出版ラッシュ!関東連合本の“紙上バトルロワイヤル”を読み解く

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『破戒の連鎖 いびつな絆が生まれた時代』(宝島社)

 また二冊、新たに“関東連合本”が出版された。一冊は、六本木クラブ襲撃事件に関与したとされる石元太一被告が塀の内側から上梓した『反証 六本木クラブ襲撃事件「逮捕からの700日」』(双葉社)。そして、もう一冊は、“関東連合本”ブームの火付け役である元幹部・工藤明男(筆名)の2作目『破戒の連鎖 いびつな絆が生まれた時代』(宝島社)だ。

 関東連合と言えば、“半グレ”とも呼ばれる代表的なアウトロー集団。12年には六本木のクラブで、“人違い”により一般男性を襲い、金属バットなどで撲殺するという事件を起こして、世間を騒然とさせた。

 この六本木クラブ襲撃事件で現在までに少なくとも18名が逮捕されたが、関東連合のトップで事件の主犯とされる見立真一容疑者はいまだに検挙されていない。警察は見立容疑者が海外に逃亡していると見ており、国際指名手配にかけて行方を追っている。

 13年7月に出版された工藤明男の第一作『いびつな絆 関東連合の真実』(宝島社)は、謎の多いその内幕を暴露するものであった。工藤は六本木クラブ襲撃事件で最初に出頭して起訴された被告2名を擁護し、事件は見立容疑者とその恐怖支配が招いた結果だと書いた。また、見立容疑者が関係者らへ圧力をかけ、裁判での証言などに影響を与えていることも示唆していた。

 この『いびつな絆』は累計17万部の大ヒットとなり、これを皮切りに“関東連合本”がつぎつぎと出版され始める。

 なかでも、注目を集めたのが、今年4月に出版された「アウトローのカリスマ」・瓜田純士の『遺書 関東連合崩壊の真実と、ある兄弟の絆』(太田出版)だった。瓜田は関東連合に所属していないが、見立容疑者らとは“地元の先輩・後輩”という間柄。また、関東連合が激しく抗争していたK村兄弟とは深い仲にあった。弟は六本木クラブ襲撃事件で本来標的とされていた人物であり、兄のほうは瓜田の親友である。瓜田は本書で、自分と彼らの過去を明かすことにより、両者の“すれ違い”を解消しようする。

 杉並区の不良少年たちのリーダー格だった瓜田が、暴走族・関東連合に加入することを断ったのは、他ならぬ工藤明男によるヤキ(粛清)がきっかけだった。

「この命令を呑めば、僕は関東連の内部では、工藤の格下ということになる。何年も何年も、あいつに先輩面されて、頭を下げ続けないといけなくなる。ふざけんな、やるわけねえよ……!」(瓜田純士『遺書』)

 このように、瓜田の本には工藤に対して批判的な描写がいくつか見受けられるのだが、最近、週刊誌「FLASH」(7月29日・8月5日号)で、工藤についてこのように語った。

「(関東連合とK村兄弟が互いに対して)不快感が徐々に積もっていったなかで、(K村)兄と関東連合の幹部だった工藤明男が揉め事を起こしてしまう。成り行き上、僕が立ち会って“手打ち”をし、今回のトラブルは誰にも言わないことにしようと3人で約束しました。それなのに工藤は約束を破って、関東連合の先輩にしゃべってしまうのです。そのことで、関東連合とK兄弟は深刻な対立状態になるのです」

 いずれにしても、工藤明男が六本木クラブ襲撃事件の原因を見立容疑者の恐怖支配にあるとしたのに対し、瓜田はK村兄弟と関東連合の些細なすれ違いがきっかけだとした。しかも、その遠因は工藤明男にもあることをほのめかしたのだ。

 工藤明男と瓜田純士の対立——。その構図に割ってはいったのが、石元太一被告の『反証』である。

 事件の当日、石元被告は“六本木のクラブにK村弟が来店”との情報を入手し、それを実行犯らに伝えた。これが共謀にあたるとして東京地裁から懲役11年の判決を下され、現在控訴中である。本書では、事件の道義的責任こそ感じているが、徹底して自分は無罪だと主張。「不利な証拠の捏造、改竄」や「検察の強引な主張」、そして関係者らの「不可解な証言」を強調する。なかでもそのひとり、関東連合の先輩である工藤明男については、相当の不信感を募らせているようだ。

 工藤は石元被告に「太一のことだからお母さんのことが心配だろ。してほしいことがあったら何でも言ってくれ」と弁護士を通じて伝言をしていたという。石元被告も当初は「本気で心配してくれているのだと、すっかり信じてしまっていた」。

「しかし、俺が起訴されてから少し経つと、彼からの伝言はパタリとなくなった。何かあったのかなくらいに心配をしていたら、今回の本(『いびつな絆』)が出版されていた。それでやっとはじめて気付いたよ。縁を切ったはずの工藤が一体なぜ急に俺に接触してきたのか、その理由と目論みが。」(石元太一『反証』)

