やしきたかじんが口を閉ざしていた「在日」のルーツに迫る評伝が出版

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 芸能界に入る前、たかじんは友人であり、後に彼の詞を書くことになる荒木十章に泣きながら「実は親父は韓国やねん」と語ったことがあった。荒木は本書の中でこんな推察をしている。

「親父が在日韓国人というのはコンプレックスになってたんでしょうね。当時のことやから、就職のことなんかを考えると、しんどいなというのはあったと思うんです」

 しかも、当時の時代背景もあったのだろう、父親は息子たちの将来を案じ、日本人の母親とは籍をいれなかったのだという。

「つまりたかじんは、母親の私生児であり、日韓のハーフである」

 本書が書いたこのことは彼の生まれ育った大阪西成の在日社会ではよく知られていたらしい。しかし、たかじんは芸能界に入ってから、そのことを周囲にも一切語ることはなかった。それどころか「たかじんにとっては最も触れられたくない事柄」であり、それはたかじんに大きな影を落としたことさえうかがえる。

 生前、本人が決して明かそうとしなかった“出自”に踏み込んだことについて、著者の角岡氏は小学館ノンフィション優秀賞の贈呈式でこう述べている。

「たかじんさんが隠していたことを書くということは、すごいプレッシャーでした。僕自身は部落出身ですが、人のルーツを書く時はナーバスにならざるを得ない」

 だが、角岡はそこにあえて踏み込んだ。おそらく、それこそが最近の政治へのコミットも含めたたかじんという男の生き方を解き明かす鍵だと考えたからだろう。本書でも指摘されているように、包茎手術の経験までテレビで語るなど私生活を全部晒し、『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)というタブーなき番組の司会者もつとめて、過激な発言を連発していたたたかじんが、出自というタブーを抱え込んだままだったというのはあまりに意外に映る。

 たかじんが亡くなってしまった今、その理由を明確に答えることが出来る人はいない。しかし『そこまで言って委員会』の常連出演者であり在日三世の朴一は角岡の取材に対し、「一緒だった」と推測している。

「朝鮮半島出身の元力士でプロレスラーの力道山は、力士時代に出世の障害になるからという親方の判断で、通名を与えられ、出自も長崎出身に書き換えられた。プロレスラーとして成功しても、その嘘を貫き通そうとした。同胞には『隠していかないと生きていけなかったんだ。わしが朝鮮人だと言ってみろ、ファンがどれだけ落胆するか』」
「たかじんは力道山と同じように視聴者の反応を気にしていたのではないか」

 だが、これもまた、完全な答えにはなっていないような気がする。そして答えを見つけようとしても、たかじんは自らのタブーを最後まで隠したまま逝ってしまった。

「在日」という言葉がとても簡単に、しかも戦時中の「非国民」と同じような意味で使われるようになってしまったこの時代、その言葉がいかにひとりの人間に深く重いものを与えているか、そのことを改めて認識させてくれる一冊だ。
(一場 等)

【考察!人間・やしきたかじん→(第1弾)(第2弾)

最終更新:2015.01.19 05:44

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ゆめいらんかね やしきたかじん伝

新着芸能・エンタメスキャンダルビジネス社会カルチャーくらし

やしきたかじんが口を閉ざしていた「在日」のルーツに迫る評伝が出版のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。やしきたかじんタブー一場 等の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 桜前夜祭で安倍事務所が有権者に大量の酒、サントリーが無償提供
2 極右ヘイトの企業経営者総まくり(後)
3 れいわから出馬 水道橋博士が主張する「反スラップ訴訟法」の重要性!
4 大阪のオミクロン死者急増も松井市長はウザ絡みに夢中、水道橋博士に訴訟恫喝
5 極右ヘイトの企業経営者総まくり(前)
6 泉ピン子“五輪聖火リレー検討委”の裏
7 葵つかさが「松潤とは終わった」と
8 不正入札、リニア新幹線はアベ友利権だ
9 維新に反省なし!女性蔑視の石井議員は開き直り、松井代表は経歴詐称を擁護
10 町山、ロマン、水道橋、春日、豪の論戦
11 吉村知事への批判がテレビでも…北村教授、日本城タクシー社長、小木博明も
12 自公維の「国民投票法改正案」に批判の声!小泉今日子も反対表明
13 古市憲寿が政府のコロナ対策を検証する「有識者会議」入りで疑問の声
14 「報道の自由度ランキング」下落報道でNHKが政権忖度し削除した文言
15 ICANノーベル賞授賞式を日本マスコミが無視
16 吉村知事肝いりの大規模入院施設の利用率が最大7%で閉鎖
17 昭和の名作裏ビデオ史
18 乃木坂46橋本奈々未が背負った貧困
19 安倍晋三「桜前夜祭」事件で秘書が「違法性を認識していた」と供述!
20 痴漢しても中島裕翔のドラマは放送開始
1桜前夜祭で安倍事務所が有権者に大量の酒、サントリーが無償提供
2自公維の「国民投票法改正案」に批判の声!小泉今日子も反対表明
3維新に反省なし!女性蔑視の石井議員は開き直り、松井代表は経歴詐称を擁護
4 れいわから出馬 水道橋博士が主張する「反スラップ訴訟法」の重要性!
マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