コロナ専門家委員会「持ちこたえている」は検査数が少ないだけ! 欧米は積極的に検査拡大も日本はいまだ「検査不要」論が跋扈

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厚生労働省HPより


「日本の状況は、爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえている」──昨日9日、政府の新型コロナウイルス対策の専門家会議が新たな見解を示した。一体どんな根拠で「一定程度、持ちこたえている」と言っているのかと思ったら、それはこんな理由だった。

「現時点までは、クラスター(集団)の発生を比較的早期に発見できている事例も出てきています。これは、急激なペースで感染者が増加している諸外国と比べて、感染者数の増加のスピードを抑えることにつながっています」

 他国とくらべて感染者数の増加スピードを抑えられている……!? これを専門家メンバーは正気で言っているのだろうか。

 たしかに日本の患者数は3月10日午後12時時点で498人である一方、感染者数が一気に増えたイタリアは9000人超え、韓国も10日の発表では7513人、フランスやドイツも1000人を超え、アメリカも500人以上となっており、日本を上回っている。だが、これらの国と日本が決定的に違うのは、検査実施数だ。


 たとえば、日本の厚労省は「1日6000件の検査能力がある」と言い、6日からはPCR検査が保険適用となったが、9日発表のPCR検査数はたったの110件。10日発表の検査数は1314件と増えたが、6000件にはほど遠い。累計の検査実施数も8771件(9日18時時点)でしかない。

 だが、8日時点での韓国の検査数は18万1384、イタリアは4万2062と桁違いなのだ。言っておくが、日本で初の感染者が発表されたのは1月16日だったが、韓国はそれよりも遅い1月20日、イタリアも30日だった。

 ようするに、日本の感染者数が諸外国より少ないのは、「クラスター(集団)の発生を比較的早期に発見できている」からではなく、たんに検査数が諸外国よりも圧倒的に少ないために感染者が確認できていないだけとしか考えられない。

 しかし、データとしてここまではっきりした数字が出ているにもかかわらず、一部ワイドショーなどでは「不安だからといって全員を検査すると医療はパンクして崩壊する」「重症者のための医療を確保することが重要」と喧伝し、ネット上でも「日本は検査を重症者に限定しているから韓国やイタリアよりも死亡者を抑え込むことに成功している」などという意見が溢れるような状況になっている。

 言っておくが、誰も「不安だから全員検査しろ」なんて主張していない。感染が疑われる人がきちんと検査を受けられるようにしろと言っているだけなのに、勝手に話がすり替えられているのだ。

 しかも、諸外国ではむしろ「検査によって実態把握する」「感染拡大を食い止めるためには検査拡大が必要」と考えられている。

 たとえば、感染者数が89人と増加したことを受けて7日に非常事態宣言を出したアメリカ・ニューヨーク州のクオモ知事は「24時間態勢で検査をしています。より多く感染者を見つけることで感染拡大を食い止めたい」と発言。アメリカのペンス副大統領も「100万個以上の検査キットを配布する」「今後、数週間でどんなアメリカ人も検査を受けることができるようにする」と述べている(実際はまだ行き渡っていないようだが)。

 また、感染者が277人(9日時点)のイギリスでは、咳や発熱、息切れなど軽いインフルエンザに似た症状がある人も検査の対象に含め(BBC2月27日付)、韓国でおこなわれている「ドライブスルー検査」を実施。この「ドライブスルー検査」はドイツでも準備が進んでいるといい、アメリカでも一部で取り入れようという動きが出てきている。

日本には、新型コロナ感染が確認されていない死亡者もいるのではないか

 WHOは2月28日に中国へ派遣した専門家チームによる報告書を公表し、そこで〈非定型肺炎の症状を示すすべての患者の検査〉を勧告した(時事通信2月29日付)。だが、日本の厚労省は〈重症化予防の観点から、入院を要する肺炎患者等の診断・治療に必要な検査を優先する〉としている。ようするに、入院するほどでもない場合、非定形の肺炎を発症していても検査は受けられないのである。

