ミスチル・桜井和寿の“ボカロは音楽だけどアイドルは音楽ではない”発言に疑問を呈す!

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 さすがにAKBやSexy Zoneを目の敵にするほど桜井氏は大人げない人間ではないと思うし、事実、過去にTRICERATOPSのライブに出演した際、桜井氏はAKBの「ヘビーローテーション」をカバーしている。このインタビューでも、「Mr.Childrenの役割って、大衆というものに向けて(中略)ど真ん中で響かせていきたいっていう感じなんですよね」「音楽としてはみんながサビを歌えるような、そんな曲を響かせたいっていう想い、それがど真ん中ってことで」と桜井氏が話しているように、音楽の大衆性という意味においてはアイドルソングも評価してはいるように思える。

 ただ、桜井氏の発言から漂う“自分たちとアイドルは同じ土俵にはない”感には、いささか疑問を感じずにはいられない。というのも、「音楽を必要な人に届ける」という点では、このいまの時代、アイドルのほうがずっと強度をもっているからだ。

 ミスチルがブレイクしたのは、93年に発表した4枚目のシングル「CROSS ROAD」だったが、その後の「innocent world」「Tomorrow never knows」ではメッセージ性が強くなり、95年の「【es】〜Theme of es〜」では現在にいたる桜井氏のナイーブさが全面に押し出された。当時のキーワードである“自分探し”をする若者たちにとって、進むべき道を模索する桜井氏の歌詞は共感をもって大きく受け入れられたといえる。

 しかし、いまもなお“終わりなき旅”をつづける桜井氏のナイーブさは、現在の若者にどれほど響くものなのだろうか。すべてがメタ化されるこの時代に生きる若者にとって、あるいは空気を読むことを強要される世界において必要とされているのは、“自分を探す”内面を描く音楽ではなく、もっと現実的な“解放”の音楽ではないだろうか。

 たとえば、痛さを隠さないでんぱ組.incや、いたって真剣に「イジメ、ダメ」と使い古された言葉を叫ぶBABYMETALに限らず、歌の上手い下手といった完成度ではなく、格好悪くても全力でやりきる存在としてサバイブする、そうした実存的なアイドルたちの音楽こそが、いまの悩める若者の“魂の歌”になっているのではないか。ジャズやフォークソングが抵抗の音楽として受け入れられ、ロックミュージシャンがスターとなったように、アイドルが現在の時代に要請されているのではないか、と。

 しかも、シーンの盛り上がりとともに、優秀なプロデューサーやコンポーザー、ミュージシャンたちがアイドル界に参入している現実はどうだ。高いクオリティと新しさをもつ楽曲がぞくぞくとアイドル界からは生まれているが、それはアイドルがいまもっとも「人に届ける」音楽を発信できる存在として求心力をもち、音楽制作者たちを惹き付けている証拠だろう。個人的な話で恐縮だが、筆者は“自分探し”世代の中年女で、当然、若者特有の生きづらさも抱えていないし、アイドルの握手会にもコンサートにも行ったことはないが、それでも最近、いちばん好んで聴いているのはアンジュルムの「大器晩成」である。握手券目的でなくても、アイドルソングには音楽として十分に訴求力がある。いちリスナーとしては、素直にそう思うのだが……。

 前述のインタビューでは、「『音楽が魔法をかけてくれる』みたいな、そういう力を持った音楽を作れたらいいなと思うし」と語っている桜井氏。彼が芸術性や革新性に重きを置くのではなく“大衆性”にこだわるのであれば、なおのこと“アイドルは音楽界の話ではない”と片づけるのは、少し頑迷すぎるだろう。好き嫌いは別にして、それがいま、多くの人にとっての「魔法のような音楽」になっていることはたしかなのだから。
(大方 草)

最終更新:2017.12.19 10:01

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