菅首相が「休んでいる看護師がいるから五輪に500人派遣できる」妄言の直前、ワクチン業務の看護師“募集難航”を聞かされていた

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政府インターネットTVより


 波紋を広げつづけている、東京五輪組織委員会が日本看護協会に対して「約500人の看護師を確保」するよう要請した件。愛知県医労連がはじめた「#看護師の五輪派遣は困ります」というTwitterデモはついに30万ツイートを突破したが、そんななか、菅義偉首相が信じがたい見解を示した。昨日4月30日、ぶら下がり取材でこんなことを言い出したのだ。

「看護協会のなかで、現在、休まれている方もたくさんいると聞いている。そうしたことは可能だ」

 いま休んでいる看護師もいるから東京五輪のために約500人の看護師を確保するのは可能……。菅首相はそう抗弁したのだ。

 まったく何を言っているのだろう。「休んでいる看護師」というのが何を指して言っているのか、誰からそんな話を聞いたのかもわからないが、もし離職中の看護師を指しているとすれば、当然ながらその人たちは事情があって離職しているのだ。とりわけ昨年からは、待遇が改善されないなかでのコロナ対応で肉体的・精神的に疲弊して離職者が相次いでいると報じられてきた。そして、こうした事態を打開するためにもすべての医療機関への減収補填をおこなうべきだという声があがってきた。

 ところが、政府はすべての医療機関への減収補填を拒否しつづけ、そればかりかこの4月からは処遇を悪化させたり使い捨てを横行させかねない看護師の日雇い派遣を解禁。しかも、その決定プロセスはまたも不透明なもので、現在、国会で追及がおこなわれているような状況にある。

 つまり、これまで看護師の離職がさんざん問題になってきたのに処遇改善もおこなわず問題を放置させてきた当人が、今度は離職した看護師を当て込んで“東京五輪への動員は可能だ”と言い出したのだ。その上、東京五輪に駆り出される看護師への報酬はゼロ。タダ働きのボランティアとして動員しようというのだから、卑劣にもほどがある。

 いや、それどころか、この「休んでいる看護師を東京五輪に動員するのは可能」というこの発言は、完全に現状を捻じ曲げたものだったのだ。

 じつは、菅首相はこの発言をおこなう前、昨日の午前中に日本看護協会の福井トシ子会長と会談をおこない、そこで菅首相はワクチン接種のために看護師の協力を仰いだのだが、一方、その席で福井会長は、〈離職中の看護師資格の保有者がワクチン接種業務への求人に応募して就業しているのが28日時点で298人にとどまっていると説明〉しているのだ(日本経済新聞4月30日付)。

インドを水際対策強化対象国に含めたのは28日、これまではPCR検査でなく抗原検査

 求職希望を登録している「潜在看護師」は5万人と言われているが、求人募集によってワクチン接種業務に携わっているのは約300人……。ようするに、ワクチン接種業務のための看護師確保もままならない状況にあることを伝えられていたのに、菅首相は「休んでいる看護師を東京五輪に動員するのは可能」などと宣言したのである。

 本サイトでは菅首相について、「楽観的というレベルを超え、自分の信じたいことしか耳に入れず、自分に都合よく解釈してしまう“確証バイアスの化け物”」だと指摘してきたが、今回の発言もそれと同じなのだろう。つまり、ワクチン接種のための看護師確保が進んでいないという現実を突きつけながらもそれは無視し、「潜在看護師は5万人」という数字だけで「休んでいる看護師を東京五輪に動員するのは可能」などと発言した。そういうことではないのか。

 事実や客観的データを把握した上での冷静な判断が求められるコロナ対応において、独善的な解釈による「お花畑思考」で物事を進めようとする──。そもそも、仮に約500人の看護師を確保できるとしても、医療崩壊が起こっているこの状況を考えれば医療現場のために確保するべきだというのは論を俟たないが、その当たり前がこの男には通用せず、「東京五輪開催で内閣支持率を上げて解散へ」という私利私欲しか頭にないのだ。

