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横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」⑧
小池百合子都知事の“好意的記者”ランキング! トランプそっくり、会見でお気に入りの記者ばかりを指名
データから浮かび上がった小池百合子都知事によるメディアコントロール
批判的な記者の質問を受け付けない一方、友好的なメディアを優遇するトランプ大統領と瓜二つなのが、総理大臣待望論が出始めた人気抜群の小池百合子・東京都知事だ。知事就任から半年経った今も“小池劇場”は健在で、安倍政権を超える7割超えの支持率の原動力になってもいるが、メディアコントロール(記者選別による批判的報道の抑制)の産物でもあるといえる。CNNテレビの記者の質問を遮りつつ、「好意的な記者を見つけたい」と言いながら保守系FOXのニュース番組を称賛するトランプ大統領と同じような差別的対応をしていることは、私が小池都知事就任の2016年8月から2017年2月24日までの定例会見および臨時会見における記者別指名回数を順位づけした「都知事会見の指名回数順位(“好意的記者”ランキング)」(記事3P目の表参照)を見ると、一目瞭然だ。
2月9日午後、宮城県庁でのフラッグツアーイベントを終えた小池都知事の囲み取材が始まった。このイベントは五輪開催旗(フラッグ)が被災地を回ることで機運を盛り上げるのが目的で、去年11月2日の福島訪問に続いて宮城を訪れ、村井嘉浩県知事とも面談。石巻市などの被災地訪問の感想を聞いた地元記者クラブの幹事社に続いて質問をしたのが、知事会見指名回数1位の日本テレビの久野村有加記者だった。
久野村記者「(岩沼市で)ランドセルを渡した子供たちからお手紙をいただいた時に知事がうるっとこられていたのかなとお見受けしたのですが、あの時のお気持ち、手紙の内容を改めてお伺いしたいのですが」
小池知事「ご家族も被害に遭われた絶望にあった子供たちに、少しでも希望の光がランドセルを通じて与えられたのかなという思いがしました。6年前のことで、やはり被災地で何が必要なのかと思った時に、希望が必要だと思ったのです。その希望はやはり子供たちに抱いて欲しいと思いましたので、それをランドセルに形を変えてお届けをして、良かったなと思っています」
震災直後の6年前に小池知事は岩沼市を訪れてランドセルをプレゼントしたが、その小学生に再会。「今、何年生かな」との問いかけに「6年生です」と答えるやりとりをしながら、「新しいランドセルをもらってうれしかった」という感謝の手紙を受け取っていた。このエピソードを詳しく紹介しようとして、久野村記者は質問したに違いない。
久野村記者は、東京の観光客が宮城にも来る方策についても質問したが、小池都知事がその質問に答え終わった後、私は被災者を苦しめる「入札不調(資材人手不足による工事費高騰)」問題についてこう聞いた。
「五輪関連事業が増えて入札不調が深刻化しているという話を聞いたのですが、そういう被災地の悲鳴は届いていますか。公共事業削減に取り組むお考えはありますか」
しかし、小池都知事は「さまざまなご意見として受け止めさせていただきます」とそっけない回答をしただけだった。
福島・宮城・岩手の被災三県の現実は、未だに仮設住宅暮らしの被災者が少なくないなど、ランドセル贈呈だけで希望が湧くほど甘いものではなかった。岩沼市に続いて訪れた石巻市の日和山公園で小池都知事は、高台から復興状況を確認したが、港周辺の旧市街地跡は更地が多く、防潮堤も途切れ途切れになっていた。
東日本大震災から6年が経とうとしているのに、新しいランドセルに喜んだ小学1年生が卒業目前になった今もなお、復興は道半ばの状況に止まっているのだ。「復興途上なのになぜ五輪なのか」「五輪関連事業で資材・人手の奪い合いになり、被災地復興のマイナス」といった声が被災者から出るのは当然なのだ。
