偏差値50の高校が開成、灘を制して“頭脳の格闘技”日本一になった理由

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「部をはじめた当初は、少人数で初心者ばかりだったからつきっきりで教えていた」という藤原氏だが、部員が増えたことにより「全員に均等に時間をとって教えることは難しい」と、マネジメントに徹するようになった。また、指さないのは「自分の年齢が生徒の2倍以上になり、現役から遠くなった」ためでもあるという。割と消極的な理由なのである。

 だが、一方で部員たちが将棋に打ち込める環境づくりは徹底している。特徴的なのは、「開始の合図もなければ終了の挨拶もなし。ミーティングもおこなわない。特別な練習メニューは設けず、それぞれがその日のコンディションに合わせてやりたいことをやる」という、個人の裁量を任せた運営だ。さらに、「部内の人間関係にはムダな緊張感を生まないように」という思いから“上下関係は作らない”ようにもしている。そのため、部内の雰囲気は非常にユルい。中高一貫校であるため中学生もいるが、そうした部員も実力があれば気兼ねなく高校生に混じって練習するという、自由闊達な風土がつくられた。

 大会の攻略法としては、「大会当日に最高のコンディションを持ってくるようなスケジューリングをする」ために、2週間前に合宿を行い、プロ棋士に集中的に指導対局をしてもらうほか、「横のつながりを強化」し、部員それぞれが“高校将棋選手権で優勝”という同じ目標を見据えることができるようにする。加えて、ユニークなのが「ベストな宿を予約する」こと。「会場に近い10000円の宿と、遠いけれど5000円の宿があったとしたら、絶対に近くのほうがいい」と藤原氏はいう。“攻略法”も、部の環境づくりと同じく、あくまでも部員たちが本番で力を出し切れるような“調整”に近いのだ。

 また、岩手高校将棋部の一種風変わりなモットーは、まだある。まず、「遠征は自前の車で行く」。これは「優勝旗を積み込んで帰るため」。優勝旗を取ったらどうするか、と生徒に問われたとき「持って帰る用意はあるぞ」と最初から言っておけば生徒のやる気も違ってくるからだ。そして、「優勝旗の前で記念撮影しない」。せっかくだから記念に一枚撮りたい気持ちはよくわかるが、「それはこれから優勝旗とお別れする、つまり『負ける』と言っているようなもの」なのだ。……これらのモットーも先の攻略法などと同様で、具体的な指導を行うというものとは異なっており、むしろ部員たちのメンタルを弱らせない、追い風を吹かせる効果を重視している。

 つきっきりで指導するのではなく、あくまでも部員たちのやる気にまかせ、気持ちを高めていく。それが、岩手高校将棋部を日本一に導いたのである。こうした考え方は、もしかしたら勉強にも応用できるのではないだろうか。

 がんじがらめの時間割で強制的に勉強させるよりも、生徒たちの自主性に任せ、集中できる環境をつくり、気持ちを高めることで、目覚ましい成長をうながす。“頭脳の格闘技”において、灘や開成をしのぐ実績を築き上げた岩手高校将棋部には、そんな“学習メソッド”が詰まっている。──「学力の向上」を掲げながら“愛国心”を育むための道徳教育や、全国一斉学力テストの学校別の結果公表、土曜の授業化など、効果が不透明な教育改革を進める安倍首相には、ぜひ本書を読んで、真の改革とはいかなるものかを学んでほしいものだ。
(寺西京子)

最終更新:2018.10.18 05:38

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