杉田水脈問題はLGBT差別だけではない! 背景にある安倍首相の復古的国家観、女性蔑視、歴史修正主義

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自民党・杉田水脈議員のTwitterより

「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない」なる雑誌での発言で批判が集中している、自民党の杉田水脈衆院議員。今回はめずらしくテレビなどでも取り上げられており、リベラルなスタンスの人に限らない、様々な層の論客や文化人も批判の声をあげている。

 しかし、今回の問題の本質はLGBTへの差別扇動に限ったことではない。そこにマイノリティ・弱者への差別思想が通底していることは言うまでもないが、このドス黒い思想の淵源には、間違いなく安倍自民党全体を覆う戦前的価値観への復古願望がある。

 そもそも杉田の差別発言は、いまに始まったことではない。

 たとえば杉田は、次世代の党時代の2014年、国会で「男女平等は、絶対に実現しえない反道徳の妄想です」と暴言を吐き、「週刊プレイボーイ」(集英社)でのインタビューでも日本に男女差別は「ない」と断言。また、2016年に「保育園落ちた日本死ね」ブログが話題になった際には、Twitterに〈「保育園落ちた」ということは「あなたよりも必要度の高い人がいた」というだけのこと。言い換えれば「あなたは必要度が低いので自分で何とかしなさい」ということなのです〉と投稿した。

 さらに、同年の産経新聞での連載では、〈旧ソ連崩壊後、弱体化したと思われていたコミンテルンは息を吹き返しつつあります〉として〈これまでも、夫婦別姓、ジェンダーフリー、LGBT支援-などの考えを広め、日本の一番コアな部分である「家族」を崩壊させようと仕掛けてきました。今回の保育所問題もその一環ではないでしょうか〉などという、トンデモとしか言いようがないコミンテルン陰謀論を主張していた。

 杉田の女性蔑視は明らかだが、最近も、ジャーナリスト・山口敬之氏からの準強姦被害を訴えている伊藤詩織さんに対し、絶句するような発言をしている。

 今年6月、BBCが公開した詩織さんの事件を中心にしたドキュメンタリーに出演した杉田は、「彼女の場合はあきらかに、女としても落ち度がありますよね」「社会に生きていたら(男性からのセクハラは)山ほどありますよ」「伊藤詩織さんが記者会見を行なって、ああいう嘘の主張をしたがためにですね、山口さんや山口さんの家族には、死ねとかいうような誹謗中傷のメールとか電話とかが殺到したわけですよ。だから私はこういうのは男性側のほうが本当にひどい被害を被っているんじゃないかなというふうに思っています」などと言い放ったのである。

 つまり、準強姦を訴える女性に対し、「女として落ち度がある」「社会に生きていたら山ほどある」などと言って責めたてながら、「こういうのは男性側のほうが本当にひどい被害を被っている」などと主張したのだ。

 おそらく、ここまで読んだ読者は、杉田水脈なる政治家がなぜこれほどまでおぞましい女性・性的マイノリティへの誹謗中傷や差別扇動を繰り返すのか、理解に苦しんでいることだろう。しかし、杉田議員のファナティックな主張をほぐすと、そこに一本のラインが存在することに気がつく。

 それは、戦前の家父長的家制度の復活に対する、並ならぬシンパシーだ。

杉田水脈のLGBT差別・女性蔑視発言は、すべて安倍首相のコピー

 周知の通り、明治時代につくられた家制度は、男性戸主に家庭内での大きな支配権限を付与し、女性や子ども、また性的マイノリティに対する差別を制度化したが、これは“すべては天皇の赤子たる臣民である”という天皇を頂点にした「家族国家」を形成するためものだった。国家神道の強制との両輪で進められたこの疑似家族的国家観は、国民を一丸とした戦争へと動員し、未曾有の犠牲者を出しながら、この国を敗戦へと導いた。

 家制度は戦後、憲法24条のもとで廃止された。しかしその後も、こうした戦前的価値観は自民党右派を中心に脈々と生き続け、しかもここ十数年で安倍首相とその周辺、とくに日本会議による復古的バックラッシュが一気にエスカレートしている。

 たとえば2007年、日本会議国会議員懇談会による「新憲法制定促進委員会準備会」が発表した「新憲法大綱案」では、現行の憲法24条が否定され、〈祖先を敬い、夫婦・親子・兄弟が助け合って幸福な家庭をつくり、これを子孫に継承していくという、わが国古来の美風としての家族の価値は、これを国家による保護・支援の対象とすべきことを明記する〉と謳われている。

