サンド伊達「ブルジョア障害者は差別用語じゃない」はなぜ間違っているのか? 「新しいレイシズム」は差別じゃないフリを装う

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ありもしない「弱者の特権」を攻撃し差別を正当化する“新しいレイシズム”

 そして、「ブルジョア障害者」なる差別発言が出てきた背景には、もうひとつ、「弱者が優遇されている」との意識がある。

 こういった差別のあり方は近年とみに増えてきた傾向のものだ。

『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)に寄せた論文で社会心理学者の高史明氏は、日本における在日差別を分析するなかで、ここ最近アメリカの研究で明らかになってきた「古いレイシズム」と「新しいレイシズム」という考え方を紹介している。

〈「古いレイシズム」というのは、「マイノリティは(能力的・道徳的に)劣っている」といった信念(belief)にもとづく、露骨なレイシズムである。一方、「新しいレイシズム」というのは、「差別は既に存在していないのだから、現存する格差はマイノリティの努力不足によるものだ、にもかかわらずマイノリティは「差別」に抗議し不当な特権を得ている」という信念にもとづく、表面的には隠微なレイシズムである。アメリカでの研究では、公民権運動などを経て「古いレイシズム」が社会的に容認されなくなるにしたがって、「新しいレイシズム」が広まってきたことが指摘されている〉

〈こうした「新しいレイシズム」が、単なる政治的意見であるかのように装いながら紛れもなく「偏見」であることは、国内外の研究で指摘されてきた〉

 これは、アメリカにおける黒人差別問題だけに限らず、日本で起きている差別問題にも共通している。

 いわゆる「在日特権」デマや女性専用車両への男性乗り込み問題、そして、先日の杉田水脈議員による性的マイノリティ差別論文などの例を見ても明らかなように、実際には特権でもなんでもない偽の「特権性」をあげつらうのは、近年マイノリティへの差別と排除を正当化しようとするレイシストの常套手段となっている。今回問題となっている障害者差別もこの構造と共通している。

 このように、現代における差別の構造は巧妙になっている。だから、差別的表現も放送禁止用語のように単語ひとつで差別用語とわかるようなわかりやすいかたちを必ずしもとらない。それが差別となるかどうかは「文脈」で理解しなければならないのである。

 坂上が指摘したように、「ブルジョア」という言葉自体は差別語ではない。使われる場面によってはお金を持っている人間に対する揶揄のニュアンスも込められるとはいえ、辞書的には「資本家階級」という意味に過ぎない言葉だ。だから、伊達も「差別的な用語ではないですよね?」と言ったのだろう。

 ただ、先に述べた通り、言葉は使われた文脈で判断するべきである。その単語のみで問題なくとも、使われ方によって差別的な意味合いをもつことは多々ある。

 しかし、現在のメディアでは、そういった個別のケースで差別問題やコンプライアンスについて考えるのを忌避して思考停止する傾向がある。差別表現についての一面的なルールブックを要請した松本人志の発言がその典型だろう。

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