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欅坂46の衣装がナチスそっくりと炎上! ウケ狙いだけで「ファシズム」「軍服」を安易に取り入れる“秋元康”的手口
「サイレントマジョリティー」
デビューシングル「サイレントマジョリティー」が初週26万1580枚を売り上げ、女性アーティストのデビューシングル初週売り上げ歴代記録を塗り替えるなど、いま最も勢いのある欅坂46。
THE YELLOW MONKEYの吉井和哉やHi-STANDARDの横山健も楽曲を評価するなど業界内人気も高く、デビューから1年も経たずにAKB48以上に握手券の入手が困難になるといった状況もあり、今年の紅白歌合戦にも出場するのではと噂されている同グループだが、現在インターネットを中心に非難を浴びている。先日披露された衣装がナチスの軍服そっくりだというのだ。
問題とされているのは、今月22日に横浜アリーナで行われたライブイベント『PERFECT HALLOWEEN 2016』で披露された衣装。全員お揃いの黒いワンピースだったのだが、それは明らかに軍服をモチーフにしたものだった。
細身の上半身に、狭い幅でタテに二列ならんだボタン、襟の詰まった首元、ひきしまった襟の角度、腕のカフタイトル(袖章)と肩章……。さらに、黒いマント、黒い帽子、とくに帽子に刺繍された鷲のような紋章はナチスのものと酷似している。そして、全身を黒で統一し、ときどき見える裏地の赤との組み合わせは、ナチスのカラーを彷彿とさせる。たしかに、ナチスの軍服を模したと批判されても、仕方のないものだ。
こうした批判に対しては、過剰反応だとか、べつにナチスの思想を肯定しているわけじゃないからいいじゃないかという声が必ずあがってくる。しかし、いまさら言うまでもなく、ナチスといえば、卑劣な人種差別で何百万人もの罪のないユダヤ人をはじめマイノリティを大量虐殺した。つい最近もヒトラーの生家が聖地化することを避けるため取り壊されるというニュースがあったが、ドイツ、ヨーロッパでは、いまも昔話などではなくふたたびナチス思想が力をもつことがないように細心の注意を払っている。ましてや、ハロウィンの仮装コスプレにするような“ネタ”ではない。
実際、無自覚にナチス風のデザインを取り入れた結果、問題となったケースは過去にいくつもある。
たとえば、2011年にはロックバンド・氣志團がテレビ番組で着ていた衣装がナチス親衛隊の制服に似ていると、ユダヤ人人権団体サイモン・ウィーゼンタール・センターから抗議を受け、バンドが所属するソニー・ミュージックアーティスツが公式サイトに謝罪文を出している。メンバー自身も今後は問題の衣装を使用せず廃棄するとの謝罪の声明を出した。
さらに、お隣の韓国でも、14年、デビューしたての女性アイドルグループ・PRITZが着ていた全身黒のゴスロリ風衣装にハーケンクロイツを思わせるようなデザインの腕章がついており大問題となっている。
また、歌手の衣装の話ではないが、ZARAで売られていた胸に大きな星のマークのついた子ども服がナチスの強制収容所で収容者が着せられていた服に似ていると問題になったり、ファッションセンターしまむらで売られていたタンクトップに付属しているペンダントがハーケンクロイツそっくりと炎上した事件も記憶に新しい。
このように無自覚にナチス風のデザインを取り入れたために、発売中止など大きな問題になったケースは少なくない。
ナチスの軍服のデザインがかっこいいから仕方ないというような声もよくあるが、そもそもヒトラーはそうした様式美や芸術を大衆の煽動にいかに利用するかを緻密に考えており、当時もまさに「カッコいい」と憧れて入隊する若者がいたわけで、そうしたものを「カッコいい」と感じてしまう感覚自体に慎重であるべきだ。
しかも欅坂46の場合、今回の衣装がたまたまナチスっぽかったわけではない。おそらく今回の衣装は、欅坂46のデビュー曲にして代表曲である「サイレントマジョリティー」の衣装の今イベント用特別バージョンだと思われる。
先述した、細身の上半身に、狭い幅でタテに二列ならんだボタン、襟の詰まった首元、ひきしまった襟の角度、左腕のカフタイトル(袖章)、肩章……。今回の黒い色やマント、帽子を除くこうした衣装のディテールは、デビュー曲「サイレントマジョリティー」のブルーグリーンの衣装、二曲目「世界には愛しかない」の白地に紺の衣装にも共通しているものだ。「軍服っぽい」という指摘は、それがおもしろいという肯定的な評価も含め、デビュー時からずっとされていた。
実は、そのことは衣装スタッフ自身が認めている。「BRODY」(白夜書房)16年5月号のインタビューに対し、同曲の衣装のデザインと制作を担当した尾内貴美香氏はこのように答えている。
「今回は最初から曲も振付も軍隊っぽい感じを取り入れたいから、カワイイ感じじゃなくてもいい、尾内さんがカッコイイと思う衣装を作ってくださいと言われました」
「いろんな軍服を調べました。それこそ世界各国の軍服から、軍隊をテーマにしたアニメまで。かつ欅坂46のテーマカラーはグリーンなので、それを基調にしようと。ただ、軍服的なグリーンだと重々しく見えてしまうので、顔映りがキレイになるようなブルーグリーンにしたんです」
つまり、「軍隊っぽいカッコいい感じ」というのが、そもそも欅坂のコンセプトになっていたのだ。
「軍服的なグリーンだと重々しく見えてしまう」といかにも軍服っぽい色を避け、ナチス的な色合いでもなかったことから、表面化していなかったが、デビューの時点でおそらく、衣装スタッフが参考にしたという「世界各国の軍服」のなかには、ナチスのものも含まれており、ある程度取り入れていたのだろう。
だが、そもそもナチス以外の軍服であればいいのか、という問題もある。
