枝野の「薩長同盟」批判は間違ってない、安倍首相の薩長びいきのほうが異常だ! 賊軍差別の影響は現在にも…

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鹿児島入りした安倍首相(公式フェイスクブッブより)

 26日に自民党総裁選への出馬表明をした安倍首相。本サイトでもお伝えしたように、鹿児島でNHK大河ドラマ『西郷どん』を意識したお寒いシロモノだったが、つくづく呆れるのはこの宰相の“薩長史観プロパガンダ”だ。

 安倍首相はこの出馬表明の直前、党の会合で「ちょうど今晩のNHK大河ドラマ『西郷どん』(のテーマ)は『薩長同盟』だ。しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」と講演していたという。

 周知の通り、安倍首相は長州藩の末裔であり、晋三の“晋”の字が長州藩士・高杉晋作に由来するというのは有名な話。本人も幾度となく“長州の血統”を誇示しながら明治政府を礼賛してきたが、それにしても、総裁選に『西郷どん』を利用したうえで「薩長で力を合わせ、新たな時代を切り拓いていきたい」って、薩長を中心とした討幕側が幕府側を蹂躙した日本の近代史を知っていれば、そんなことを軽々しく口にはできないはずだ。一国の首相として恥ずかしすぎるだろう。

 当然、すぐさま反発の声が上がった。たとえば立憲民主党の枝野幸男代表は27日、安倍首相の「薩長で切り拓く」発言についてこう指摘したのだ。

「わが党には鹿児島選出もいる一方で、(薩長と対峙した)福島の人間も、奥羽越列藩同盟の地域だった人間もいる。わが国を分断するような、国全体のリーダーとしては間違った言い方だ」

 内戦に勝って「官軍」と呼ばれた長州の末裔が「薩長で新たな時代を切り開く」と宣言すれば、大勢の戦死者を出した会津ら幕府側の存在を完全にネグることになるのだから、当然の批判だろう。

 ところが、こう批判した枝野代表に対して、ネット右翼や安倍応援団メディアは猛バッシング。たとえば夕刊フジは〈あきれるような低レベルの攻撃〉と枝野氏をなじり、〈これは、NHK大河ドラマ「西郷どん」を意識しながら、幕末に国家の危機に目覚めて手を組んだ長州と薩摩のように、現代の世界やアジアの危機に日本人も目覚めて、協力してほしいという思いを込めたとみられる〉なる安倍首相擁護を展開した。

●安倍首相が礼賛する薩長は、残虐行為で国家転覆を果たしたテロリスト集団

 まったく、お話にならないとはこのことだ。だいたい「幕末に国家の危機に目覚めて手を組んだ長州と薩摩」なるイメージ自体が“薩長史観”そのものだろう。言っておくが、これは明治政府が自分たちの正当性を主張するためにつくりあげたフィクションにほかならない。

 いい機会だから説明しておくが、そもそも明治維新は「薩長を中心とした維新志士たちが、守旧派の幕府側に権利を奪われていた庶民を解放し、日本を西洋諸国と並び立つ近代国家へと導いた」という認識で語られがちだが、事実に即して言えば、薩長とは国家転覆(暴力革命)を成功させたテロリスト集団なのである。

 実際、幕府要人(大老井伊直弼など)の暗殺はもちろん、幕府に協力的とみた商人に対しても略奪や放火などの犯罪を尽くし、さらに戊辰戦争で江戸に攻め入った際にはときに面白半分で庶民まで斬殺していた。これは当時の記録からも明らかになっている。そして、明治新政府以降も薩長ら「官軍」は会津ら「賊軍」を差別し続けた。あの靖国神社がいい例だろう。

 周知の通り、靖国神社の起源は、戊辰戦争での戦没者を弔うために建立された東京招魂社であり、この時に合祀されたのは「官軍」側の戦死者だけだ。西郷隆盛もまた、西南戦争で新政府に刃向かって「賊軍」とされたがゆえに祀られていない。

 もっとも、靖国神社が大好きな安倍首相が、この事実を知らないはずがないだろう。それでも、長州出身の総理大臣が「薩長で新しい時代を切り拓いていきたい」と抵抗感なく嘯いてしまえるのは、まさに安倍首相が国民を「敵」と「味方」に峻別する政治をしているからではないのか。その意味でも枝野氏の「日本を分断するような間違った言い方」という指摘はまったく正しいと言うほかないだろう。

安倍首相は1月の施政方針演説でも薩長礼賛、賊軍差別をなかったことに

 今回だけのことではない。安倍首相による今年1月の施政方針演説を思い出してほしい。安倍首相は冒頭から「150年前、明治という時代が始まったその瞬間を、山川健次郎は、政府軍と戦う白虎隊の一員として迎えました」と、会津藩出身で東京帝国大学の総長を務めた山川健次郎を持ち出し、こう述べた。

「しかし、明治政府は、国の未来のために、彼の能力を活かし、活躍のチャンスを開きました」

「官軍」側の安倍首相が、わざわざ「賊軍」の山川健次郎を持ち出して「明治政府は賊軍の人間にもチャンスを与えてやった」と極めて上から目線で演説をぶったのである。

 印象操作も甚だしい。たしかに、山川は戊辰戦争後、長州藩士・奥平謙輔のもとに身元を預けられ(ちなみに奥平謙輔はのちに萩の乱の首謀者の一人として斬首された)、国費でアメリカへ留学、名門イェール大学で学んだ帰国後は、科学者として研究や後進育成に励んだ。だが、“明治政府は賊軍を受け入れてやった”と言わんばかりの安倍首相の主張は明らかに欺瞞だ。少なくとも、山川ら会津が薩長らから受けた仕打ちを考えれば、そんなことは口が裂けても言えないはずだろう。

