「女子アナは売女!」小島慶子の女子アナ小説が生々しすぎる! 男性Pは女衒と暴露も

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オスカープロモーション公式サイトより


 フリーに転身したものの番組が大コケした田中みな実に、不仲説が飛び交うフジテレビのエース・加藤綾子と生野陽子。……日々、週刊誌やネットニュースを賑わせる「女子アナ」という存在。ある意味、女優やアイドル以上の“狭き門”を突破した彼女たちはつねに世間(というか、ゴシップ界)から注目を集めるが、その内部を描いた小説『わたしの神様』(幻冬舎)が発売され、いま、大きな話題を呼んでいる。

 というのも、著者は元TBSアナウンサーでタレント、エッセイストの小島慶子。元・女子アナが描いたということはかなり現実味のある話だと思われるが、その中身は想像のはるか上をゆく“ドロドロ”ぶりなのだ。

 まず、本作はこんな文章からはじまる。

〈私には、ブスの気持ちがわからない〉

〈男と張り合うよりも、可愛がられた方が得だ。それが望めない女だけだ、男と対等に働きたいなんて負け惜しみを言うのは〉
〈平凡な容姿に生まれた人は、どうして私たちを容姿がいいというだけで、高慢ちきな嫌な女だと決めつけるのだろう〉

 この語り部は、本作の主要人物のひとりである、仁和まなみ。圧倒的なビジュアルを誇り、“テレビも雑誌も男がつくっている”“男を味方につければあとは女に嫌われないようにすればいい”という持論のもと、〈つまらないごく普通の女〉を演じることで人気ナンバーワンまで登り詰めた女子アナだ。

 一方、そんなまなみの先輩女子アナ・佐野アリサは、地味な仕事をこなしてきた堅実派。しかし、同期のゴシップを週刊誌でチェックしてはほくそ笑み、〈ほら見ろ〉〈勘違い女の末路は哀れだ〉と毒づく。産休を機に夕方のニュース枠を後輩のまなみに奪われるが、〈寄る辺ない独身女と、基盤のある選ばれた女。私はまっとうな女だ〉とほかの女たちを見下している。

 ……この人物紹介だけでも、女のあざとさ、計算高さがこれでもかと詰め込まれており少々うんざりしてしまうが、ここにアナウンサー試験を最終面接で落とされ記者採用された立浪望美や、性同一性障害を抱え、女子アナを辞めて失踪してしまう滝野ルイなどが絡んでくるから、もう大変! 週刊誌を巻きこんだスキャンダル合戦に、視聴率による評価の上がり下がり、スタイリストが付いた女子アナへのやっかみ、人気小説家から大手広告代理店社員へ男を乗り換える際の見極めなどなど、ドラマ『ファースト・クラス』(フジテレビ系)を凌駕する、強烈なマウンティング地獄が繰り広げられるのである。

 だが、こうした女同士の争いが勃発するのは、テレビ局が“男性社会”であるためだ。たとえば、仲の良さを強調するために男性社員は女子アナを「おまえ」呼ばわりし、男性プロデューサーは番組に抜擢した女子アナを「客をつけてやった」などと言う。著者の小島は、そんな男性たちを「ただの女衒だ」と表現する。

〈女子アナをちやほやしている男たちは、皆私たちを売女だと思っている。出たがり女の欲望につけ込んで、ちっぽけな支配欲を満たそうとする臆病者どもだ〉
〈いくら口では優秀な女性がいいとか言っていても、男は所詮、女は男の手中 に収まる程度に賢ければいいと思っているのだ。そうである限りは引き上げて もらえるが、自分よりも優秀だとわかると、男は総掛かりで女を引き摺り下ろしにかかる〉

 これは、きっと小島自身の経験が反映されているのだろう。事実、以前パーソナリティを務めていた『小島慶子 キラキラ』(TBSラジオ)にマツコ・デラックスがゲスト出演した際、「基本的にオヤジとかから嫌われるタイプじゃない、あなた」とマツコに問われ、小島はこう答えていた。

「わたしねえ、15年、局アナやってねえ、ほんとうに適性に限界を感じて辞めたのは、正にそれなのよね。男性優位社会のなかで得をするのが女性アナウンサーだから」

 こう告白したあと、マツコから「女が男権社会で生きていこうって思ったら、ホステス紛いのふりをできる女じゃないと生き残っていけないのよ」と言われると、小島は「ものすごく共感する」と相づちを打っていた。ホステス紛いのふり、この言葉を小島は本作のなかで“コスプレ”に互換し、女子アナを辞めた滝野ルイにこう語らせている。
 
「女性アナウンサーって、すごくコスプレっぽいと思うんです。年収も高いですし、言ってみれば究極の勝ち組女子コスプレではないかと」

 そして、「女子アナコスプレ」が自然とできてしまう女子とは“見られる女”であることにずっとむかしから自覚的であり、かつ、それを“満たされている人には必要ない作業”と述べる。

