安倍政権が問題隠蔽に必死! 財政審答申から「年金給付が想定より低くなる」を削除、「非正規という言葉を使うな」の命令

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首相官邸ホームページより


 安倍政権は年金問題を徹底して「ない」ものにする算段らしい。金融庁の報告書について麻生太郎財務相が「受け取らない」と言い出すなど、報告書をなかったことにする作戦に出た安倍政権だが、今度は、財政制度等審議会(財政審)が答申した意見書の原案に盛り込まれていた〈将来世代の基礎年金給付水準が低下〉などといった文言を削除していたことがわかった。

 財政審は国の財政にかかわる重要事項を調査・審議して勧告や提言をおこなう財務大臣の諮問機関で、19日に麻生財務相に「令和時代の財政の在り方に関する建議」という意見書を答申した。

 ところが、今回、毎日新聞が意見書の原案を入手。検証したところによると、〈将来世代の基礎年金給付水準が、平成16年改正時の想定よりも低くなることが見込まれている〉〈自助努力を促していく観点も重要〉といった文言が削られていたという。

 報道を受けて、本サイトも調べてみたところ、じつは今回、原案から削除されたものとほとんど同様の内容が記された資料が、今年4月23日に開催された財政審の分科会で配布されていた。「社会保障について」と題されたその資料では、年金制度の課題として〈将来の給付水準の低下〉が挙げられ、こう言及がなされていた。

〈・デフレの長期化により、マクロ経済スライドは機能を十分に発揮せず(発動は2015・2019年度の2回のみ)。
・賃金低下の中で年金が維持されたことと相まって、マクロ経済スライドの調整期間が長期化し、2004年改正時の想定よりも将来世代の基礎年金給付水準が低下。〉

 安倍首相は年金問題の追及に対し、しきりにマクロ経済スライドの話を持ち出してはその正当性をアピールし、党首討論では“民主党政権時より最低賃金は上がっている!”などと胸を張っていた。だが、この資料では〈マクロ経済スライドは機能を十分に発揮せず〉と指摘され、さらに賃金は上がっていないことから将来の年金給付水準は下がると強調。その上、〈財源が限られる中、将来の国庫負担の水準への影響に留意するとともに、自助努力を促していく観点も重要〉と提言しているのだ。

 この資料と、毎日新聞が伝えている原案から削除された内容はほとんど一致している。つまり、金融庁や厚労省にかぎらず、財務省の付属機関も共通した認識をもち、「将来、年金給付水準は下がるから自助努力を促そう」と提唱しようとしていたのである。

 これはどう考えても、年金問題の火消しに必死になっている安倍官邸が削除を指示したか、あるいは忖度が働いたか、そのどちらかだろう。

財政審原案削除の裏にも官邸の「初期消火に失敗したら建物ごと燃やす」方針

 実際、こうした年金に踏み込んだ文言は、今月6日の時点までは存在していた。この原案は、今月6日におこなわれた財政審の会議において非公開で議論されたという(朝日新聞21日付)。ようするに、6日時点の原案には記されていた年金給付水準や自助努力などに言及した文言が、19日までの約2週間のあいだに、きれいさっぱりなくなっていたのだ。

 この間に何があったのかはすでに報道で明らかになっている。10日の参院決算委員会で安倍首相が年金問題の追及を受けた。この日、安倍首相は「金融庁は大バカ者だな。こんなことを書いて」と激怒。それによって首相官邸が動き、「初期消火に失敗したら建物ごと燃やすしかない」と判断。菅義偉官房長官が司令塔となって11日午前に金融庁と財務省に連絡をおこない「報告書を受け取らない」という指示を出したという(朝日新聞19日付)。自民党の森山裕国会対策委員長が「報告書はもうないわけですから。なくなっているわけですから」と述べたのは、翌12日のことだ。

 こうした経緯を考えれば、安倍首相の激怒にはじまって火消しならぬ「建物ごと燃やす」手段に出た官邸からの指示により、財務省が建議から「不都合な」文言を削除した。そういうことではないのか。

 事実として示されている年金の問題を「ない」ものにし、国民が抱く不安に対し、責任ある説明をおこなうことさえシャットアウトしてしまう──。とてもまともな国家がやることとは思えないが、「不都合な問題はなくせばいい」という安倍政権の乱暴な姿勢は、別の問題でもあきらかになった。

 というのも、厚労省では根本匠大臣から「非正規(労働者)」という用語を使うなという命令が出ている、というのだ。

厚労省年金課長が「大臣から『非正規と言うな』と言われている」と発言

 この問題が発覚したのは、金融庁報告書問題をめぐって19日におこなわれた野党合同ヒアリングでのこと。出席していた厚労省の伊澤知法年金課長は、“他部局からの伝聞”として、こんな話をおこなったのだ。

「大臣から最近、『非正規と言うな』と言われている」
「非正規の『非』が、働いている人に対して(の配慮として)どうなのかという観点だ」(東京新聞20日付)

 配慮だと言うが、ではどう言い換えているかといえば「フルタイムで働いていないような方々」。まるでフルタイム以外の労働者は出来損ないであるかのような言い方で失礼極まりないが、問題なのは、年金の問題にしても、老後不安が大きいのは、言うまでもなく非正規労働者だということだ。「非正規労働者」という用語を使わないことで、低賃金かつ正社員と同じ社会保障が受けられないケースが多い非正規をめぐる問題を「ない」ものにしようとしているのではないか。そう考えるほかない。

 そして、この「非正規」と言わないという方針も、安倍首相が打ち出したものだ。2018年1月の施政方針演説のほか、安倍首相はことあるごとに非正規と正社員の待遇格差について言及し、「『非正規』という言葉を、この国から一掃してまいります」と宣言してきたからだ。

 騙されてはいけないのは、安倍首相はけっして「非正規雇用をなくす」あるいは「正規と非正規の格差をなくす」と言っているわけではない、ということ。たんに「非正規」という言葉を使わない、というだけの話で、実際に安倍政権下で増えた雇用の約7割は非正規雇用である上、抜本的な格差是正策は打ち出されていない。

 現実に認識・指摘されている問題を「ない」ものにするため、言葉を削り、言葉を封じる。──そうすれば安倍政権は安泰かもしれないが、その結果、年金制度の破綻や格差拡大といった問題のツケを払うのは国民なのである。

最終更新:2019.06.22 02:29

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