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山東昭子だけじゃない、ゼレンスキー大統領の演説を「国民の戦争動員」に利用する自民と維新の極右議員たち
国会で演説するゼレンスキー大統領(衆議院インターネット審議中継より)
先日23日におこなわれた、ウクライナのゼレンスキー大統領による国会演説。演説前、安倍応援団やネトウヨの間では「安倍さんがプーチンにすり寄ったことを批判されるのでは?」という心配の声の一方で、「日露戦争における日本の戦いを賞賛するはず」などという帝国主義・侵略戦争を肯定する身勝手な期待が広がっていたが、実際の演説ではそんな発言はまったくなし。
それどころか、ゼレンスキー大統領はロシアへの憎悪や戦争への参加を煽るような言葉も口にせず、むしろ、「反戦の連帯」を強調する非常に抑制的なものだった。これは明らかに、日本が憲法で戦争放棄を謳っていることを念頭に置いてのことだろう。
もっとも日本の極右連中は、その演説をまたまたご都合主義丸出しで歪曲し、悪用を繰り広げている。その典型が、ゼレンスキー大統領の演説のあと答礼の挨拶をおこなった山東昭子・参院議長の、例の発言だ。
「閣下が先頭に立ち、また貴国の人びとが命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」
一方的な侵略によってウクライナ市民は生活を脅かされ、抗戦せざるを得ない状況に追い込まれ、多数の死亡者が出ているというのに、参院議長という立場にある者が「感動しております」などと口にする──。ようするに、山東氏は「国のために命をかけて戦っている」ことを称賛したのである。
繰り返すが、ゼレンスキー大統領は今回の演説で戦争への参加を煽るような文言を一言も発していない。1000発以上のミサイルが打ち込まれ、数十の街が破壊され、121人の子どもを含む数千人が殺されているという惨状は伝えたが、その上で語ったのは「反戦の連帯」の重要性だった。
にもかかわらず、「その勇気に感動」などと好戦的かつ美談めいた話にすり替えるとは、言語道断だろう。しかも、いまウクライナ市民が抗っているのは、侵略によって崩されようとしている民主主義や、個人の自由と権利を守るためでもあるだろう。それを為政者が十把一絡げに「祖国のため」と言い、命をかけることを称揚するのは、あまりにも危険な発言だ。
実際、この山東発言にはすぐさまネット上でも批判が起こったが、本日25日付の東京新聞「こちら特報部」でも、政治学が専門の纐纈厚・山口大学名誉教授が「国を守るためには犠牲をいとわない、そういうゆがんだ愛国心を求めていることにほかならない」と批判し、「不穏当」であると指摘している。
そもそも、山東氏はこれまでも「9条改正賛成」「自衛隊を国防軍にすべき」などと主張してきた改憲強行派で、安倍政権下だった2019年に参院議長に抜擢されたのも、安倍自民党が憲法審査会を強引に動かすための国会運営を可能にする「改憲シフト」のためだったと言われている。そして、いま自民党が改憲によって新設しようとしている「緊急事態条項」は、非常事態だと内閣が認めただけで、人びとの基本的人権の保障は停止され、独裁体制をつくり出すことが可能になる。ようするに「ロシア化」を可能にするシロモノなのだが、それを推進しようという人物が、今回のゼレンスキー大統領の演説を利用して「命をかけて国を守ることは感動すべきこと」などという主張を繰り広げたのである。恥知らずにも程があるだろう。
杉田水脈より酷い、維新の衆院議員が「有事に国を護る気がないなら平時に国から恩恵を受けるな」
だが、「反戦の連帯」を求めたゼレンスキー大統領の演説をゆがめ、自身の欲望のために利用している国会議員は、山東氏だけではない。
たとえば、自民党の杉田水脈・衆院議員は自身のブログで、〈「日本はアジアで初めて平和を取り戻すためロシアに圧力をかけてくれた」と述べられたことに一番強い印象を持ちました〉と綴った上で、こう記している。