「テレビみたいないろんなことを言われる場所にわざわざ出て行くなんて、ほんとに幸せな女の子なら、そんなことしないですよ。そういう意味では、女子アナって自分と折り合いがつかない人たちの集団なのかなって気もします。同病相憐れむというか」

 男性によって“見られる”=認められる性であること、そのことで自分が承認されたような気になり、もっと多くの人に認められたいと願う。さらに女子アナとなれば、それなりの学歴も要求される。たしかに女子アナとは、男性に欲望されるという色と、学歴という才、そして高年収をも手に入れる“究極の勝ち組女子”なのかもしれない。

 しかし、それはマツコも指摘しているように、「男性優位社会」という世界のなかの話だ。そして、小島は本作でもこの点を強調する。

 たとえば、女子アナになれず記者という道からディレクターに進む望美は〈男の領域は排他的で独善的な互助会なのだ〉と言い、〈私はそれに媚びて甘い汁を吸う女なんかじゃない。正当に評価されたいのだ〉と、男性社会のなかでうまく立ち回る女子アナたちを腐すが、そのあと小島は〈自分がそうやって無意識に男に権威づけをしていることに望美は気付いていない〉と書く。そう、小器用で物わかりのいいふりをして男に取り入る女を女は嫌うが、それ自体が〈理想化した男への信仰〉であり、女の〈女嫌いの源〉になっているのだ、と。

 そう考えると、なぜ田中みな実が世の女たちから嫌われ、水卜麻美が気に入られるのかがわかるような気がしてくる。ぶりっこという古典的な技法を駆使する田中が嫌われる理由はいわずもがなだが、水卜の人気は、大口で肉にかぶりついたり、女子アナの標準からは少し過体重に見える(もちろん、あくまで女子アナの標準でしかない)点など、“男ウケを捨てている”ところにあるのだろう。でも、それだっていままでの“女子アナ基準”が厳しすぎただけで、男たちにとっては別段、ミトちゃんが女を捨てているようには見えないはずだ。そして、水卜は別に女子アナの枠を逸脱してはいない。あくまで謙虚だし、食レポ以外はじつに女子アナらしい振る舞いを心がけている。

 逆にいえば、小島ほど女子アナという枠を逸脱した女はいなかった。今年2月、「週刊朝日」(朝日新聞出版)で林真理子と対談した際に小島は、

「アイドル女子アナとか、お嫁さんにしたい人気女子アナとかにすごく憧れてたんですけど、そういう路線で需要がなかったので、敗北感にまみれていたんです」

 と語っている。アイドルアナになれなかった敗北感……それが今回の小説を彼女に書かせたのかもしれないが、女子アナ時代の彼女は敗北感というよりやさぐれ感のほうが際立っていた。たとえば、彼女がまだTBSに在籍中、深夜に『デジ@缶』という女子アナが出演するロケ番組があり、そのレギュラーを務めていたのだが、ほかの女子アナはきゃいきゃいと騒いでも小島だけはムッツリ。毎週、じつに不機嫌な様子で、青木裕子や出水麻衣がそれらしく食レポをして「おいしーい!」と言っても、小島だけは絶対に大袈裟なリアクションをとらなかった。いまにして思えば小島はそれほどに、小説にも描いた“女子アナコスプレ”に嫌気がさしていたのだろう。

 しかし、この小説を読んで気になったのは、用意された女子アナの進む道が、玉の輿に乗ることか産休明けに電話番に回されることの二択しかなかったことだ。アイドルアナ路線を歩めなかった小島は、ラジオに活路を見出し、パーソナリティとして個性を発揮して現在の地位を得たのはご存じの通り。そんな彼女だから指し示せる、記号化された「女子アナ」ではなく「女性アナウンサー」の道があったようにも思うのだ。

 実際、「女子アナの定年は30歳」と呼ばれてきたなかで出産しても職場復帰する女子アナは増えているし、小島と同期の堀井美香も小川知子も、出産後いまだ現役だ。また、小島と同年代のNHK・有働由美子などは、脇汗の多さを視聴者にツッコまれても逆に特集にしてみたり、朝から膣を締める運動を実践してみせたりと、いまなお現場で新しい女子アナ像を築きつつある。

 ついでにいえば、TBSには小島の先輩として定年まで勤め上げた吉川美代子や、それにつづく長峰由紀だって健在だ。だが、なぜか小島の小説は“女子アナコスプレ”論に終始してしまう。コスプレから脱却し、女子アナからキャスターになった吉川や長峰のような同性の先輩を、なぜ小島は一切描かなかったのか。

 もしかすると、小島はそのじつ、まだ“女子アナの呪縛”から解き放たれていないのではないか。だからこそ、小説とはいえ生々しすぎる女性同士のマウンティングが描けたのではないか。──エンタメ小説としてグイグイ読ませるだけに、そうした部分が少し心配になるのだった。
(田岡 尼)

最終更新:2015.05.26 11:17

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