佐世保女子高生殺害事件とボカロ『GUMI』 なぜ被害者も加害者も…

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『megpoid公式ファンブック GUMIの軌跡』(ワニブックス)

 長崎県佐世保市で起きた女子高生殺害事件。15歳の少女が同級生の少女を殺害し、頭部や手首を切断するなどかなりショッキングな事件だったため、世間に大きな衝撃を与えた。被害者の少女は加害者少女にとって仲のいい友だちの1人だったらしく、2人の間にトラブルはなかったという。そして、「週刊文春」(文藝春秋)8月7日号によると、2人にはある共通の趣味があった。それが、ボカロことボーカロイドだ。この記事のなかで被害者の後輩が「(被害者と加害者の少女ふたりは)『GUMI』というキャラがお気に入りだったようです。関連するグッズや本も持っていました」と語っている。このGUMIとは、一体どんなものだったのだろう?

 ボカロと聞くと、真っ先に初音ミクが思い浮かぶかもしれないが、ミクと並び人気も高いのが、株式会社インターネットから2009年にリリースされたMegpoid(通称GUMI)だ。GUMIには、それまで発売されていたクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の初音ミクや鏡音リン・レンなどとは違い、“中の人”の声を忠実に再現している。すなわち、ボーカロイドでありながら、あえて人間らしくなるように調整されている製品なのだ。その“中の人”を担当したのが、『マクロスF』のヒロインであるランカ・リーや、『ハピネスチャージプリキュア!』でキュアラブリーを演じている声優の中島愛である。

 株式会社インターネットからは、先行してGACKTの声をベースにした「がくっぽいど(神威がくぽ)」が発売されていたため、当時はがくぽに妹が登場するとユーザーのあいだでは盛り上がった。しかし、発表されたキャラにはミクほどの強いイメージがなく、特徴と言えば緑の髪とゴーグルぐらい。それが、中島の演じたランカ・リーと似た容姿だったことも含め、「中途半端だ」という批判も多かったらしい。そのため発売当初はGUMIを使うボカロPも少なく、なかなかヒット作にも恵まれなかった。しかし、10年にDECO*27がアップした「モザイクロール」をきっかけに、GUMIの楽曲は爆発的に増えていったようだ。

 そして、今年で5周年を迎えたGUMI。GUMIを用いて作詞・作曲などを手掛けたボカロPやイラスト、動画で携わった絵師がGUMIの魅力を語った『megpoid公式ファンブック GUMIの軌跡』(ワニブックス)も発売された。ほぼGUMIしか使ったことがないというボカロPのYMは、GUMIの魅力を「ある意味VOCALOIDらしくない自然な人の声のように聴こえることと、ちょっと影があるというか哀愁があるような印象を持っていました」と語っている。また別のボカロPであるkoyori(電ポルP)も、「暗いというか切ないというか。マイナーな曲調とか。感情……エモーショナルみたいなものを訴えかけるような曲だとかなりGUMIが映える」と述べている。GUMIは、ボカロでありながらかなり感情的に歌わせることができるため、作り手の思う感情や歌い方をトレースすることもでき、聴く人の心にも入っていきやすいのだ。

 さらに、ボカロPの調教によって特徴が出るミクとは違い、GUMIの場合は調整する人による特色が出づらい。そのため、聴く人は調教技術よりもメロディーや歌詞自体に目を向けるので、“歌”を聞かせたい作り手たちに受けたのだろう。そのうえ、当初批判されていたイメージの希薄さも、逆にGUMIの魅力になっていった。ミクのように、ツインテールでミニスカ、サイハイブーツなど、オタク受けするようなインパクトのある見た目ではなかったGUMI。ミクと同じキラキラしたアイドル的存在でもなく、作り手や聴く人によって変化する、もっと身近で素朴な等身大の女の子キャラなのだ。

 そんなGUMIの曲は、それまでのミクのために作ったミクの曲ではなく、GUMIを通して等身大の女の子のことを歌わせたJ-POPのようなものだったからこそ、多くの人の共感を得ることができたのだろう。実際、DECO*27の「弱虫モンブラン」やkoyori(電ポルP)の「恋空予報」、TOKOTOKO(西沢さんP)の「君の好きな本」、Last Note.の「オサナナブルー」、HoneyWorksの「告白予行練習」を中心とした恋愛シリーズなど、GUMIの曲には特別ではない、どこにでもいるようなごく普通の女の子視点で書かれた恋愛ソングがたくさんある。恋愛ソング以外でも、少女の憂鬱な心を描いたすこっぷの「妄想メランコリー」や、夢の中でなら輝けるのにと思う少女の心情を歌ったLast Note.の「セツナトリップ」など、思春期の揺れ動く心を表現した作品が並んでいる。そんなところが、今の女子中高生にうけたのだろう。

 事件後の取り調べでは「人を殺してみたかった」「遺体をバラバラにしてみたかった」と語る加害者少女。自宅の冷蔵庫から猫の頭部と思われるものが発見されたり、父親を金属バットで殴り、寝ている母親を殺そうとしたこともあったと告白するなど、彼女の猟奇性や異常性ばかりが取りざたされているが、それとGUMIを好きだという少女の姿はかけ離れており、なんだか違和感が残る。

 たしかにGUMIは機械だが、人の感情をのせるのにはもっとも適したボカロとも言われている。もしかすると加害者少女も、実際は恋愛に憧れたり、友だちとの距離を上手く測れないことに悩んだりする、どこにでもいそうな普通の女の子だったのかもしれない。だからと言って彼女が犯した罪は決して許されるものではないが、その動機にも別の何かがあるのではないか──そんなふうに感じるのは筆者だけだろうか。
(田口いなす)

最終更新:2018.10.18 04:13

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