欲棒、肉芽、秘口、彼の分身…官能小説は「性器」をどう言い換えてきたのか。背後にあった検察の表現規制

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『官能小説の奥義』KADOKAWA


 ろくでなし子による女性器をかたどったアート作品騒動、大阪府堺市の一部コンビニが始めた成人雑誌の店頭閲覧制限、児童ポルノ単純所持の罰則化、春画掲載による「週刊文春」編集長休養処分──ここ最近のものをまとめただけでも、これだけ「性」と「表現」をめぐっての騒動が頻発している。

 性表現に対し日に日に締め付けが厳しくなる昨今だが、官能小説研究家の第一人者である永田守弘氏は、そういった規制によってこそ官能小説は独特の進化を遂げたのだと語っている。

〈活字による官能表現が、ほとんど解禁になるのは1980年代になってからである。それまで作家たちは、摘発の網にかからないように、しかも、どれだけ読者を淫靡な世界に引き込むかに苦心し、修練によって独特の文体や表現をつくり出してきた。
 現在は、淫猥という視点からの摘発はされないが、その修練は絶えることなく受け継がれて、作家たちは官能表現の力量を競っている。豊潤な官能表現は、皮肉に見れば、検察と作家の共同作業によって生み出されてきた、といえなくもない〉(『官能小説の奥義』KADOKAWA)

 現在、性的な表現により規制を受けるのはもっぱらコミックやアダルトビデオだが、それ以前に対象となっていたのは活字による表現であった。たとえば、48年には永井荷風の作とされる『四畳半襖の下張』が摘発され、荷風も警察から事情聴取を受けている。また、50年に伊藤整による翻訳で小山書店から出版されたD・H・ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』は、作中に登場する性行為の描写などからわいせつ文書であるとされ裁判に。表現の自由をめぐって最高裁まで争われたが、結果は有罪であった。

 このような前例から、性器の名称を露骨に書くのではなく何かに例えるなどの、官能小説ならではとされる婉曲表現が発達した。いまとなっては、「ペニス」など性器の名称そのものを書いても何の問題もないが、敢えて違う言葉に置き換え、その言い回しによりいかに淫靡な雰囲気を演出できるかというのが、官能小説作家の腕の見せどころとなった。

 前掲『官能小説の奥義』では、どんな言い換え表現があるのか、具体的な作品を引用しつつ紹介されている。

 まずは女性器の言い換えから。多いのが、花や果実などの植物にたとえる手法だ。

〈勇造の眼前に、佐都美の女の花が咲いた。清楚な花だった。色素の薄いピンク色の花びらが、ぴったりと口を閉じている〉(草凪優『おさな妻』双葉社)
〈中指で掘りおこされた蕾は、これまた珍しいくらい大きくて、固くて、ふくらんでいた。その固く尖った蕾を中指でリズミカルに押すうち、大粒の枝豆が莢からはじけるように、実はとがってきた〉(南里征典『新宿欲望探偵』光文社)

 このような植物にたとえる表現について永田氏は〈植物派表現の特徴は、ほとんどが女性器を見る目がやさしいことだろう。きれいで可愛いものとして捉えている。ぎらぎらしたところが少ない〉と解説している。

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この記事に関する本・雑誌

官能小説の奥義 (角川ソフィア文庫)

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