イチローに国民栄誉賞を断られ安倍政権が赤っ恥! 国民栄誉賞の不公平な政治利用には村田諒太も苦言

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メジャーリーグ公式からも感謝の言葉を送られたイチロー(MLB公式ツイッターより)


 イチローが国民栄誉賞を辞退した。菅義偉官房長官が明かしたところによると、代理人を通じて内々に国民栄誉賞授与を打診したところ、辞退の申し出があったのだという。

 イチローが3月に引退して以降、イチローを「令和」第1号の国民栄誉賞として、大々的にアピールしようと目論んでいた安倍政権は、あてが外れた格好だ。

 周知のとおりイチローは、メジャーリーグで首位打者と盗塁王、MVPを獲得した2001年、最多安打記録を更新した2004年と、過去2回国民栄誉賞を打診されているが、いずれも断ってきた。にもかかわらず、官邸が3度目のアプローチ。「今回は受けてもらえる」と踏んでいたようだ。

「過去2回は辞退理由が『現役だから』だったため、引退した今回は受けてもらえると期待していたようです。しかも、官邸が注目したのは、第二次安倍政権発足直後、イチローが日経新聞のインタビューに応じ、日本の技術の海外流出を危惧する文脈で『安倍首相のことを応援している。頑張ってほしい』と発言していたこと。地方統一選に参院選、場合によっては衆参ダブル選、と選挙が目白押しなだけに、イチローに国民栄誉賞を受賞し安倍首相とイチローのツーショットを撮って、大々的にアピールしようと考えたようです」(全国紙官邸担当記者)

 だが、その目論見は完全に外れた。イチローは辞退の理由として「人生の幕を下ろした時に頂けるよう励みます」とコメントしているが、これは建前にすぎない。政治信条的には安倍政権に近い可能性もあるイチローだが、それとは関係なく、自分のスポーツ選手としての業績や価値が「国民栄誉賞」というかたちで利用されることを嫌ったのだろう。

 実際、安倍政権になってからの国民栄誉賞は露骨なまでに政治利用の道具と堕している。

 まず目を見張るのが、その乱発ぶりだ。国民栄誉賞は1977年の第1号の王貞治に始まって、これまで合計27組に授与されているが、そのうち1/4を超える7人が第二次安倍政権下での授与と突出している。

 しかも、安倍政権下での人選は基準が曖昧で、まさに安倍政権の「政権浮揚」「人気取り」に利用できる有名人を恣意的に選んで与えているとしか思えないのだ。

 典型が、2013年5月、プロ野球の長嶋茂雄と松井秀喜のダブル授賞だ。このときも「この2人よりも大記録を達成した選手はほかにたくさんいる」「メジャーリーグでの活躍なら、まず野茂英雄だろう」など異論が噴出した。

「実際、このときは夏の参院選に向けてPRに利用しようとしているのが見え見えでした。しかも、読売グループのドン・ナベツネに政権の後ろ盾になってもらうために、御機嫌とりでジャイアンツの2大有名選手に国民栄誉賞を与えたのではないか、という声もあった」(政治評論家)

 しかも醜悪だったのは、そんな批判をものともしない安倍首相の自己PRぶりだった。このときは、授与式が東京ドームで行われたのだが、授与直後の始球式にまで安倍首相は参加。長嶋がバッターボックスに立ち、松井がピッチャーを務めるなか、安倍首相も巨人のユニフォーム姿で審判役を務めたのだ。この模様はテレビでも生中継され、その年の夏に控えた参院選に向けたアピールに大いに利用された。

羽生結弦選手にだけ国民栄誉賞を与えた基準の曖昧さと恣意性

 さらに矛盾があらわになったのは、2018年7月に授与されたフィギュアスケートの羽生結弦選手のときだ。

 平昌五輪で羽生選手が金メダルを決めると、安倍首相はその夜、マスコミをかき集めて羽生選手へ祝福の電話をする姿を報じさせ、内々ではすぐに国民栄誉賞授与の検討に入った。そのため平昌五輪直後から羽生選手に国民栄誉賞が授与されるのではという観測は広がっていた。

