ピース又吉『火花』が芥川賞を受賞…でも一方で“芸人生命”はもう終わりとの声も!

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 又吉の「火花」が掲載されたのは、先日発売された「文學界」2月号(文藝春秋)。創刊82年の歴史を誇る「文學界」でも史上初の増刷がかかったことがニュースとなったが、雑誌が増刷されること自体が異例だ。

 本好きで知られ純文学にも造詣が深い又吉だが、じつはここ数年の出版界は“神様、仏様、又吉様”ともいえる状態。本の帯はもちろん、文庫の解説、書評にエッセイ、インタビューと、書籍から雑誌まで又吉は引っぱりだこで、今回の小説も「傑作」「久しぶりの大型新人作家の登場」と絶賛の声が相次ぎ、早くも「文春は芥川賞と直木賞のどちらをとらせるつもりなのか」という論議になっているほどなのだ。

 たしかに、その作品を読んでみると、よくある“お笑い芸人が小説書いてみました”というレベルからは一歩抜きん出ている。

 主人公は、駆け出しのお笑い芸人である徳永。徳永は、熱海で開かれた花火大会の営業に出た際、意味不明なことを怒鳴り散らしている芸人・神谷と出会う。神谷は徳永より4歳年上で所属事務所も違うが、飲み会の流れで2人は師弟関係になる。〈芸人的なセンスは、師弟関係にある自分でさえも贔屓目なしで不安になるほど突出していた。その反面、人間関係の不器用さも際立っていた〉神谷と、〈自分の発言が誤解を招き誰かを傷つけてしまうことを恐れていた〉徳永。この2人のやりとりが、物語の主旋律となっている。

 主人公がお笑い芸人であることから「又吉の自伝的小説?」と思う人もいるかもしれないが、さにあらず。基調は青春小説だが、理想とする表現と現実の自分の才能との齟齬や、自分の表現が世間に届かないことの焦燥を丹念に描き、お笑いとは何か、ひいてはあらゆる芸術、表現がどうあるべきかを又吉は作品を通じて問いかける。

 たとえば、〈誰もが知っている言葉を用いて、想像もつかないような破壊を実践する〉神谷は、理想とする表現のかたちを徳永に語る。

〈一つだけの基準を持って何かを測ろうとすると眼がくらんでまうねん。たとえば、共感至上主義の奴達って気持ち悪いやん? 共感って確かに心地いいねんけど、共感の部分が最も目立つもので、飛び抜けて面白いものって皆無やもんな。阿呆でもわかるから、依存しやすい強い感覚ではあるんやけど、創作に携わる人間はどこかで卒業せなあかんやろ〉
〈新しい発想というのは刺激的な快感をもたらしてくれるけど、所詮は途上やねん。せやから面白いねんけど、成熟させずに捨てるなんて、ごっつもったいないで。新しく生まれる発想の快感だけ求めるのって、それは伸び始めた枝を途中でポキンと折る行為に等しいねん。だから、鬱陶しい年寄りの批評家が多い分野はほとんどが衰退する。確立するまで、待てばいいのにな〉

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