川崎中1殺害事件の主犯少年は「凶悪」「不良」ではなかった!? マスコミ報道の嘘

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川崎市の中1殺害事件について伝える日本国内のニュース(画像はYouTube「ANNnewsCH」より)


 川崎市の中学1年生・上村遼太くん(13)殺害事件は、未成年の不良グループ3人が逮捕されたことで、さらなる衝撃と波紋をもって受け止められている。マスコミもまたこの事件を大きく取り上げ、「週刊新潮」(新潮社)3月12日号では18歳の主犯格と目される加害者少年Aの実名と顔写真を掲載し物議を醸した。

 過熱する一方のマスコミ報道だが、各社が特に力を注いでいるのが主犯少年Aの人物像についてだ。家族構成や生い立ち、凶暴な性格などを競うようにして取材、掲載している。

 しかし、マスコミによって描かれるAの人物像にはかなりの違いが生じている。

 その典型的な例として「週刊文春」(文藝春秋)3月12日号と「FRIDAY」(講談社)3月20日号を比較検討してみたい。

「週刊文春」は「川崎中1上村遼太君惨殺「鬼畜」18歳少年Aの素顔」と題しトップ扱いでこの事件を報じている。そこに描かれるAの素顔はタイトル通り「鬼畜」そのものだ。

 Aは地元の後輩たちには怖い存在として有名だったという。

「Aは怖い先輩でした。深夜に俺の友達が歩いている時に酔っぱらったAからペットボトルを投げつけられたといいます」(中2の証言)

 また、Aはエアガンや特殊警棒、カッターナイフなどの武器を常に持ち歩き、近所からも恐れられ、鼻つまみものだったことを数々の証言から浮かび上がらせる。

 一方で中学時代は不良グループの“パシリ”として強い仲間からは万引きをさせられたり、誰にも相手にされず、そのため虚勢を張り、自分より年下で弱い人間とつるみ従わせていった。手癖も悪くバイクの盗難、頻繁な万引きを行っていた。強者には弱く弱者にはひたすら高圧的なAの凶暴さを強調する。

 また、A本人だけではなく両親に対しても同様だ。近所付き合いもなく、フィリピン人の母親がホステスをしていたことや、当時はフィリピン人ホステス仲間を大勢連れて帰り、酔っぱらって酒盛りをしていたこと。パンチパーマの父親も何かトラブルがあると学校にまで乗り込みAとトラブルになった中学生を怒鳴り、ヤキを入れたというエピソードを掲載している。

 劣悪な環境で育ち、地元では不良として有名で粗暴で凶悪──。そんなAの素顔が描かれる。

 だが一方の「FRIDAY」を読むと、その様相は一転する。「FRIDAY」はAを知る複数の人間たちからこんな証言を得たという。「Aは不良でない」と。

 さらに、殺害された上村くんが事件当日自ら「遊びましょう」と連絡したことなど、いくつもの不自然な点があると指摘する。また、Aが後輩たちに万引きを強要していたことに関しても、その事実を否定する証言を掲載している。

「A君から『万引きをしてこい』と命令されたこと? 一度もないですよ。(略)むしろ僕らに牛丼をおごったりしてくれましたよ。(略)(上村くんを)無理矢理連れ回していたことなんてありません」(同じグループの少年)

 さらに酒を飲むと人が変わることは事実だが、事件前の1月14日に上村くんを殴ったのはこの一度だけで、その後は反省し、後輩の前では酒を飲まないと言ってその後も上村くんと普通に遊んでいたというのだ。

 だがAが上村くんへの暴行を謝ったことを知らない別のグループが介入してきたことで、Aは逆に怯え、LINEをブロックし、家に閉じこもるなど相当追いつめられていたという。同じグループの仲間は犯行動機についてこんなコメントを出している。

「A君が『チクられた』とカミソン(上村君)を恨んでいたのは、『あのとき一度謝ったのに。なんで』という思いだったんじゃないでしょうか」

 もちろん「週刊文春」にも他グループの介入が事件の動機になったのではないかということは記されている。しかしAの全体的なイメージに対する温度差は2誌を比較すると明らかだろう。

 いまのところ、「FRIDAY」の記事が正しいかどうかを断定することはできないが、現在マスコミで盛んに流されているのは「週刊文春」で描かれるAの凶悪さ、鬼畜ぶりを強調するほうが圧倒的多数だ。しかし、これには背景にマスコミの意図的誘導が存在する。

「こうした未成年の凶悪事件が起こると、週刊誌による加害者のプライバシー暴露や過剰なバッシングが起こります。もちろん事件の背景や再犯防止のためには、ある程度、必要なものでもある。しかし、多くのマスコミの本音は凶悪犯罪を犯した未成年の犯人を吊るしあげることで、少年法に対する疑問を呈し、未成年者にさらなる厳罰を望む方向に世論をもっていきたいという意図が大きい。凶悪な事件を犯した人間は、年齢など関係ない。そんな人間に人権はない。少年法などというものはなくすべきだ、とね」(少年犯罪を取材するジャーナリスト)

 特にその筆頭が「週刊新潮」であり、「週刊文春」といった保守系週刊誌メディアだ。その論調には、少年法に謳われる「未成年者の更正」という視点はひとつもない。逆に未成年の凶悪犯罪が起こるたびに、それを利用しようとしているのが、これらメディアの本音なのだ。

 だが、言っておくが未成年者の凶悪犯罪自体、1960年代ごろをピークに半数以下に減少しているのだ。しかし、そんなことはおかまいなしの意図的な記事が氾濫している。

 少年犯罪に対するマスコミ報道、いや、犯罪事件全体の報道に対し、読者側も報じる側の“ウラの意図”を読み取る必要があるだろう。
(伊勢崎馨)

最終更新:2017.12.19 10:06

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