 どういうことか? 石元被告の事件における責任が大きくなればなるほど、工藤が支援している2名の被告は相対的に減刑される。また、工藤は暴露本執筆の動機として「関東連合の実態解明の一助」「事件の真相解明」を挙げているが、実際は見立真一容疑者への“憎しみ”からではないか、そう石元被告は言うのである。彼は公判の最終意見陳述でも“工藤に陥れられて主犯格にでっちあげられた”という旨の発言をしている。

 工藤はこれについて、文庫版『いびつな絆』の加筆部分で反論している。

「私の本について、太一は不満を持っている様子が残念でならない。(中略)私はこの本の中で、太一が首謀的な立場にはなかったことをはっきりと書いている。むしろ、見立君の捻じ曲がった方針によって、太一が生贄になるだろうとも指摘している。もっとも、私は太一に法的な責任がないとまでは思わない。太一の連絡がきっかけで事件が起きているのだから、どう考えても法的責任は問われることになる」

 石元被告もまた、弁護士や証言者らの「不可解な言動」は、見立容疑者が指示しているという話を耳にしたという。それでも工藤が言うような“見立策略説”については態度を保留している。

「変な話かもしれないが、俺は見立君には何とか、俺がいつか出るその時まで逃げ続けて欲しい。今、俺が一番したいことは見立君に直接会って、あの人の口から全ての真実を聞くこと。その気持ちだけだ」(石元太一『反証』)

 瓜田から暗に批難され、石元被告からは猜疑の目で見られている工藤明男の真意はどこにあるのか。彼は暴露本出版により命を狙われ、今や警察の保護措置の対象者である。今年3月15日を最後にブログとツイッターの更新が止まっており、見立側の人間に始末されてしまったのでは?といった憶測がネット上では飛び交っていた。

 だが、工藤明男は生きていた。7月に突如、2作目となる『破戒の連鎖 いびつな絆が生まれた時代』を発表したのである。

 本書は『いびつな絆』の前日譚にあたるものだ。時は90年代半ばにさかのぼり、“半グレ”となる前の少年時代を書き記す。現在の「関東連合」と呼ばれているもののルーツは、ある暴走族にあった。

 70年代に成立し、休止状態にあった伝説的暴走族「ブラックエンペラー」。その看板を復活させ「永福町22代目ブラックエンペラー」総長を名乗ったのが、当時中学3年生の見立真一であった。そこに工藤が頭を張っていた「宮前愚連隊」ほか複数のチームが合流したことで、“暴走族・関東連合”が90年代に再活性化したとされている。

 そして、暴走族・関東連合を卒業した者たちを中心とする反社会的活動こそ、昨今世間を賑わしている“半グレ・関東連合”の正体だ。警察から準暴力団と名指しされている彼らも、約20年前までは敵対する暴走族・チーマーとのケンカに明け暮れていた不良少年だったというわけだ。

 本書のなかには瓜田についての言及もある。「そもそも関東連合とは無関係なのに、あそこまで関東連合に固執する神経が私にはわからない」と記すなど、その評価は冷淡だ。

「彼の話はどこまでが嘘でどこまでが冗談なのか、よくわからない」
「早くから『2ちゃんねる』の世界の住人となっていた瓜田は、ネットの中でアウトローを自称してきた」(工藤明男『破戒の連鎖』)

 本書のなかで工藤は、「関東連合に対して巨大な妄想を膨らませる」ことを“関東連合シンドローム”と名付けている。なるほど、ネット上には「関東連合」に関する言説が溢れている。悪評から武勇伝、はては「◯◯のA君は、たった一晩で200人を半殺しにした」などというような、にわかに信じられないような噂も多く、もはや都市伝説のような様相すら呈している。こんな状況を見ていると、大衆が欲しているのは関東連合の“真実”ではなく、最凶最悪のアウトローたちという“幻想”ではないかとすら思える。

 だが“関東連合本”を読む限り、現実の彼らは人間である。たしかに、常識外の逸話は数あるし、本当に常軌を逸しているとしか思えない人物も描かれてはいるが、大半の人物は、普通に笑い、普通に傷つき、そして普通に後悔している。

「もう終わりにしたいです」(瓜田純士『遺書』)
「本当になぜ仲間同士でこんなことになってしまったのだろう」(石元太一『反証』)
「自分の過去や経歴を誰も知らない国、『関東連合』など誰も知らない国で暮していきたい――」(工藤明男『破戒の連鎖』)

 私たちは“関東連合本”で描かれる彼らの不良人生を、エンターテイメントとして消費するだけでよいのだろうか。あるいは、跳ね上がりの「犯罪者」として片付けてしまって、それですむのだろうか。

 人が殺されている。そのとおりだ。しかし、彼らがアウトローとしてしか生きられなかったのだとすれば――それは、社会のなかにあらかじめ“悪の構図”として仕込まれていたような気がしてならないのである。
(HK・吉岡命)

最終更新:2014.07.29 03:59

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