菅首相が今頃打ち出した「国立病院機構のコロナ病床拡大」のお粗末な裏側! 機構本部が「コロナ補助金を借金返済に回せ」と指示

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首相官邸HPより


 昨日25日、緊急事態宣言を追加で北海道や宮城県など8道県に適用することを決定したことを受けて記者会見をおこなった菅首相。相変わらず原稿をただ棒読みし、ワクチン接種状況をアピールするばかりだというのに、ついには「(感染収束への)明かりははっきりと見え始めている」とまで言い放った。

 指摘するまでもなく、感染拡大は全国に広がり、重症者数も過去最多を更新しつづけている。当然、感染収束の明かりなどまったく見えていない。楽観主義によってこの国を非常事態に陥らせた菅首相だが、ついに幻覚まで現れているのだろうか。

 しかも、昨晩の会見では、菅首相はこんなことを打ち出した。

「国立病院機構においては、新型コロナ対応の病床を東京全体で200床まで拡大し、全国の新型コロナ対策センターとしての役割を果たしてまいります」

 菅首相はまるで先手を打つかのように語ったが、何をいまさら、という話だ。というのも、厚労省管轄の独立行政法人である国立病院機構や、政府分科会の尾身茂会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)に対しては、昨年の1次補正予算で「医療提供体制の整備」として計65億円もの予算が出ている。また、昨年の3次補正予算でも国立病院機構には同じ名目で93億円、「コロナ対応にかかる研修事業」に約9億円の予算がついていた。にもかかわらず、両機構ともコロナ患者の受け入れに消極的だとされ、「コロナ患者をもっと積極的に受け入れるべきだ」という指摘があがりつづけてきたからだ。

 実際、今年1月25日の衆院予算委員会でも、立憲民主党の長妻昭議員が都内の国立病院機構とJCHOの病院におけるコロナ病床は6%程度にとどまっているとし、「何とか工夫して病床を増やすよう総理からメッセージをいただけないか」と追及したが、このとき菅首相は「率先して病床を確保するように、私からも指示をいたしておきます」と答弁していた。

 ところが、第5波によってすでに医療逼迫が叫ばれていた7月末の時点でも、全国の国立病院機構の全国140病院・総病床数3万8896床(重症心身障害病床を除く)のうちコロナ受け入れ病院数は95病院・コロナ確保病床数は1854床(4.8%)、JCHOは57病院・1万4285床のうち43病院・816床(5.7%)にすぎない。

 ようするに、菅首相自ら「率先して病床確保するよう指示する」と答弁していたのに、実態はこのとおり、まったく増えていなかったのである。

「病院名公表」方針を発表した際に「民間に強制する前に国立病院機構が先だ」と質問も田村厚労相は法的根拠知らず

 その上、8月23日になって田村憲久厚労相と小池百合子都知事は揃って、改正感染症法に基づいて都内すべての医療機関に病床確保と人材派遣を要請。最終的に従わなければ医療機関名を公表できるという強権発動に出たことで、「民間に強制する前にまずは国立病院機構とJCHOが先だ」と批判が殺到していた。

 これは当然の批判だ。というのも、国立病院機構法とJCHO法では、それぞれ21条で〈厚生労働大臣は(中略)公衆衛生上重大な危害が生じ、若しくは生じるおそれがある緊急の事態に対処するため必要があると認めるときは、機構に対し(中略)必要な業務の実施を求めることができる〉〈機構は、厚生労働大臣から前項の規定による求めがあったときは、正当な理由がない限り、その求めに応じなければならない〉と規定している。民間に強権発動する前に、まずはこの規定に基づいて病床を確保すべきだったのだ。

 にもかかわらず、民間への強権発動を持ち出す直前におこなわれた今月20日の会見で記者から「国立病院機構とJCHOにかんして法に基づいてコロナ病床の確保を要請するという考えはあるか」と問われた際、田村厚労相は「法律というのは何の法律か? 医療法、感染症法か?」と発言。つまり、自身の権限で病床確保を指示することができるというのに、これらの規定を把握していないとしか思えないリアクションを見せたのだ。

 その上、記者が国立病院機構法とJCHO法の21条について指摘しても、「法律に則ってというよりかは、いまももうお願いはしており、病床を確保していただいている」と言い張ったのである。

 前述したように、菅首相は1月の時点で国立病院機構とJCHOに対し「率先して病床確保するよう指示する」と国会答弁していたが、田村厚労相のこの態度を見ても、とてもじゃないが必要な指示がおこなわれていたとは考えにくい。つまり、ここにきて批判が高まっていたことから、慌てて「都内の国立病院機構で200床まで拡大させる」と言い出したのだろう。

菅首相「200床確保」は詐術、実際は78床増えるだけ! コロナ補助金を借金返済に回すよう指示も

 しかも、その内実は、菅首相が言っていた「全国の新型コロナ対策センターとしての役割を果たす」などというものとは程遠い。

 菅首相は「200床まで拡大する」と言うが、国民民主党の玉木雄一郎代表が厚労省から得たという資料(8月25日付)によると、7月末時点の都内にある国立病院機構の3病院(骨・運動器疾患を主に専門とする1病院は除いた数/3病院の病床数1541床)のうちコロナ確保病床数は128床となっている。つまり、増える病床は72床にすぎないのだ。

 だいたい、菅首相が国立病院機構の病床について明言したのは、都内についてのみ。繰り返すが、昨年の第3次補正予算で国立病院機構には「医療提供体制の整備」として93億円もの予算が付けられているのだ。にもかかわらず、なぜ全国で増やそうとしないのか。これで「全国の新型コロナ対策センターとしての役割を果たす」などと言えるわけがない。ちなみに、JCHOのほうは言及さえなかったが、こちらも都内5病院(病床数1455床)のうちコロナ確保病床数は158床にすぎないのだ。

 いや、これだけだけではない。じつは国立病院機構のコロナ患者受け入れにかんして、聞き捨てならない話も出ているのだ。

 というのも、昨日おこなわれた衆院厚労委員会の閉会中審査では、長妻議員が質疑の最後に「首をかしげる通知・指示が国立病院機構から出ている」とし、こんなことを口にしていたのだ。

「国立病院機構は全国に140の病院があり、そこが新型コロナを診た場合、補助金が出ます。その補助金が出たならばそれを借金返しに回してくれと。本部が各病院にお金を貸しているらしいんですが、(借金返済に)回してくれと。こういう指示が出てですね、ちょっと現場は相当問題だということで声が聞こえておりまして」

 コロナ患者を受け入れることで得られる補助金は、言うまでもなく治療の最前線に立って奮闘する医療従事者の手当として真っ先に振り分けられるべきだ。なのに、国立病院機構の本部は各病院に「借金返済に回せ」と指示している──。長妻議員によると、どうやらこの問題を指摘したところ、国立病院機構の本部は「訂正の通知を出す」と返答したということだが、このような現場軽視の姿勢で「全国の新型コロナ対策センターとしての役割」など果たせるのか。いや、それ以前に、これまで「医療提供体制の整備」という名目で同機構に振り分けられてきた100億円を超える予算は本当に適切に使われているのか、疑問が湧いてくる。

 ともかく、国会で「率先して病床確保を指示する」と国民に約束しながら、菅首相はいまのいままで動こうともせず、この期に及んでも病床確保に真剣に取り組む素振りも見えない。「明かりは見え始めた」どころか、先行きは真っ暗と言わざるを得ないだろう。

最終更新:2021.08.26 06:41

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