 しかし、一方では、羽生選手だけに国民栄誉賞を授与する根拠がまったく見当たらないとの意見も根強かった。平昌五輪では、スピードスケートの高木菜那選手が二つの金メダルを獲得するなどの活躍が続出したし、連覇についても、オリンピック2連覇を成し遂げたアスリートは、北島康介、内村航平選手など他にもいる。これまで、オリンピック選手で国民栄誉賞を受賞したのは、3連覇の吉田沙保里、4連覇の伊調馨選手だけ。3連覇した柔道の野村忠宏ですら受賞していない。

 ところが、安倍政権は、羽生選手への国民栄誉賞授与を異例の早さで決定。しかも、その第一報は3月2日の読売新聞で、記事には「政府関係者が1日、明らかにした」とあった。3月2日といえば、朝日新聞が財務省の森友文書改ざん問題をスクープした日。新たな不正発覚から目をそらすために、政権が読売にリークしたのではないかと取りざたされた。

 政権浮揚や不正を糊塗するため人気あるスター選手へ「不公平」に国民栄誉賞を乱発する。本来どんな状況にあっても公平な基準がなければならない行政府のやることとはとても思えないが、特区や認可事業でまでお友だち優遇をやっている安倍政権らしいともいえる。

 しかし、こうした露骨な政治利用には、当のスポーツ選手からも異論が出たことがある。

 ボクシングの村田諒太選手だ。村田選手といえばロンドン五輪で金メダルを獲得後にプロ転向。2017年にはWBA世界ミドル級王者となったが、オリンピックメダリストがプロでも世界王者となるのは日本初の快挙だった。

村田選手が「企業や政治的に広告としての価値で判断」と批判

 そんな村田選手が、羽生選手に対し国民栄誉賞を授与することを検討しているという報道があった直後、東京新聞のコラムでこの件に触れ、〈五輪の価値とは競技レベル(競技人口、普及率等)ではなく、企業や政治的に広告として価値があるかどうかなのかと考えさせられる、いらないオマケのついた平昌五輪でした〉と批判。さらに、「週刊新潮」(新潮社)4月19日のインタビュー記事でも、国民栄誉賞に強く疑義を呈した。

「リオで多くの金メダリストが誕生しましたが、レスリングの伊調馨選手以外、国民栄誉賞は与えられなかった。ところが、平昌では目立ったからと、羽生結弦、小平奈緒両選手が検討されると報じられました(実際の授与決定は羽生のみ)。企業や政治的に広告としての価値があるかどうかで判断しているようだった」

 念のため言っておくと、村田選手はこのとき、羽生選手に授賞するなと言ったわけでも、単なる印象論で国民栄誉賞を批判したわけでもない。「週刊新潮」のインタビューでヴィクトール・フランクルの『夜と霧』についても語っているように、むしろ逆で、村田選手は「公平性とは何か」を高いレベルで考えたうえで、国民栄誉賞を批判していた。

 今回、イチローが国民栄誉賞を断った背景に、村田選手のような普遍的で深い考えがあったかどうかはわからないが、少なくとも、日本のスポーツ界における最大のヒーローが安倍政権の政治利用を拒否したことは、歓迎すべきことだろう。

 実際、イチローが国民栄誉賞を断ったあと、『ひるおび!』(TBS系)で八代英輝弁護士が「ほしくないにきまってるじゃないですか」
とコメントするなど、安倍応援団的ワイドショーでも、国民栄誉賞を送ろうとした安倍政権のほうが批判されるような状況になっている。また、立川志らくが「(イチローは)国民栄誉賞以上のものをもらってますから」とコメントするなど、国民栄誉賞の価値の低さも完全にあらわになってしまった。

 もともと、スポーツ界は数ある分野の中でもっとも政治利用されるケースが多い。実際、安倍政権下での国民栄誉賞受賞者7人のうち5人がスポーツ選手だし、橋本聖子参院議員、馳浩・元文科相らを筆頭に、スポーツ選手が政治家に転身する例も少なくない。これは日本のスポーツ界に脈々とある体育会的パターナリズムが一因だろう。

 スポーツ選手からも尊敬を集めているイチローの今回の行動が、こうしたスポーツ界の政治利用に歯止めをかけるきっかけになればいいのだが……。

最終更新:2019.04.06 01:24

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