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芸術支援を不要と攻撃する百田尚樹と対照的! 女優・橋本愛が「私は映画に命を助けてもらった」「文化・芸術は最後の砦」
ミニシアター・エイド基金に賛同コメントを寄せた橋本愛
国民の怒りにおされ、ここにきてようやくコロナ生活支援策や休業補償が打ち出されはじめたが、いまなお、おきざりにされているのが、文化・芸術に関わる人々への補償だ。
緊急事態宣言よりもかなり前。2月26日にイベント自粛要請があり、演劇や音楽の公演は軒並み中止、映画館も観客が激減、閉鎖という状況が相次いでいるのだが、政府や自治体からは何ら実効性のある補償が打ち出されていない。
こうした苦境を受け、ミュージシャンや俳優、作家、演出家など多くの人が声を上げているが、ネットでは、その訴えを後押しするどころか、声をあげるアーティストに対し「たかるな」「好きなことをしてるんだから、文句言うな」「都合のいいときだけ国に頼るな」などと攻撃する動きが目立っている。
たとえば、あの百田尚樹も、支援を訴えた劇作家・平田オリザと演劇人を批判するツイートをリツイートし、こうつぶやいた。
〈三月の終わりから書店の多くが閉まっていて、本の売り上げは激減どころの話じゃないが、小説家で「金をくれ」と言った人はいない。 さすがは作家!と言いたいが、当たり前の話。 作家みたいな職業は生きるか死ぬかの時代には必要ない。金は本当に必要な人に回せ!作家なんか一番後回しでいい。〉(5月9日)
この男はいったい何を言っているのだろう。そもそも、書店が閉まっても本をネット販売できる小説家と、公演中止に追い込まれて大損害を被っている演劇や音楽、映画などはまったく事情が違う。しかも、百田は支援を求める声を「自分に金をくれ」とタカっているかのように矮小化しているが、彼らは自分の生活のためだけに声を上げているわけではない。自分を救ってくれた文化を裏で支える存在を、その文化を受け取る者を、守りたいと言っているのだ。
一方、百田はどうだ。「書店の多くが閉まっている」などと言いながら、読者との出会いの場を担っている書店への救済策も口にせず、「作家なんか一番後回しでいい」とうそぶく……。ようするに、この男は自分がヘイト本や歴史修正主義本をネット書店でも売っていてボロ儲けしているから、他のことなどどうでもいいのだ。
まったく呆れ果てるが、百田のツイートに対しては、作家の近藤史恵が、名前をあげずにこう批判している。
〈小説家と演劇を比べて、「小説家も苦しいのに金をくれなんて言っていない」という著名な作家のツイートが流れてきましたが、小説家の中で苦しい人がいるといるのは大前提として、今回演劇の被った損害は(続)〉
〈感染防止のため、自分で舞台を中止し、チケットを買ってくれた人にに返金するというもので、つまり書籍で言うと、半年以上かけて作った本をすべて裁断し、出せば買ってくれる予約販売の人にすべて返金し、しかもしばらくは新しい本が作れない状態で、ただ「本が売れない」というのとは違うのです。〉
〈書店さんは家賃や人件費があるから、演劇と同じくらい大変でしょうが、小説家でコロナ禍で小説家という仕事だけで何百万円という借金を背負うような損害があった人はかなりレアな存在ではないでしょうか。〉
〈小説家のしんどさってだいたい内部留保の少なさなので、ベーシックインカムとか、ひとり月10万三ヶ月とかやってくれたら、だいたい助かりますよ〉
橋本愛がミニシアター支援で語った「私は映画に命を助けてもらった」
何から何まで、その通りだ。演劇と小説の置かれた状況の違いを冷静に把握しながら、それぞれにどういう支援が必要かをきちんと述べている近藤のこのツイートを読んでいると、百田の頭の悪さ、想像力のなさが改めて浮きぼりになる。
しかも、百田のツイートで最悪なのは、〈作家みたいな職業は生きるか死ぬかの時代には必要ない〉というセリフだろう。これが、仮にも作家を名乗っている人間のセリフなのか。
そう呆れていたところ、百田と対照的な言葉に出会った。ミニシアター支援に動いた女優・橋本愛の言葉だ。
