これで“雑魚寝”避難所は変わるのか…今秋発足「防災庁」職員は「国家情報局」の半分以下! 防災庁設置に反対していた高市首相

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首相官邸HPより


 今回の熊本地震で改めて浮き彫りになったのが、日本の被災者支援体制が相変わらずお粗末なまま、10年前からほとんど改善されていないことだ。

 避難所に指定された学校の体育館にクーラーがほとんど設置されておらず、段ボールベッドや間仕切りが届き始めたのは1週間近く経ってから。その結果、多くの被災者が雑魚寝、もしくは車中泊を強いられ、地震発生3日目には、車中泊していた女性が熱中症で亡くなるという悲劇も起きた。

避難所だけではない。断水が続いているのに、なかなか十分な給水体制が整わず、仮設トイレが届き始めたのは地震が発生して2日経ってから。その後も、数が揃わなかったり、洋式トイレが少なかったりで、不便を強いられている。

 災害時などの避難所については、国際的に「スフィア基準」という基準が定められ、最低基準として「1人あたり最低3.5平方メートルの居住スペース」「世帯ごとのプライバシーの確保された生活空間」「床から30センチ以上の高さのベッドや寝具」「20人に1基のトイレ」「トイレの男女比は3:1」「50人に1つの入浴施設(シャワー、仮設風呂など)」などが示されている。

 実際、日本と同じ地震大国のイタリアでは、災害発生から24〜48時間でこれらをほぼ用意したうえ、キッチンカーが駆けつけるなどして温かい食事を提供できる体制を組んでいる。 地震発生から1週間近く経っても雑魚寝を強いられる日本とは、まさに天と地の差といっていいだろう。 しかも、この悲惨な日本の状況はこれからもしばらく変わりそうにない。それは、11月に発足する「防災庁」の実態があまりにお粗末だからだ。

 防災庁は、地方自治体任せにしている災害発生時の支援や縦割り行政で進まない防災体制づくりを一元化し、国をあげて災害対策に取り組む、という触れ込みで構想された。高市政権下の2026年7月に成立した防災庁設置法にもとづき、現在の内閣府防災担当を拡大する形で、11月に設置されることになった。

 防災庁ができれば、522人の災害関連死を出した能登半島地震や、いま熊本で起きているような状況が改善されるのではないかという国民の期待が集まっているのだが、しかし、その中身は期待と大きくかけはなれていた。 そもそも、この防災庁、スタート時の職員が352人。同じく今年設置された国家情報局の半分以下なのだ。

高市が作った役に立たない国家情報局は約730人もいるのに、国民の命を守る防災庁はたった352人

 前述の充実した被災者保護で知られるイタリアは、人口が約6千万人と日本の半分ほどなのに、700人近い専任職員からなる市民保護庁が設置され、それとは別に22の州ごとに地方支分部局が置かれている。これらの組織が中心となって、事前登録され、訓練された30万人のボランティアや大量の救援設備・物資を機動的に配置する体制を組んでいるのだ。しかも、ボランティア活動中の給料は国が企業に対し公費で補償するので、ボランティアも困窮の不安なく活動できる。

ところが、人口が倍の1億2千万人いる日本の防災庁は、その半分ちょっとの352人。各都道府県の担当者である「ふるさと防災職員」を置いているというが、たった計46人。しかも、上記の352人にその数も含まれている。

 南海トラフ地震では、29万8千人の死者、1230万人もの避難者が想定されているというのに、こんな体制で何ができるというのか。予算や公務員数の抑制の問題などという言い訳は通用しない。なぜなら、高市内閣が7月31日に発足させた国家情報局は、約730人の体制でスタートしているからだ。

 さらに、同じく高市政権では、不法入国者取り締まりを強化すると称して出入国管理局の職員を今年度内226人緊急増員することを決めている。言っておくが、国家情報局にしても、出入国管理局にしても、直接的に国民の生命を守ってくれる組織ではない。

 国家情報局にいたっては、前身があの内閣情報調査室である。安全保障に資するどころか国際情勢の動きを察知する能力すらほとんどなく、組織のリソースの大半が国民の監視と、政権のための情報操作に使われることは目に見えている。そんな政権御用とスパイごっこしかできないような組織に700人以上の人員を投入しながら、何千万人もの生命を守る体制の中核が350人というのは、いくらなんでもありえないだろう。

 人数だけの問題ではない。もうひとつ問題なのは、防災庁に大した権限をもたせていないことだ。

 防災庁ができるのは、関係省庁に対して資料や説明を求め、必要な措置を「勧告」することができるだけ。命令することはできない。つまり、自衛隊や各自治体の消防、警察を重点的に投入したいと考えても、防災庁が直接命令し、動かすことはできないのだ。

