「ガンが消えた」はアリ? ブームの健康本どこまで許されるのか?

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『食べものだけで余命3か月のガンが消えた』(幻冬舎)

 日本でもっとも多い死亡原因はガンであるというのは、みなさんご存じの通りだろう。2013年度も死亡率が高い疾患ワースト1位はやっぱりガンで、その数は36万5000人。4人に1人はガンで亡くなるということになる。

 そんななか、いま注目を集めている本がある。それは『食べものだけで余命3か月のガンが消えた 全身末期ガンから生還した、私のオーガニック薬膳ライフ』(高遠智子/幻冬舎)。“ガンが消えた”“全身末期ガンから生還”と、にわかには信じがたい言葉がタイトルに並んだこの本だが、なんと発売からわずか1か月で20万部を超えるベストセラーを記録しているのだ。──いったい、どうしたらガンが消えるというのか。本書を読んでみよう。

 まず、著者である高遠氏は、万遊製薬(現MSD)に勤務していた28歳のときに「予後の悪い卵巣ガンでステージ4」「余命はおそらく半年」と宣告される。最初の手術では「余命わずかなので」身体に負担をかけないよう「最小限の手術」が行われた。続いて抗ガン剤治療と放射線治療がスタート。治療と再発を繰り返しながらも、3年近くが経過したという。

 しかし、その3年目に「肺に腺ガン」が見つかり、再び余命が「3か月くらい」と言い渡される。ここで高遠氏は「私は、ガンとの戦いに負けたのだ」と現状を受け入れ、“好きな画家・モネの絵と、モネの家の庭園を見にフランスに行く”と決断。医者に「もう治療は一切しません」と宣言し、立ち上がることもできない身体でフランスに向かうのだ。

 だが、フランスには大きな“奇跡”が待っていた。それは偶然立ち寄ったモンマルトルの市場で食べた、セミドライのトマト。トマト嫌いだった上に味覚障害で味も感じられない状態だったはずが、一口かじった瞬間に、「美味しい♪」。抗ガン剤の副作用で唾液腺が詰まっていたのに、どんどん唾液が分泌され、いつのまにか苦しかった咳は治まっていたという。

 で、ここからが高遠氏のすごいところなのだが、この奇跡のトマトとの出会いによって「これは食について向き合えってことじゃない?」と感じ、その足でパリの料理学校リッツエスコフィエに嘆願書をもって直談判。校長から条件付きで許可が下り、なんと食の勉強を始めてしまうのだ。入学条件の観光ビザが下りたときには、「余命タイムリミットの前日」だったという。

 2度にわたる末期ガン宣告を受け、さらには治療も放棄した患者がパリで料理修行……と、ここまででも驚きの連続ではあるが、さらに自力で歩けなくなっていた著者は、この修行中にいつしか体力を取り戻し、パンをこねるなどのハードな作業もできるように。しかも、彼女が気を付けていたというのは、

「痛みと熱に対応できる食材を選び、胃粘膜の保護、唾液分泌促進を考えて食事を摂るようにしていました。体を常に温めるようにして決して冷たいものは摂らず、朝・晩足浴するようにして、手足の指を全部動かし、関節を動かしつつ過ごしていました」

 という実にシンプルなことだけなのだ。その後4年間パリで勉強し、続いて中国で学び、日本に帰国してからは料理教室を主宰しているほどだから、“全身末期ガンから生還”したといえるのかもしれない。だが、この高遠氏の経験が事実だったとしても、現代の医学においては“奇跡”としか言いようがないことは明白。科学的根拠がないなかで“食べ物だけでガンが消えた”と謳うのは、誤解を生じさせてしまうのでは?と疑問が湧いてくる。

 実際、そうした疑問を「FLASH」が追跡。7月5日号では、『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋)などのベストセラーで知られるガン治療の専門家・近藤誠氏が本書の内容を検証し、「食事でガンが消えるなんて本当に詐欺」と憤慨。さらに15日号では、高遠氏の経歴詐称疑惑にまで発展している。

 しかし、“ガンが消えた”などと扇動しているのは、なにも本書だけではない。『今あるガンが消えていく食事』『ガンが消える食べ物事典』『ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する!』『がん患者は玄米を食べなさい』『これを食べれば医者はいらない』など食事でガンが治ると謳う本は山ほどある。“抗ガン剤は効かない”と主張する前出の近藤氏に対しても“思考停止の証拠”“たんなるトンデモ本”という批判が起こっているのだ。

 もちろん、問題はガンに限らず、健康本全般にいえることだ。たとえば、“ふくらはぎは第2の心臓”“ふくらはぎをもめば免疫力がアップする”ことを謳い、95万部を突破した話題の本『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』(著・槙孝子/監修・鬼木豊)にも、「週刊文春」(7月10日号)が「医学的にありえないこと」「詐欺商法」などと批判している。だが、こうした本を手に取る読者には、当然ながらトンデモ本なのかどうかをジャッジできる専門知識がない。出版社はそのことに付け込み、“○○だけでガンが治る”“××すれば健康になる”と煽っているのだ。

 病気はとりわけセンシティブな問題である。とくに命に関わる話は、藁をもすがる思いで読者は頼りにする。そうしたことを考えると、根拠も示さず安易に焚きつける行為は、「詐欺」といわれても仕方がない。出版社にはもっと慎重さをもって内容を吟味し、正しい情報を提供してほしいものだ。
(田岡 尼)

最終更新:2014.07.13 03:41

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