沖縄は米軍基地を阻止できるか? 翁長新知事に立ちはだかる日米密約の闇

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沖縄知事選で勝利した翁長雄志氏(「オナガ雄志オフィシャルWEBサイト」より)


 基地問題を最大の争点とした沖縄知事選が16日投開票され、前那覇市長・翁長雄志氏が当選した。翁長氏は「辺野古埋め立て断固阻止」、「オスプレイの配備撤回」を公約とし、序盤から優勢のまま最後まで勝ちきった。中央からのカネよりも基地廃絶──沖縄の世論が鮮明に反映されたかたちだ。

 しかし、今後も基地問題は一筋縄にはいかないだろう。自民党の菅義偉官房長は今年9月、「(辺野古埋め立ては)過去の問題」「淡々と進めていくことにかわりはない」と会見で語るなど、中央行政はあくまで辺野古埋め立てを強行する構えだ。

 翁長新知事は本当にこれに抗することができるのか。記憶に新しいところでは、「最低でも県外」を掲げた鳩山由紀夫民主党代表(当時)や、2010年に県外移設を公約に掲げ再選した仲井眞弘多前沖縄知事が、後になって公約を翻している。一体彼らは何に押し切られてしまったのか。

 そもそも、この国を動かしている官僚たちは、必ずしも首相や首長に追従するわけではない。彼らが忠誠を誓っているのは、日本の国内権力よりもより強大な枠組みだ。その場所で、国民の与り知らぬまま、様々な“取り決め”がなされているのである。

 この謎を解き明かすのが『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(矢部宏治/集英社インターナショナル)だ。本書によれば、わが国には国内法や憲法までも優越する“ウラの法体系”と呼ぶべきものが存在するという。

 その一例が、日米安全保障条約と日米地位協定、そして、人知れず合意される“密約”の数々だ。たとえば1952年に発行された旧安保条約は占領時代の米軍特権を継承していたが、60年の安保改定の際、ときの首相・岸信介の盟友であった外務大臣・藤山愛一郎と駐日アメリカ大使・マッカーサー2世との間で、秘密裏にある合意がなされていた。

 それは「基地の権利に関する密約」と呼ばれ、“旧安保下での取り決めと、新安保下での取り決めにはまったく変わりがない”というものであった。3年前の57年には、日本のアメリカ大使館から本国の国務省あてに、以下の内容の秘密報告書が送られていたことが分かっている。

〈安保条約のもとでは、日本政府とのいかなる相談もなしに「極東における国際の平和と安全の維持に寄与」するため米軍を使うことができる〉
〈新しい基地についての条件を決める権利も、現存する基地を保持し続ける権利も、米軍の判断にゆだねられている〉

 この二つの秘密文書が指し示すのは、オスプレイ配置や普天間基地移設にまつわる“謎”の原点と、今日にいたるまで占領時代の米軍基地特権が脈々と引き継がれているという事実である。とりわけ日米地位協定を巡っては、日本の官僚と米軍が「日米合同委員会」と呼ばれる組織のなかで毎月会議をしている。その密室で生まれた数々の“合意”が、原則未公開のまま効力を発揮しているのだ。

 沖縄に限ったことではない。たとえば首都圏にも横田空域という米軍管理の巨大空域があり、米軍機が墜落事故を起こせば、日本側がその区域に立ち入ることはできない。つまり、潜在的には日本全土が“治外法権”となる可能性があるのだ。

 本書によると、この基地という名の“秘密のドア”から、米軍関係者やCIAがフリーパスで出入りしている可能性が高いという。つまり、日本には“国境もない”──そう、法治国家としての主権など、虚構だったというのである。

 何も大げさに言っているわけではない。まず、日米安保などの条約は、上で挙げた“密約”もふくめて、国際法上で効力を持っている。これらが日本国憲法や国内法の上位に位置するのは、わが国の司法論理の帰結なのである。

 というのも、在日米軍が合憲か問われた砂川事件最高裁(1959年)で、司法は違憲立法審査権を放棄する判決をだしているからだ。このとき「高度の政治性を有するもの」は「裁量権の限界」とする「統治行為論」によって、「高度の政治性」の適用次第で司法を停止させる力があることが法的に確定したのである。しかも、「この砂川裁判の全プロセスが、検察や日本政府の方針、最高裁の判決まで含めて、最初から最後まで、基地をどうしても日本に置きつづけたいアメリカ政府のシナリオのもとに、その指示と誘導によって進行した」ことが、2006年に公開されたアメリカの公文書によって明らかになっている。