 予算も非常に乏しいものだ。2026年度予算を見ると、設置・運営などの予算が45億円。新設する防災力強化総合交付金に35億円など、計202億円。防災予算は国土交通省や消防庁、各自治体にもあるとはいえ、防衛予算の約9兆円と比べると、約450分の1なのだ。これで1000万人以上の被害者の出る災害に対応できるはずがないだろう。

前回の熊本地震で多くの災害関連死が出ても安倍首相は「現状で十分機能」と防災省を拒否

 しかし、この貧弱な実態も、防災庁をめぐるここまでの経緯を見れば、当然と言っていいかもしれない。そもそも、防災庁(防災省)については、東日本大震災から少し経った2014年頃から、防災の専門家や自治体、野党から、設置を求める声が出始めていた。ところが、当時の安倍政権が一貫してこれを拒否したのである。

 たとえば、2019年2月15日の衆院本会議では、当時、立憲民主党だった高井崇志衆院議員(現・れいわ新選組)が安倍首相に対して、イタリアと比べて日本政府の震災対応、避難者支援があまりに貧弱であることを指摘した上、「イタリアのように専任職員による防災省を創設する考えはないか」と質したが、安倍首相はこう一蹴していた。

「行政府の防災や危機管理への対応に関しては、内閣総理大臣の指揮のもと、内閣官房や内閣府が中心となって、省庁横断的な取り組みをおこなってきております。現在の枠組み自体については、最近の大規模災害に際しても十分な機能を果たしたものと認識しており、新たに統一的な組織を設置する必要性は低いと考えております」

 この3年前、2016年には前回の熊本地震が発生。避難所の劣悪な環境などのせいで、直接死の4倍以上、225人が災害関連死をするという最悪な状況に陥っている。にもかかわらず、「現在の枠組みで大規模災害について十分な機能を果たした」とは、その認識の甘さ、危機感の無さに唖然とするが、安倍首相は在任時、この答弁に限らず一貫して災害への関心のなさ、被災者への冷たい対応を見せつけていた。

 たとえば、2014年8月の広島土砂災害では「災害応急対策に全力で取り組む」と宣言したあと、日枝久・フジテレビ会長(当時)や笹川陽平・日本財団会長らとゴルフを楽しみ続け、2018年7月には、死者230人以上の西日本豪雨のさなかに「赤坂自民亭」なる自民党の宴会に参加。2019年9月の台風15号では、非常災害対策本部を設置せず、関係閣僚会議も開かず、停電復旧の停滞によって熱中症による新たな犠牲者まで出した。

 また、同年10月、台風19号が日本列島を直撃した際には、非常災害対策本部会議で「夜を徹して救助」を命じながら自分は私邸に帰り、ラグビーW杯の試合を観戦。台風被害拡大の中、勝利に大はしゃぎしてツイートしていた。そして、国会や被災者支援の遅れや災害体制の充実を追及されると、前述の答弁のように「現在の取り組みで十分」と繰り返していた。

 安倍首相に限った話ではない。自民党の政治家の多くは「国民の生命を守るため」と称して軍備増強を声高に主張する一方で、大規模災害の支援は地方に押し付け、国としてなんの対策も講じようとしてこなかった。それどころか、被災者の救済や避難所の充実、そして防災庁の設置を求める声に対して「現在の政府・自衛隊の対応で十分」「そんなことより経済を回すことを考えるべき」と主張し、その動きを封じ込めてきた。これは安倍一強体制によって、自民党が国家のために国民を犠牲にすることを厭わない国家主義者、自己責任論で弱者救済を否定する新自由主義者で占められるようになったことと無関係ではないだろう。

 右派は「国家の威信」や「支配者の権力」「自分たちの利権」が目的のすべて。「国民の生命」など何の関心もない。その本質がまさに災害対策に反映されてきたのだ。

石破が「雑魚寝をなくす」と提案した防災省構想に反対していた高市、コバホークら自民党右派

 そんな中、防災省構想が一気に前に進み始めたのは、2024年、石破茂氏が首相になったためだ。

 石破氏は以前より大規模災害対策に強い関心を寄せており、2020年の総裁選で防災省の設置を掲げた。そして、安倍派の裏金問題が起きた直後の2024年総裁選では、防災省設置を自身の政策の柱にすえ、それによって、スフィア基準を実現することまで強く主張した。石破氏は総裁選の演説や討論会でこんな主張を展開していた。

「(日本の災害対応は)101年前の関東大震災の時と変わらない。体育館で雑魚寝のようなことは、先進国において日本だけだ。家が壊れ被災し、職を失った人たちがなんで体育館で雑魚寝をしなきゃいかんのですか。なんで冷たいお弁当を食べなきゃいかんのですか」
「世界一と言ってもいい災害大国で、専門省庁がないことのほうがよほど異常だ」
「どこで何が起きても同じ対応ができる。それが国家の責任だ」