 薩長を中心とした討幕軍と明治新政府軍が、実のところ残忍なテロ集団であったことは前述した。そして、戊辰戦争において熾烈を極めたのが、「最大最悪の戦闘」と語り継がれる会津戦争だ。

 なかでも鶴ヶ城では会津藩の非戦闘員を含めた多数が約1カ月間に及ぶ籠城戦を展開。当時10代だった山川も家族とともにこの籠城戦に参加した。新政府軍からの苛烈な攻撃と食料や医療品の困窮で、城内は壮絶な状況となった。山川も編集に携わった史書『會津戊辰戰史』にはこのように記されている。

〈(前略)戦酣(たけなわ)なるに及び病室は殆んど立錐の地なきに至り、手断ち足砕けたる者、満身糜爛したる者、雑然として呻吟す、然れども皆切歯扼腕敵と戦はんとするのを状を為さざる者なし、而して西軍の砲撃益々劇烈なるに及びては、榴弾は病室又は婦人室に破裂して全身を粉砕さられ、肉塊飛散して四壁に血痕を留むる者あり、その悲惨悽愴の光景名状すべからず。〉(引用者の判断で旧字体を新字体に改めた)

 壁に肉片までが飛び散っているとは、まさに惨烈と言わざるをえないが、新政府軍は城内から逃れてくる兵士や民間人を捕まえ、場内の様子を聞き出しており、その危機的状況を知りながら交渉を閉ざして、砲弾を撃ち続けた。そして、会津が降伏した後も、新政府軍は「賊軍」の遺体の埋葬を禁じ、一種の見せしめとして放置した。城下には、会津人の朽ち果てた亡骸が散乱していたという。

 しかし、会津にはさらに過酷な運命が待っていた。新政府軍の戦後処理は、会津藩領を没収し、ほぼ全員を青森の下北半島へ流刑に処すというものだった。不毛の地で寒さや貧窮にあえぎ、子どもや老人が次々と亡くなったという。その後の薩長閥中心の明治でも、会津は辛酸を舐めさせられつづけた。

原発の立地は賊軍地域に集中! 現代もなお色濃く残る賊軍差別の影響

 言うまでもなく、明治政府の中心は薩長閥が占め、一般的に「賊軍」出身者に対する差別的扱いがあったという。近代史家・作家の半藤一利氏によれば、「賊軍」とされた藩は明治になってから経済的に貧窮しており、旧士族の子弟の多くは学費のいらない軍学校や師範学校へ行った。しかし、その軍学校を出て軍人になってからも苦労したようだ。

 たとえば健次郎の兄である山川浩は戊辰戦争後に陸軍軍人になったが、大佐から少将に昇進した際には長州閥の山県有朋が「山川は会津ではないか」と不満をあらわにし、以降、「会津人は少将までしか出世させない」という不文律ができたともいわれる。

 いまだ会津若松で長州や薩摩に対してわだかまりがあると感じる人々がいるというのも頷ける話だ。

 また、「賊軍」に対する差別は廃藩置県にも表れているとされる。半藤氏は「東洋経済オンライン」のインタビュー(2018年1月27日配信)で、宮武外骨の『府藩県制史』を紹介しながら、県名と県庁所在地名が違う17の県のうち「賊軍」とされた藩が14あることなどを例に、県庁所在地を旧藩の中心都市から別にされたり、県名を変えさせられるという「賊軍」地方への差別・ハラスメントを指摘。そのうえでこうも述べている。

〈また、公共投資で差別された面もあります。だから、賊軍と呼ばれ朝敵藩になった県は、どこも開発が遅れたのだと思います。
 いまも原子力発電所が賊軍地域だけに集中しているなどといわれますが、関係あるかもしれません。〉

 実際、現在国内にある17カ所54機の原発のうち、13カ所46機が「賊軍」とされた地域にあるという。この事実について検証した「SAPIO」(小学館)17年9月号の記事では、柏崎刈羽原発が位置する新潟県柏崎市役所防災・原子力課の担当者が「明治維新政府の首脳の地元(官軍地域)が発展して、他は開発から取り残されたと考えられなくはない」などとコメントしている。

 いずれにせよ、こうした「官軍」による「賊軍」差別は、明治政府による「正史」の形成によって正当化されてきた。そしてこの歴史観は、明治から戦前にかけての天皇絶対主義、万邦無比の国体思想と混ざり合いながら、グロテスクに“味方”と“敵”を峻別したのだ。

 こうして歴史を紐解けば、「薩長で力を合わせ、新たな時代を切り拓いていきたい」という安倍首相の言葉の軽さが浮き彫りになる。また、施政方針演説で山川健次郎だけを都合よく持ち出し、「明治政府は、国の未来のために、彼の能力を活かし、活躍のチャンスを開きました」と嘯くペテンも明らかだ。何度でも繰り返すが、「長州の血」を誇る安倍首相が嘯く薩長同盟の礼賛は、まさしく国民を敵と味方に峻別し分断する政治的志向の表れとしか言いようがない。

最終更新:2018.08.30 09:07

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