 現に、山梨県では20代男性が新型コロナによる髄膜炎を発症したことが公表されたが、この男性は38.5度の発熱で2度病院を受診し、インフルエンザも陰性、胸部レントゲンや血液検査でも異常は見つからなかったが新型コロナも検査を受けられず、発熱から9日目に自宅で倒れているところを会社の同僚が発見。搬送された病院で感染が確認されたが、重症で意識障害があり、会話も困難であるために行動履歴も聞けない状態だという。

 検査がいまだに抑制されているために、早期の検査・治療につなげられず、20代の若さで重症化してしまう──。前述したように、ネット上では「日本は検査を重症者に限定しているから韓国やイタリアよりも死亡者を抑え込むことに成功している」などと主張する意見があるが、実際には重症化しないと感染が確認されないような状態なのだ。

 いや、日本の場合、むしろ検査数が少ないために感染が確認されていないだけで、ほんとうは新型コロナによる肺炎によって死亡している者が出ていると考えるべきではないのか。

 実際、名古屋市で7日に心肺停止状態で病院に搬送され、その後死亡した80代男性を検査したところ感染が確認されたという発表があった。この男性は感染が確認された人との接触があったために、死亡後に検査がおこなわれたという。感染者との接触という経緯・情報がなければ、感染の事実も判明することはなかっただろう。

 つまり、実際には新型コロナに感染したことによる肺炎で亡くなっても、検査していないために「よくある高齢者の肺炎による死亡」とされ、新型コロナの死亡例にカウントされない“隠れ死亡者”が発生していたとしても、何ら不思議ではないのだ。

 もちろん、諸外国と比較しても日本は検査数が少ないために、感染が国内でどれほど広がっているのかというデータを得ることもできていない。そうした明確なエビデンスがないというのに、安倍首相は「やってる感」のアピールのためだけに一斉休校といった場当たり的な対策を専門家の意見も聞かずに打ち出している。これを果たして「感染症対策」などと呼べるだろうか。

ワイドショーも「検査しろ」からライブハウスなどの責任を攻撃する論調へ

 だが、この期に及んでこんなめちゃくちゃな対応しかとれていないというのに、多くのワイドショーでは、諸外国の感染拡大と比較することで、あたかも日本は感染拡大の抑え込みに成功しているかのように解説。検査を抑制していることも「医療崩壊を招かないため」などと正当化し、ライブハウスでの感染拡大などをクローズアップすることで、まるでライブハウスといった場所だけが感染リスクが高いかのような伝え方をしている。

 ライブハウスでの感染拡大は、すでに感染者が確認されて、来場者を接触者として早急な検査につなげているために感染確認がとれているだけ。同じような感染拡大がいろんな場所で起こり、検査数が少ないために可視化されていないだけだと考えるべきだ。そもそも、検査を拡大させたとしても厚労省は軽症者は入院ではなく自宅療養させる方針なのだから、検査拡大が医療崩壊の直接原因にはならない。むしろ、検査を拡大すれば重症者もそれだけ発見されるはずだが、そうなることを見越して医療体制の整備・拡充が当初から叫ばれてきたのに、政府が手を打ってこなかっただけだ。

 しかし、多くのワイドショーでは検査数が少ないことの問題点には目を向けず、海外の感染拡大を対岸の火事のように取り上げ、ごくわずかに判明しただけの感染例さえも局所的な問題や個人の行動の問題に矮小化しているのである。

 そして、こうした国の失策をきちんと指摘しない、ガラパゴスとしか言いようがない報道の結果、内閣支持率はやや下落した程度でおさまっている。さらに、安倍官邸が司令を出し、厚労省や自民党が『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)などの特定番組や専門家を批判、圧力をかけたが、これによってワイドショーやニュース番組はますます忖度に拍車をかけている。こんな有様では、検査数の抑制による感染者数・死亡者数隠しはどんどん進み、国際社会からも「まったく信用できない国」として孤立を深めてゆくだけだろう。

最終更新:2020.06.30 05:49

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