 しかし、その石破氏も総裁選から首相に就任するまでの過程で、その計画をしだいにトーンダウンさせていく。いきなり防災省を設置するのでなく、格下の防災庁から始めるとし、自衛隊や警察、消防を直接動かす権限をもつことも否定するようになった。これは、理想論を語りながら、すぐに腰砕けになってしまう石破前首相の体質もあるが、それ以上に大きかったのが、各省庁や党内の反対だった。 とくに、災害支援の指揮権や予算を奪われることを恐れた自衛隊が当初から防災省に猛反発。さらに、災害支援に消極的な自民党右派も総裁選のときから「無駄」「意味がない」「新たな縦割り」と徹底批判を展開していた。

 その急先鋒だったのが、現首相の高市早苗氏と現政調会長の“コバホーク”こと小林鷹之氏だった。小林氏は総裁選中から「防災省は屋上屋を架すことになる。必要性を感じない」「わざわざ防災省をつくらなくても、各省の連携はいま、比較的よい体制が構築できていると思っています」などと主張。高市氏も総裁選で「防災省より復興庁設置法を改正して対応すべき」と反対していたのはもちろん、総裁選に敗れ、石破政権が発足してからも防災庁設置政策を批判していた。

 たとえば、2024年12月発売の極右雑誌「月刊Hanada」(飛鳥新社)2025年2月号のインタビューに応じた高市は、「正直、防災庁ではないなと思っています」「防災庁を作るよりも、各省庁の予算を増やすほうが目的に資すると思います」「石破総理が総裁選で訴えておられた避難所の環境改善だって、まさに既存の内閣府防災でも復興庁の業務対象地域の拡大でも対応できる話ですからね」などと、批判を連発している。

 そして2025年6月、当時の石破首相は防災庁の組織概要を表明したが、党内の反対派に配慮した結果、その内容は、防災庁を勧告権しか権限のない各省庁の調整機関と位置付けるもので、当初の意気込みとは似ても似つかないものになっていた。

今回の熊本地震視察はただのプロパガンダ、高市首相は被災者と向き合う気はまったくなかった

その後、石破首相が辞任に追い込まれ、高市首相が誕生すると、防災庁構想も高市政権に引き継がれ、2026年7月に防災庁設置法が成立した。しかし、高市首相のやる気のなさは明らかで、防災庁構想と同時に石破首相が設置した防災立国推進閣僚会議も、高市政権になると、開かれたのは1回のみ。石破政権時代に政府内で活発に行われていたスフィア基準並みに避難所を整備するという議論も、ほとんど聞かなくなった。石破前首相が計画していた将来的な防災省への格上げも完全にどこかに行ってしまった。

 当然だろう。高市首相は安倍元首相同様、安全保障、防衛力増強には異常な執着を見せる一方で、災害支援にまったく関心がない。総裁選で災害対策が議論にのぼっても、被災者のケアについてはほとんど触れず、経済復興のことばかり語ってきた。そして、前述してきたように防災庁の設置にも反対してきた。しかも、この姿勢は、今回、自身の政権下で熊本地震が起きても変わることはないだろう。

 先日の被災地視察では、「やれることはすべてやります」と宣言して、自分のやってる感をアピールする映像を拡散させた高市首相だが、これらはすべてプロパガンダにすぎず、実際は被災者に向き合おう気などさらさらないことは明らかだった。

 災害に冷淡だったあの安倍首相でさえ、2016年の熊本地震の際、朝6時に出発し、3カ所の避難所を回ったというのに、高市首相が訪問したのは1カ所だけ。それも、もっとも環境の整った避難所のひとつを選んで、避難者との意見交換で被災者から「至れり尽くせり」と言ってもらうという、ヤラセに近いシロモノでしかなかった。しかも、その避難所ですら、高市首相が実際に避難者が生活する教室に入ったのは、ほんの数分。高知新聞の取材に、避難者の男性が「私のいる教室に首相が来て何かあいさつしていたが、耳が遠くて聞こえんかった。10秒もいなかったと思う。自民党の宣伝でしょ」と述べるほどだった。

 こんな政治家が、災害支援を強化し、避難所の劣悪な環境を改善してくれるとはとても考えられないだろう。そして、これは高市首相一人の問題ではない。私たちが大災害に遭っても必要な保護や人間らしい避難生活を送れるようになるには、やはり、権力者や大企業にしか向いていない自民党という政党を政権の座から引き摺り下ろすしかないのではないか。

最終更新:2026.08.09 08:41

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