 しかも、菅首相が支離滅裂なのは、東京五輪を開催しようというのであれば当然強化すべき国内の感染拡大防止策をおろそかにしていることだ。とくに驚愕するのは、何度も失敗してきた水際対策だ。

 たとえば、4月23日におこなわれた総理会見で五輪問題を問われた菅首相は、「水際対策、厳しくおこなっています」と現在進行形で明言したのだが、実態は、感染が急拡大しているインドを水際対策強化対象国に含めることを決定したのは、なんと4月28日になってのこと。しかも、これまで入国時はPCRよりも精度が劣る「抗原検査」のみだった。

 また、昨晩放送の『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)に出演した政府分科会メンバーの小林慶一郎氏は、「一応、きょうから検疫は強化されるんですけれども、それでも甘いかもしれない」と指摘。他の国では一般的に入国後は「2週間停留させて健康観察している」のに対して日本は3日間の停留であるのは問題だとしたが、「(3日間の隔離期間を)2週間にすべきではないかと私も政府に申し上げたが、これからどうなるか、検討されるかどうかもわからない。3日間の措置だけでしのごうとしているという状況」と語った。

インド由来の変異株発見に必要なゲノム解析がほとんど進んでいないという惨状

 問題はまだある。インドで見つかった変異株感染者はすでに東京都内でも見つかっているが、この変異株は感染力が強いだけではなく、「日本人に多い白血球の型による免疫が効きにくくなる」とも指摘されている。しかし、このインド由来の変異株は現在流行中のイギリス由来の変異株を検出する検査では確認できないため、ひとつひとつをゲノム解析する必要があるのだが、その肝心のゲノム解析はほとんど進んでいないのが現状だ。

 よくこれで「水際対策、厳しくおこなっています」と言えたものだが、「支持率ファースト」しか頭にない菅首相は五輪開催強行のために平然とミエミエの嘘をついてきたのだ。

 いや、菅首相のこうした暴走は、東京五輪と同様に支持率上昇の大きなカギを握っているワクチン問題でも同様に起こっている。

 菅首相はここにきて「7月末に高齢者のワクチン接種を完了させる」と宣言し、自衛隊が主体となった「大規模接種センター」を設置することを決定。東京会場となる大手町の合同庁舎では1日1万人規模の接種を目指すとぶち上げたが、大混乱することは火を見るより明らか。だいたい、1日1万人もの高齢者をひとつの会場に集めること自体、クラスター発生のリスクを高めるものであり、政府の分科会メンバーである釜萢敏・日本医師会常任理事も「(1日1万人接種は)24時間体制でやるとしてもかなり難しいと思う」と語っている。

 それどころか、「大規模接種センター」で実務を担うのは、全国の自衛隊所属の医官と看護官それぞれ約1000人だというが、4月28日におこなわれた野党合同ヒアリングでは、防衛省統合幕僚監部側は人員をどれだけ集められるのか「現在、確認中」で、「報道では(接種が1日)1万と出たが、じつは我々、どれぐらいの医官・看護官が確保できるかによって決まってくると考えている」と回答。つまり、「1日1万人を接種」という数字には何の裏付けもなかったのである。

 ワクチン確保をめぐっても、訪米までしておいてファイザーに門前払いされて電話会談しかできなかっただけではなく、「9月までに供給されるめどが立った」という発言も実際には合意書も交わしていない口約束だったことが明らかになったが、ようするに菅首相は、裏付けもない話をとにかくぶち上げるだけぶち上げて、あとは強権的に現場に指示するという実効性の担保もへったくれもない無責任な丸投げを繰り返しているだけなのだ。

 こんな男がコロナ対応の陣頭指揮に立ち、東京五輪開催に突っ走る。その暴走を止めるためにも、「東京五輪より命を守れ」と叫びつづけるしかない。

最終更新:2021.05.01 06:06

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