ワイドショーが中国人観光客マナー批判の大合唱! 『スッキリ!!』ではヘイト発言も

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勝谷誠彦公式サイトより


 先日2月12日、『とくダネ!』(フジテレビ系)MCの小倉智昭氏が「韓国の人は自分の責任を感じるよりも、まず他人のせいにしたがるの?」と発言、これはヘイト発言だとして大きな問題となった。しかし、今度は日本テレビの『スッキリ!!』で、またしてもヘイトまがいの発言が飛び出した。

「いまさら教育しても直りません。こういう国だから孔子は論語っていうものを書いて礼儀を大事にしようって言ったんだけど、いまだかつて何千年直ったことがない。中国にないのは、マナーと民主主義です。永遠にないと思う、ぼくは」

 発言者は、『スッキリ!!』ゲストコメンテーターの勝谷誠彦氏。昨日放送された、旧暦の正月である春節を迎えて日本に押し寄せている中国人観光客の、銀座での買い物事情と、そのマナーの悪さを紹介するコーナーが終わりにさしかかったころ、突如として勝谷が吠えはじめたのだ。

 勝谷氏は、冒頭の言葉のあと、こうつづけた。

「もうひとつ言いたい。銀座は目先の金に飛びついていますよ! ね? 後悔しますよ。今回、向こうから来ているけれども、中国の人件費安いからっていっぱい出て行きました(日本の)企業。いま、ほとんどが後悔して撤退しようとしているけれども、うまくいかない。これねえ、日本の温泉地とかいくつか高級な場所知っています。日本人が来なくなります。ぼくだって行きたくありません、こんな銀座は。どっちを選ぶかです。(銀座は)目先のそういう金が欲しいのか」

 このように一気呵成に勝谷氏が演説をぶつと、MCの加藤浩次氏とテリー伊藤氏も困惑。フォローするようにテリー氏が、「とは言っても(中国人が観光に)来ることによって、日本という国を理解してくれて、本国に帰って“日本ってすばらしい!”と言ってくれると、日本と中国の交流はよくなるわけじゃないですか」と述べるが、勝谷氏は「よくなりません!」と再び否定。「歴史的事実を言っているだけだから!」とヒステリックにがなり立てた。

 勝谷氏といえば、すでに降板したが『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ系)でも嫌韓反中の態度を示し、過激な発言を繰り返してきた人物。その罵詈雑言がネトウヨからの支持を集めてきたが、今回の放送でも、Twitter上の反応は「よくぞおっしゃった!」「スッキリで勝谷が正論言いまくりでスッキリだわ」と勝谷氏の発言を肯定する意見も多く寄せられた。

 この中国人観光客の公共マナー問題については『スッキリ!!』に限らず他局でも大きく取り上げられているが、語られるのはいつも「日本人にとっては信じられない光景」という意見ばかり。日本人は行儀正しく、街もきれいで、みんなゴミはきちんとゴミ箱に捨てるのに……と、まるで日本人はむかしからマナーを守る民族だと言わんばかりに誇らしげだ。

 しかし、そんな公共意識や衛生概念を日本人がもつようになったのは、つい最近の話。むかしは日本人だって、中国人と似たようなマナーの悪さだったのだ。

 そう指摘するのは、ご存じ池上彰氏。池上氏は「世界」(岩波書店)14年12月号で、過去の日本の風景をこう語っている。

〈「昔はよかった」とか「取り戻そう」というのも、その「昔」とは何なのでしょうか。日本はいま街にゴミを捨てる人もいないけれど、一九六四年の東京オリンピックの前に一大キャンペーンが行われるまでは本当にゴミだらけで、青山通りから渋谷は、風が吹くとゴミが舞っていた。「ものを捨てないようにしましょう、行列をつくりましょうという一大運動をやって日本は劇的によくなったんだよ」「いま同じような国があるだろう? ヨーロッパで高いブランド品を買い集めて顰蹙を買っているけれども、日本も七〇年代は全く同じことをやって、一九九〇年代には韓国、いまは中国がそうなった」という話をすると、みんなびっくりします。〉

 首都・東京でさえ、人びとが捨てたゴミで街が溢れていた──。だが、これは池上の記憶だけではない。『「昔はよかった」と言うけれど 戦前のマナー・モラルから考える』(大倉幸宏/新評論)という本では、いかに戦前の日本はマナーが悪かったかが、克明に記されている。

 たとえば、電車の車内では人が押し合い、乗客同士が衣類を裂いたり、怪我をさせるなんてことも日常茶飯事。年寄りに席をゆずることもなく、窓から平気でビール瓶を投げ捨てるため、鉄道会社の保安員が大けがを負う事件も発生していた。日本人が混雑した駅のホームで列をつくって待つようになったのは、つい最近のことなのだ。

 さらに、驚くのは天皇の誕生日を祝う天長節のパーティでも、食器やカトラリー類を盗んで帰る来客はめずらしくなかった、ということ。こうした場に出席するような身分の高い人間でさえ窃盗をはたらくことを躊躇しない、そんな程度のモラルしか日本人はもちあわせていなかったのだ。

 勝谷氏はマナーの悪い中国人で溢れる銀座に行きたくないというが、むかしの銀座は、同じようにマナーのなっていない日本人で溢れていたわけである。そんな過去もなかったことにして中国人のマナーにだけ目くじらを立てるあたりは、さすが“歴史修正主義者”の面目躍如というべきかもしれない。

 だが、勝谷氏の発言は見過ごせない問題をはらんでいる。それは、「いまさら教育しても直りません」と断言している点だ。日本も同じような道を通ってきたにもかかわらず、都合の悪い歴史は棚上げして、中国や韓国を叩く材料にする。そして、それは「直らない」と決めつける。マナー問題に限らず、こうして頭から決めてかかる態度によって、日本は優れた国、中国・韓国は劣った国といういびつな印象操作を行うのは、ヘイト以外の何者でもない。前述の池上氏も、今回のような言説を、こう批判している。

〈歴史的発展段階で通る過程において起きることを、韓国だから中国だからこうなんだといって叩いている。ちょっと前は日本だって同じだったよ、という歴史も知らないまま日本の誇りを持つというのは、非常に歪んでいます。〉
〈昔から日本は清潔好きで、行列はちゃんとつくる優等民族だという発想がこわいですね。民族の問題じゃない。発展段階や政治体制の問題なのに。〉

 歪んだ優越感と差別意識の「恥」というものを私たちはもっと自覚すべきだろう。
(水井多賀子)

最終更新:2017.12.13 09:36

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