被災地では巨大防潮堤などの大型復興事業が集中、人手・資材不足による工事費高騰や入札不調が深刻化、これに東京五輪関連事業や安倍政権の全国的な公共事業バラマキ(アベノミクスの柱の一つ)が拍車をかけている。“アベ土建政治”が震災復興を遅らせる要因の一つになっているともいえるのだ。
「(震災復興は)オールジャパンで取り組む課題だと思っています」と囲み取材で語った小池都知事だが、東京都として五輪関連事業などの公共事業削減に取り組むと同時に、安倍首相にも「全国的な公共事業抑制(被災地復興事業への集中)」を働きかけることをしようとしないのだ。
数字も被災地の苦境を物語っている。宮城県庁の担当者が差し示した「公共工事設計労務単価変動グラフ」を見ると、建設業界の人件費が1.5倍から2倍程度に上昇。2011年は普通作業員の労務単価が1万1100円だったが、5年後の2016年には1万7500円と1.5倍以上に増加。特に人手不足の型わく工は1万6700円から3万円と2倍近くに跳ね上がっていた。
入札不調も震災前の平成22年度は3.2%であったが、震災直後の平成23年度は22.6%に急増。平成26年度が21.1%、平成27年度も19.4%と解決にはほど遠い。東京五輪関連事業や熊本復興事業など他地域での公共事業が増えて、全国的に公共事業過多の需給関係が続いていることが原因であることは明らかだ。
入札不調や工事費高騰は、民間の建築事業にも悪影響を及ぼす。防潮堤見直しのパイオニア的存在の「赤浜地区の復興を考える会」の川口博美会長(岩手県大槌町)は、こう話す。
「仮設住宅を出て新しい住宅を建てようとしたら、当初の見積もりの5割増になって新居建築を断念した人もいます。必要性の乏しい防潮堤など大型復興事業が集中した結果、もっとも大切な生活関連事業が二の次になっているのです」
仮設食堂を経営していた大槌町のIさんも、新店舗の坪単価が2倍になり、開業を断念したという。
「業者はほかにも工事がたくさんあるので値引きに応じない。都知事に三陸地方の現状を直訴したい気持ちにもなります」(Iさん)
復興五輪をアピールする小池都知事の大きな課題は、バラマキしか能がない“アベ土建政治”を批判、全国的な公共事業抑制の“旗振り役”になることに違いない。仮設住宅暮らしを続ける被災者の期待に応え、復興の加速で希望を与えることが求められているのだ。そしてメディアの役割は、被災地の悲鳴に耳を傾けない安倍政権に政策変更を迫るのか否かをチェックすることではないか。
小池知事の密着取材を続ける久野村記者ら日本テレビが、ランドセル贈呈の美談紹介で事足りるのではなく、この工事費高騰問題に関する続編番組を放送するのかを注目している。
(横田 一)
都知事就任の2016年8月から2017年2月24日までの定例会見および臨時会見における指名回数を合計して順位づけをした(冒頭で質問をする幹事社の記者はカウントせず)。
ランドセルの美談について質問をした日本テレビの久野村記者に次ぐ指名回数第二位の「THE PAGE」の具志堅記者は、小池都知事が力を入れる無電柱化について3回質問。これが”好意的記者”として捉えられた可能性がある。
「都庁会見の座席表を作成しているようだ」という"座席表疑惑”も耳にした。たしかに会見中に小池知事は下をちらちらと見ながら記者を指していた。”好意的記者”が座っている場所を確認しながら指名していると疑われても仕方がない。
なお私は就任直後の8月5日と12日の2回指名されたが、それ以降は一度も指されておらず、囲み取材でしか質問機会はない状態が続いている。都庁での会見で最後の指名となった8月12日の会見では、小池知事と築地関係者の面談が冒頭だけしか公開されないことが都政の透明化と矛盾するのではないかと質問したが、これで”批判的記者リスト”に分類されたのだろうと考えている。
最終更新:2017.11.20 06:33
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