〈ウクライナだけでなく多くの国々は、日本にはアジアを牽引する役割を期待しています。正にそれが日本の使命だと感じ、それに相応しい国力を保っていかなければならないと改めて強く意識することができました。〉
言っておくが、ゼレンスキー大統領が日本に感謝し、求めたのは、ロシアに対するさらなる制裁強化やウクライナ復興への支援、そして「アジアのほかの国々とともに力を合わせ、状況の安定化に取り組んでほしい」ということだった。かたや、杉田議員はこれまでさんざん歴史修正発言を振りまき、アジアの国々との関係強化どころか関係悪化に加担してきた人物だ。にもかかわらず、「アジアを牽引する役割を担うことが日本の使命」などと言い、挙げ句、「相応しい国力」などと優位性の誇示しか頭にないことを露呈させたのだ。
だが、杉田議員よりももっとひどかったのが、日本維新の会の青柳仁士・衆院議員だ。青柳議員はゼレンスキー大統領の国会演説後、自身のTwitterにこう投稿した。
〈「国を護りたい」との想いが痛切に伝わってくる演説でした。振り返れば、私たちの平和で豊かな暮らしも、日本という国をつくり、命をかけて護り続けたご先祖のお陰です。有事に国を護る気持ちがないなら、平時にも国から恩恵を受けるべきではありません。国会議員は尚更です。〉
山東議員の「命をも顧みず祖国のために戦っている姿に感動」も相当ひどい発言だが、なんと青柳議員はそのさらに上をゆき、「国のために命をかける気もない奴は平時から国の恩恵を受けるな」と言い出したのだ。ようするに、「非国民に社会保障を受ける権利なし」というわけだ。
いかにもネトウヨ脳と新自由主義が魔合体した維新の議員らしい主張だが、言わずもがな維新は、コロナ失策でいまなお大阪で多数の死亡者を出すという「有事」を引き起こしている当事者だ(ちなみに青柳議員は大阪14区の選出)。そんな府民の命を守ることができない維新の議員が、「命をかけて国を守る気持ちがないなら平時から国を頼るな」などと偉そうに吠えているのである。
憲法審査会でも自民党の山田宏がウクライナを使って改憲主張、西田昌司は教育勅語復活を主張
そもそも、ロシアによるウクライナ侵略の開始後から、安倍晋三・元首相を筆頭にこの国の国会議員からは「核共有」論だの非核三原則の見直しだの原発再稼働だの、侵略戦争をダシにした火事場泥棒の主張が横行してきた。そして、ついには憲法審査会においても、山東議員のような「国民は命をかけて国を守れ」と言わんばかりの主張が繰り広げられる状況になっている。
実際、ネトウヨ議員のひとりである自民党の山田宏・参院議員は、ゼレンスキー大統領の国会演説がおこなわれたのと同じ23日に開かれた参院憲法審査会において、「ウクライナのような事態に直面した時に(日本は)国を守れるのか。丸腰になれば攻める国はないという現実離れした主張も繰り返されてきた」と言い、「自分たちの国は自らが守る」ことを示すために自衛隊を憲法に明記すべきだと主張。
さらに、同じく自民党の西田昌司・参院議員は、「日本の文化で一番大事なのは教育勅語に書いてある家族主義、家族と伝統を大事にすることだ」などと言い出した。あらためて指摘するまでもなく、教育勅語は親孝行などの徳目だけではなく、「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」(国家のために勇気をもって身命を捧げ、永遠に続く天皇の勢威を支えよ)とも説くものだ。天皇を崇拝させることで市民を無謀な戦争に駆り立てた、大日本帝国の軍国主義思想の根幹そのものだ。
ウクライナの惨状を目の当たりにして、ロシアに対する制裁強化やこれまでの対ロシア外交の総括やウクライナの人道支援に動くでもなく、他国の危機に乗じて「国民は自分で自分の国を守れ」「国を守るために命を捧げろ」と自説を主張する極右国会議員たち──。いまわたしたちが痛感すべきは、こうした国民の命を命とも思わない国会議員を選挙で選んではいけない、ということだろう。
(編集部)
最終更新:2022.03.25 11:06
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