 古屋圭司や萩生田光一、稲田朋美、加藤勝信といった安倍晋三シンパによってつくられたこの大綱案は、安倍首相の意向がもっとも如実に反映されているとみられており、そこでは戦前・戦中への憧憬がダダ漏れになっている。介護や介助、生活の困窮などを「家族」というユニットに押し付けているのはもちろん、ここで〈わが国古来の美風としての家族〉とされているものは、明治の家父長的家制度の元で構築された「家族観」にほかならない。裏を返せば、その「家族観」にそぐわない人々は「国家による保護・支援の対象」から除外すると宣言しているのだ。

 また、自民党が2012年に発表した憲法改正草案では、現行憲法24条に〈家族は、社会の基礎的単位として、尊重される〉〈家族は、互いに助け合わなければならない〉という条文が加えられている。安倍自身、党内議論の初期から「わが国がやるべきことは別姓導入でなく家族制度の立て直しだ」と語っていたとされるが(朝日新聞出版「AERA」06年11月13日号)、その安倍が“夫婦別姓は家族を解体する”として批判した雑誌での発言を振り返ってみる。

「夫婦別姓は家族の解体を意味します。家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという、左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)。これは日教組が教育現場で実行していることです」(ワック「WiLL」2010年7月号)

 杉田水脈による数々の女性蔑視・LGBTヘイトの発言が、その内容や論理構造にいたるまで、こうした安倍晋三を中心とする極右・自民党ががなりたててきた主張のコピーであることは明らかだろう。

杉田水脈LGBT差別発言と安倍自民党の歴史修正主義は同根!

 繰り返すが、戦後に否定された家制度が代表する男性中心主義的かつ国家主義的な家族観にとっては、「性役割」なる虚妄を強く固定する必要がある。ゆえに、その復古的家族観にそぐわない人々の排除を扇動するのだ。

 実は、その大日本帝国へ憧憬は、杉田が血道をあげている慰安婦問題などの戦中日本の戦争犯罪の否定(歴史修正主義)にも通じるものだ。たとえば杉田は、河添恵子との対談本『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)のなかで、慰安婦像について「慰安婦像を何個立ててもそこが爆発されるとなったら、もうそれ以上、建てようと思わない。立つたびに一つひとつ爆破すればいい」などと言い“爆破テロ”まで煽っている。

 そんな杉田を安倍首相が自民党へスカウトした事実も含め、とても正気の沙汰とは思えないが、つまるところ、杉田や安倍のようなリビジョニストから見れば、とりわけ慰安婦問題は、自分たちがかき消したい帝国主義の国家犯罪を明るみにするものであり、かつ、抑圧すべき「女性の権利」の改善運動と結びついたものとして攻撃対象となっているのである。

 すべては、民主主義に漸進する社会を、戦前・戦中日本のような支配構造に立ち戻らせようとする思想の延長線上にある。
 
 LGBTヘイトは、ナチスの優生思想を彷彿とさせる極めて悪質なものであり、いささかたりとも容認できるものではない。もちろん、杉田発言の荒唐無稽さには唖然とする。議員辞職が当然だろう。だが、同時にこの問題を、杉田水脈というどうかしているとしか思えない政治家の暴言とみなし、杉田を批判するだけでは不十分なのだ。

 杉田への批判の大きさを見て、稲田朋美やバリバリ安倍応援団である有本香や上念司らも「自分はちがう」とばかりに杉田に批判的な発言をしているが、彼らも杉田とまったくの同根であることを忘れてはならない。彼らは表面的にLGBT差別発言だけを批判しているが、自分たちが日頃喧伝している歴史修正主義や中韓差別、反民主主義思想はすべて今回の杉田発言と同一線上にあるものだ。

 言っておくが、杉田の「LGBTに税金を使うことに賛同は得られない。生産性がない」という発言は、単なるいち跳ねっ返りの暴言などではなく、現実に安倍首相が推し進めてきた政治にほかならない。「在日に税金を使うことに賛同は得られない」「生活保護に税金を使うことに賛同は得られない」「老人に税金を使うことに賛同は得られない」「病人に税金を使うことに賛同は得られない」……そうやって実際にすでに多くのマイノリティや社会的弱者が切り捨てられてきた。次に排除されるのは、LGBTのみでなく、マイノリティのみでなく、すべての個人の権利と自由だ。

 繰り返すが杉田の差別発言は、まさしく安倍首相の政治のもとで発現した、反民主主義、反人権のグロテスクな国民支配欲求そのものなのである。背景にある安倍政権の復古的国家観、女性蔑視や歴史修正主義との関連に目を向け追及しないかぎり、この流れを止めることはできないだろう。

最終更新:2018.08.20 01:33

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