映画監督の深田晃司監督や濱口竜介監督が発起人となり全国の小規模映画館・ミニシアターを守るため、立ち上げたプロジェクト「ミニシアターエイド基金」【リンク→https://minitheater-aid.org】。両監督と賛同者のひとりである小泉今日子がミニシアター系映画についてトークをしたり、また塚本晋也監督や山戸結希監督、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督といった映画監督、俳優の井浦新や柄本佑、斎藤工らプロジェクトに賛同した映画人たちのコメント動画がyoutubeに続々アップされ、支援を呼びかけている。
橋本愛も賛同者のひとりとしてコメントを寄せているのだが、それが素晴らしかった。ミニシアター・映画にとどまらず、文化・芸術が人間にとっていかに必要不可欠なものであるか。自らの言葉で強く訴えたのである。
橋本はまずこう語り始めた。
「こんにちは。私は昔、映画に命を助けてもらいました。体こそ生きてはいましたが、心の息の根は止まったまま。何を食べても、誰と会っても、どうにもなりませんでした」
ある時期、死にながら生きているような感覚にとらわれ、倦怠と絶望のなかで日々を送っていた橋本が、たどり着いた居場所が映画館、ミニシアターだったという。
「1日に何軒もハシゴして、何本も映画を観て、ミニシアターという場所がなければ生涯出会うことのなかった作品たちと目を合わせ、ときには睡魔に負けてしまい眠ることもしばしばありました。ですが、あの頃は、自分の家のベッドよりも、はるかに寝心地が良かった。
私が唯一安心できる暗闇は、映画館だけでした。私の人生の時間は止まっていて、スクリーンのなかを流れる時間だけを生きていればよかった」
映画館が唯一の居場所だったという橋本は、その経験から文化・芸術のもつ力について語った。
「体は1度死んでしまえば2度と生き返ることはできないけれど、死んだ心は蘇生することができる。生き返らせることができる。それができるのは、文化・芸術にほかなりません。
食事も、医療も、人間も、その全てに光を見出せなかった人の、最後の砦なのだと思います。」
ドイツのモニカ・グリュッタース文化相とも共通する橋本愛の深い言葉
文化・芸術は、医療にも救うことのできなかった人をときに救うことがある。その切実な思いから、橋本は映画の作り手の一人として、観客とミニシアターを守りたいと訴える。
「私たちは作り手として、そこに訪れてきた人たちを、全力で守らなければいけないと思っています。
いま、私のような人が行き場を失っているのではないかと思うと、いても立ってもいられません。ミニシアターがなくなるということは、人の尊い命がなくなるということに等しいと思っています。そしてそれが、この世界の死を意味するということも。」
そして最後、観客含めミニシアターに関わるすべての人に向け、こう呼びかけた。
「絶対に生きて、生きて、生きて、生きて、また、ミニシアターで会いましょう。」
いかがだろうか。橋本の言葉からは、文化・芸術が社会のなかではたす役割に対する認識、作り手として自らが映画というカルチャーを担う一人であるという責任感、受け手や裏方含め映画というカルチャー・コミュニティすべてに対する愛情がひしひしと伝わってくる。
そして、「ミニシアターがなくなることは人の命がなくなることに等しく、世界の死を意味する」という言葉。これは、ミニシアターや映画だけではなく、音楽や小説、マンガにも置き換えられる。橋本は「死んだ心を生き返らせることができる」「全てに光を見出せなかった人の最後の砦」が芸術や文化であることを、自身の体験と実感をもって訴えたのである。
ドイツでは、アーティストやクリエイター、カルチャーに関わる中小企業、フリーランスに対して500億ユーロという世界でも随一の大規模支援を打ち出した際、モニカ・グリュッタース文化相が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。とくに今は」と発言。世界から賞賛を集めた。今回の橋本の言葉はまさにそれに通じるものといえるだろう。
しかし、日本ではいまも、文化事業への補償は「不要不急」として放置され、支援を求める声にも下劣な攻撃の言葉が浴びせられているのが現実だ。そして、百田のような〈作家みたいな職業は生きるか死ぬかの時代には必要ない〉という浅薄な言葉が平気で流通している。
若き人気女優の文化・芸術への深い理解に根ざしたこの言葉がひとりでもおおくの国民に届き、この貧しい状況を変える一歩になることを願ってやまない。
(本田コッペ)
最終更新:2020.05.16 01:49
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