 その結果、外務官僚や法務官僚たちは“オモテの法体系”を軽視するようになった。「米軍再編」や「脱原発」を訴えても、外務省やアメリカがそれを認めなければ、一国の首相でさえも身動きがとれなくなるのである。鳩山の辞任劇にもこうした力が働いていたわけだ。

 さらに本書によれば、実は原発の問題もまた基地問題とよく似た構図になっているのだという。「安全神話」のもとで発生した未曾有の大事故。欧州では3.11をきっかけとして、多くの国がエネルギー政策を転換した。にもかかわらず、当事国である日本の政府は原発再稼働を既定路線としている。この異常としかいいようがない事態の背景にも、やはりウラ側が存在する。

 たとえば、2012年6月に改正された原子力基本法には、「基本方針」である第二条のなかに〈我が国の安全保障に資することを目的として〉という文言が盛り込まれている。

「砂川裁判最高裁判決によって、安全保障に関する問題には法的なコントロールがおよばないということが確定しています。つまり簡単にいうと、(中略)震災後は『統治行為論』によって免罪されることになったわけです」(同書)

 つまり、原発に関しても「高度の政治性を有するもの」として、官僚の手中におさめられる可能性があるのである。では、仮にシナリオが履行されたとき、官僚が従う“ウラの最高法規”はどのようなものであろうか?

「その後調べると日米原子力協定という日米間の協定があって、これが日米地位協定とそっくりな法的構造を持っていることがわかりました。(中略)米軍基地の問題と同じで、日本側だけでは何も決められないようになっているのです。条文を詳しく分析した専門家に言わせると、アメリカ側の了承なしに日本側だけで決めていいのは電気料金だけだそうです」(同書)

 まだ明らかになっていない“原発密約”も数多く結ばれているはずだ。そう著者は続ける。にわかに鵜呑みにしがたい話だが、たしかに、原子力に関する“密約”が行われてきたことに関しては事実である。日本は建前上、非核三原則を打ち出す非保有国であるが、アメリカは冷戦下における共産圏への牽制として、当然日本の領土に核兵器を配備したかったのは間違いない。日本政府は公的に認めていないが、実際に近年、様々な角度から“核密約”の存在が明らかにされている。

 共同通信編集委員の太田昌克によれば、岸信介は60年安保時に、マッカーサー2世らとの間で、核搭載戦艦の通過や寄港は事前協議の対象としないとする密約を交わした(「『3.11』──日米核同盟の帰結」/岩波書店「世界」2012年6月号)。また、佐藤栄作の密使・若泉敬は自著『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(文藝春秋)で、69年ホワイトハウスでの首脳会談において、佐藤栄作とニクソンが二人きりの密室のなか、沖縄核持ち込みの密約を交わしたと証言している。なお、2009年には、密約文書の実物が佐藤の親族宅に保管されていたことが判明している。

 他方アメリカは被爆国である日本の“核アレルギー”の緩和策として、積極的に“原子力の平和利用”を喧伝してきたことは周知の通り。つまり、“安全保障上の問題=核”と、“原子力の平和利用=原発”は双子のような関係だったのだ。ゆえに“核密約”だけでなく、原発に関しても国民の知らぬところで、なんらかの“日米合意”が存在している可能性は極めて高い。

 憲法を超越したウラの法体系──この倒錯した構造を変えるにはどうすればよいのか。残念ながら現在の自民党政権では100%不可能であると断言できる。

 今回の安倍政権の「解散風」を見るだけでも、どこか様子がおかしいことに気がつかねばならない。建前はアベノミクスの是非であるが、本来は経済政策とともに、原発問題や米軍基地、集団的自衛権行使容認などの外交政策を総合考慮した評価が問われるべきところ。だが、これらを争点として取り上げるメディアは皆無だ。まるで、原発再稼働や日米地位協定、そして集団的自衛権行使容認が、アンタッチャブルな“合意”のもとに進められる既定路線であるかのように……。

 はたして、岸信介の孫、安倍晋三に、安保や密約の取り決めを清算することができるだろうか。少なくとも安倍政権はこうした“合意”を、特定秘密保護法を用いてなおさら隠匿しようともくろんでいるようにしか見えない。

 ひっきょう、安倍が“ウラの最高法規”にメスを入れずにおくならば、彼のいう「美しい日本」は、もはや法治国家ではなく、民主主義国家でもないのだろう。よくよく考えてみるべきだ。
(梶田陽介)

最終更新:2015.01.19 04:13

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