 もしかして、マルコ・ポーロ事件のようなタブーネタに触れてしまったのか? あるいは差別表現で抗議でも受けたのか。それとも、安倍首相や菅官房長官との緊密な関係が噂になっていた新谷編集長のこと、官邸リークで露骨な記事を書きすぎると問題になったのか。業界は一時、騒然となったが、真相はなんとも拍子抜けするものだった。

 原因は、同号に掲載された特集「空前のブーム到来!春画入門」とグラビア「日本美術の粋 めくるめく春画世界への誘い」。そう。春画の記事を載せたことが「けしからん!」と社長の怒りを買ってしまったらしいのだ。

 今日8日、「週刊文春」編集会議の場に松井清人社長自らが姿を現し、編集部員全員に向かって、春画を取り上げたことは文春の品位、伝統を壊すものだと説教。そして、その場で編集長の休養を発表したという。

 松井社長が特に問題視したのは、性器が挿入された局部を載せたということ。ポスト、現代がヘアヌードブームに乗っていた頃も、かたくなにヌードの掲載を拒否して、品位を守ってきたのに、何事か、ということらしい。

 しかし、松井社長は現代における春画の位相をご存知ないのではないか。春画はもはやポルノグラフィーではない。13年に大英博物館でおこなわれた「春画――日本美術の性とたのしみ」は、9万人もの来場者を記録。世界が認める「芸術」なのだ。専門的な研究もあり、「美術手帖」(美術出版社)、「芸術新潮」(新潮社)といった美術専門誌でも特集が組まれている。

 今回、「文春」で松井社長が問題視した当該の記事だって読めば大したことはない。カラーグラビアで掲載されている春画は、喜多川歌麿「歌満くら」、歌川国貞「艶紫娯拾余帖」、葛飾北斎「喜能会之故真通」。どれも、春画を代表する傑作だ。葛飾北斎「喜能会之故真通」は春画に詳しくない人でも一度は見たことがあるかもしれない。

 また、そのグラビアに付随して、春画が生まれ発展していった歴史的経緯を簡潔にまとめたコラムや、日本で初めて春画をテーマに博士号を取得した石上阿希氏が女性でも楽しめる春画の魅力を解説したコラムなど、春画初心者にもやさしい、ほどよく学術的な記事にまとまっている。さらには、今回「春画展」を開催する永青文庫理事長の細川護煕元首相からのコメントもあり、雑誌の品位を落とすような意図はまったく見えない、むしろ、春画という伝統と芸術への敬意に満ちた良記事といえる。

 松井社長は「局部を載せた」のが問題ということだが、90年代をむかえた頃、『艶本研究国貞』(河出書房新社)、『浮世絵秘蔵名品集』(学習研究社)といった書籍に無修正で掲載されて以降、出版物において春画の局部にモザイクなどの修正を加えることは基本的にない。これも今の時代では、みだりに性的欲求を刺激するものというより、「芸術作品」「学術的な資料」としての価値が認められるようになったからだ。

 実は、文藝春秋でも無修正の春画が掲載された本が出版されている。最近、時代小説家である車浮代さんが著した『春画入門』という新書を発売したが、同書には、葛飾北斎の「喜能会之故真通」が一切の修正なしでかなり大きい扱いで掲載されていた。ひょっとして、松井社長は自分の会社からどんな本が刊行されているのかすら把握できていないのだろうか。

 というか、そもそも「週刊文春」という雑誌は、松井社長のいうようなそんな品位のある雑誌だっただろうか? 特集記事ではしょっちゅう、他人の下半身をあげつらった記事を掲載し、「淑女の雑誌から」という、女性誌からエロ記事を集めた連載もあれば、みうらじゅん「人生エロエロ」という下ネタエッセイの連載もある。これは貶しているわけではない。政治家を追い詰めるような鋭い記事をやれば、そういう下半身ネタもやる、そこが週刊誌の幅であり、良さではないか。

 たしかに、松井社長は以前から社内でも権威主義者、ゴリゴリのタカ派として有名で、編集長時代には「雑誌らしい遊びのある記事をつくれないし、自分の価値観を押しつける」という悪評もあった。

 しかし、今の彼はできるだけ現場にクリエイティブな能力を発揮させるのが仕事の、社長というポジションなのだ。それがこの程度の記事で、現場に介入し、編集長にいきなり3ヵ月の休養処分を下すというのは、いくらなんでも独裁者すぎるだろう。しかも、今や芸術として扱われている春画に怒り狂うというのは、ちょっとズレているとしか思えない。

 又吉直樹の『火花』ブームでいまは調子の良い文藝春秋だが、他の単行本や「週刊文春」はじめとする雑誌の売れ行きはけっして芳しくない。社長がこんな調子で、先行き大丈夫なのだろうか。
(田部祥太)

最終更新:2015.10.20 12:46

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