たしかに、欅坂はアイドルブームも下火となった状況でのデビューだったため、既存のアイドルとの差別化や新しさはそれまで以上に求められただろう。PVではアイドルに必須の笑顔はなく、「かわいい」でなく「かっこいい」というコンセプトだったのは、わかる。「サイレントマジョリティー」の歌詞も、恋愛や友情を歌うような類の一般的なアイドルソングではない。
でも、なぜ「軍服」なのか。乃木坂46がデビューしたときは、AKBをはじめとする48系のグループとの差別化で、同じ制服ファッションでも、スカート丈をあえて膝丈にして上品さ・清潔感を売りにした。欅坂は、さらに禁欲的な印象で「カッコいい」、またアニメなどでも萌えると人気の高い「軍服」をコンセプトとしてチョイスしたのだろう。
しかし、「軍服」をあえて選ぶ必然性はどこにもない。それどころか、「サイレントマジョリティー」に至っては、歌詞でうたっていることは全くの真逆だ。
〈君は君らしく生きていく自由があるんだ 大人たちに支配されるな〉
〈選べることが大事なんだ人に任せるな 行動しなければNoと伝わらない〉
〈君は君らしくやりたいことをやるだけさ One of themに成り下がるな〉
〈見栄やプライドの鎖に繋がれたようなつまらない大人は置いて行け さあ未来は君たちのためにある No!と言いなよ!サイレントマジョリティー〉
〈誰かのあとついて行けば 傷つかないけど その群れが総意だと ひとまとめにされる〉
そう、「サイレントマジョリティー」は“同調圧力に負けるな”と歌っているのだ。対して軍服は集団至上主義や同調圧力の象徴だ。アイロニーとして軍服や軍隊風の振付なのかと最初は思ったが、その後、軍服も軍隊風の振付も批判的な視線にさらされることはなかった。
一方、振付のTAKAHIRO氏は、前掲「BRODY」16年5月号のインタビューで、
「この曲からは『社会のシステマティックさと、若者の自我の焔の両面を対比させた画』というイメージが伝わってきました。衝動や衝撃、若さの中の不安定さ、それに打ち勝つパワーをバランスよく表現しようと思いました。」
と語っているが、PVから伝わってくるのは、「社会のシステマティックさ」だけで、「若者の自我の焰」はほとんど感じられない。同曲ではサビ部分でセンターの平手友梨奈が、ナチス式敬礼にも見えるポーズでメンバーの群れをかきわけて前に進み出る振りがあるが、まさかこれが「若者の自我の焰」なのだろうか。
歌詞を考えた人間とPVのコンセプトを考えた人間が、本当に同一人物なのかと疑いたくなる。軍服風の衣装、軍隊の敬礼や行進を彷彿とさせる振付、突出したセンター……強いインパクトを求めるあまり、安易でわかりやすい「ファシズム」というファッションに飛びついたのではないか、という気もしてくる。
実際、欅坂46のファシズムファッションは「軍服」だけではない。メンバー全員が出演したテレビドラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京)では、目の部分をくり抜いた紙袋を出演者がかぶっているシーンが何度も登場し、「これ、KKKっぽい」と、差別思想を掲げて有色人種に卑劣な暴力を加えたアメリカの秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)の服装との類似性も囁かれたこともある。
もちろん、こうした安易な仕掛けの裏には、秋元康の存在があるはずだ。最近の秋元康が欅坂46のセンターを務める平手を、かつての前田敦子や島崎遥香、宮脇咲良のように頻繁に観劇に同伴するなど寵愛していることはファンの間では有名な話だが、もちろん欅坂とのかかわりは、それだけではない。
たとえば「日経エンタテインメント!」(日経BP社)のインタビューで秋元は、
「欅坂46もオーディションに合格したメンバーと話したり、あるいは楽曲を選んだりしているうちに、なんとなく今の自分がやりたかったことはこういうことなのかなと気づいてきました。初めから『サイレントマジョリティー』での、笑顔がないアイドルを作ろうと思ったわけではないんです。」
また二曲目の「世界には愛しかない」についても、
「この子の雰囲気はこのセリフに合うなというように、誰がどこを歌うのかを決めていきました。
僕の中では女子高の演劇部みたいなものがあったら面白いんじゃないかというイメージがあって。例えば「舞台に立ったときに平手(友梨奈)が走ってきて、このセリフをどういうふうに言う?」というように、セリフの言い回しや解釈について話し合いながらレコーディングを進めたんです。」
と語っている。
だからといって、秋元が“お友だち”である安倍首相の軍国主義路線を先取りして……などという陰謀論を語るつもりは毛頭ない。
HKT48の「アインシュタインよりディアナ・アグロン」炎上問題のときと同じで、流行りものを深く考えもせず、なんとなく使ってみただけ。単に「アイドルと軍服、おもしろいんじゃない?」くらいの、無自覚なものにすぎないだろう。
でも、その無自覚こそ危ない。先述のとおり、軍服のカッコよさや集団行動の様式美みたいなところから軍隊への憧れを抱く者も当然いるわけで、ヒトラーはじめ権力者たちはそれを少なからず狙ってきた。どういう思想のもとに生まれたかを抜きにして、ただデザインがいいから、美しいから、というのは無防備すぎる。
レニの映画やワグナーの音楽を芸術として評価するとしても、それらの作品を思想抜きで語ることはやはりできないだろう。いいと思ってしまうことに、留保が必要だ。とくに、為政者が「美しい国」を語り、そこに異論を唱える者を反日と攻撃する、いまの日本ではなおさらだ。
(酒井まど)
最終更新:2017.11.12 02:29
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