宮台真司インタビュー後編

宮台真司がネトウヨを語る「あれは知性の劣化ではなく感情の劣化だ」

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──でも馬鹿認定して放置したことで、ヘイトやネット右翼が増殖していった部分もあるんじゃないですか?

宮台 そう。問題はそこなんだ。その場合、教室の全員が「◯△はゴキブリ!」と叫ぶ哀れな子だったら、どうだろう。特殊教室内で連帯して、「自分たちを馬鹿認定する世間こそ、ゴキブリの仲間、つまりゴキブリだ!」と言い続けるでしょう。そんな幼稚な展開が今この社会で起こっている。僕らが「ゴキブリ」なら、知的な折伏などできません(笑)。どうするべきか。初期ギリシヤの教育が参考になる。そこでは自立が尊ばれ、依存が恥とされた。だから絶対神を持ち出すセム族が軽蔑され、神が報いようが報いまいが、理不尽や不条理に体ごと突っ込む営みが愛でられました。ただし言葉で愛でるのでなく、凄い人の近くで〈感染(ミメーシス)〉することが奨励されました。アッシリア起源でギリシアに拡がったファランクス(集団密集戦法)が専らだったことが背景です。要は、キモいか立派かということ。結論です。僕が推したいのは “左翼ゴロツキ戦略”です。しばき隊が好い例。「ヘイトはキモい。YouTubeとかで観たらキモいオヤジとオバハンばかり。筋骨隆々としてタトゥーが入ったしばき隊の方が格好いいぜ」という戦略です。

──C.R.A.C.(旧・しばき隊)については「どっちもどっち」という意見もありますね。

宮台 「ニューズウィーク」の記事みたいに「どっちもどっち、喧嘩両成敗」などと言ってる場合じゃない。中間層分解を背景に〈感情の劣化〉を被った人々が量産される今日では〈感情の政治〉に〈感情の政治〉で対抗する他ありません。威勢のいい排除主義者に感染しがちな人々を前に、“排除主義者”と“排除主義者を排除する排除主義者”が戦う構図です。宗教者ならどちらも同じだと言わなければならないだろうが、どっちもどっちという者はどこの宗教者なんだ。むろん“排除主義者”と“排除主義者を排除する排除主義者”とでは国際的なウケが全く違う。ヘイトデモが国連人権委員会から日本政府への勧告を招く一方、11月2日の反ヘイト東京大行進は海外メディアが好意的に報じたでしょう。〈感情の政治〉に〈感情の政治〉で抗う場合、別の次元にも注目する必要があります。これからはビッグデータ処理で浮かび上がった相関関係を使った政治的動員がますます優位になります。そうした動員のイメージを紹介します。道徳心理学者J・ハイトは実験心理学的には政治的表現に5つの感情の押しボタンがあるとします。ケアという弱者共感、公正と自由たる平等、忠誠たる伝統、秩序をなす権威、そして聖性。アメリカの民主党は、このうち弱者共感と平等のボタンしか押さないでやってきたと言います。他方の共和党は、弱者共感と平等のボタンを(やや低頻度であれ)押した上、伝統・権威・聖性のボタンも押すから選挙に強いが、オバマは従来の民主党候補と違い、伝統・権威・聖性のボタンも押したから大統領になれた、と言います。過去2年性愛ワークショップをやってきて思います。今は僕が指南するけど、未来には胸につけたカメラとマイクから情報を受け取ったサーバーが、小型イヤホンを通じ、ビッグデータ解析に基づく指南をリアルタイムで送ってくる⋯…。これは便利だが、それでナンパに成功したとして、いったい誰の達成か。そこでは主体の在処が疑問です。

──ビッグデータの時代では政治の場にどのような変化が見られそうですか。

宮台 人々がビッグデータ処理に基づいて感情のボタンを押されて投票する場合も、投票行動の主体性の在処が疑問になります。ネットでは、検索語の検閲や、検索語に関連する広告表示(アドセンス)や、購買履歴のアグリゲイション(集計)に基づくお勧めについて、疑念がくすぶってきました。今後はその比でなく、ビッグデータ解析が常套手段になります。ビッグデータ解析は予測に基づく行動制御を可能にするので、カネ儲けだけでなく、政治的動員も使えます。でもビッグデータ解析の利用機会には階層格差がある。だから富む者が一層富み、力を持つ者が一層力を持ちがちです。ここでも「感情でなく理性で戦う」と呑気なことを言っていたら、ビッグデータ解析を用いた広告代理店的動員に敗北します。同じやり方で抗うか、顔が見えるスモールユニットでの〈熟議&ファシリテータ〉で抗うか、です。ビッグデータ解析を用いた動員は、感情の押しボタン等に関する情報非対称性(知る者と知らない者の差)を利用するけれど、〈熟議&ファシリテータ〉の組合せは完全情報化の戦略なので、ユニットは小さいながらも有効に抗えます。

──では今、知識人はどう振る舞えばよいのでしょうか?

宮台 知識人はアル・ゴア的なポジションに追い遣られがち。「頭がいいからイヤな奴だ」と。中間層分解による〈感情の劣化〉とネット的分断による〈教養の劣化〉を背景にした〈感情の政治〉を、理性的説得では越えられない。マクロには、ヘイトデモに抗う反ヘイトデモにせよ、広告代理店的動員に抗う広告代理店的動員にせよ、〈感情の政治〉に〈感情の政治〉で抗う他ない。ミクロには、〈熟議&ファシリテータ〉の組合せで完全情報化を図る他ない。それで言えば、このリテラは、ゴシップ的に相手の梯子を外す“左翼ゴロツキ路線”の下品さで〈感情の政治〉に参戦しているし、従軍慰安婦問題や朝日捏造記事問題など丹念な探索で完全情報化を図っている。良い方向だと思う。

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