新井浩文の事件に便乗して愚劣な“在日韓国・朝鮮人ヘイト”拡散も、ウーマン村本や柳美里らが毅然と批判

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逮捕された新井だが…(所属事務所ANORE公式HPより)


 俳優の新井浩文が、女性に性的暴行を加えたとして、強制性交の容疑で逮捕された。新井は昨年7月に、自宅に出張マッサージの女性を呼び、わいせつ行為をした疑い。新井は一部容疑を否認しているという。

 多数の出演作をもつ有名俳優の“電撃逮捕”。テレビではワイドショーを中心に連日取り上げられ、俳優仲間であるムロツヨシのTwitterへの投稿が新井へのエールと受け取られ炎上するなど、余波が広がっている。

 女性への性的暴行が事実だとすれば、とうてい許しがたい犯罪であることは言うまでもない。しかし、その一方で目に余るのは、新井の出自にかこつけたヘイトスピーチが溢れていることだ。

 周知の通り、新井は日本で生まれた在日コリアン3世であり、デビュー作の映画『GO』でも在日の役を演じた。今回の事件では、新聞等で新井の本名が報じられている。そうしたことから、ネット上ではいま、新井逮捕に便乗して、韓国・朝鮮人や在日コリアンへの差別を扇動する言辞が次々にくりだされているのである。

 引用するだけでもヘドが出るが、そうした言辞は総じて〈強制猥褻や強姦の性犯罪は韓国人のお家芸〉〈やっぱりあの半島の遺伝子はヤバイ〉〈半島はレイプ大国だからな〉〈今回のことは国技ですからね!DNA にすりこまれているから!〉〈強姦民族らしい顔してんじゃん〉というような内容。つまり、新井が強制性交容疑で逮捕されたことと、在日コリアン3世という属性を無理やり関連させて、“韓国・朝鮮人は性犯罪を犯す”と触れ回っているのだ。

 あえてネトウヨたちに訊こう。レイプ犯罪を犯した「日本人」はごまんといるが、では、「日本人はDNAにすりこまれた強姦民族」なのだろうか。そのことと出自は一切関係ない。これは国籍や民族、出自を一括りにして悪質なレッテルを貼る差別の扇動、卑劣なヘイトスピーチ以外のなにものでもないのだ。

 そんななか、何人かの著名人が、新井逮捕をダシにしたネット上のヘイトスピーチに批判の声をあげているのが、せめてもの救いだろう。

 たとえば、在日コリアンであることを公表している作家・柳美里は、Twitterで、ネット右翼のヘイトツイートをあげて〈これらのツイートは、在日韓国・朝鮮人に対する差別や憎悪を扇動しています〉(2月1日)と断じた。さらにネトウヨの〈在日朝鮮人差別?税金も払わんやつに差別なんて言われたくない〉というツイートに対しても毅然と反論している。

〈私は誰かに頼まれて来日したわけではなく、
日本で生まれ、育ち、日本語で読み、書き、思考しています。
そして、税金、払っています。
18歳の時から書くことで生計を立てているので、かれこれ30年間税金を払いつづけています。〉(2月3日)

 いまだに“在日は税金や水道料金を払っていない”などの「在日特権」のデマが流通している。しかし実際には、本サイトでもなんども繰り返し説明してきたように完全に事実無根だ。また、ネトウヨたちは「通名」をありもしない「在日特権」の象徴みたいにあげつらい、たとえば犯罪歴を隠すことができるなどとほざいているが、これも大嘘である。

 現実として、犯罪を犯せば日本の警察の履歴にも名前が残るし、その是非はともかくとしても多くのメディアが実名で報じている。「特権」などと言われるような特別な利益を得ているなどということはない。そもそも、歴史的に「通名制度」は、日本の植民地政策のなかで半ば強制されてきたもので、戦後も就職差別や結婚差別から逃れるために「通名」を使い続けざるをえないという側面があった。

スマイリーキクチ、ウーマン村本も在日コリアンヘイトを批判

 ネットでリンチ殺人事件の加害者だとのデマを書き込まれ、多大な被害を被った芸人のスマイリーキクチは、新井浩文逮捕に乗じた在日ヘイトデマに関して、このようにツイートしている。

〈行為を批判するのではなく、国籍を批判する人達。在日だの通名だの関係のない話を持ち出している。でもネットで差別している人のほとんどが匿名を使う。なぜ差別をする人達は本名を名乗らないのだろう。実名だと何か都合が悪いのかな。匿名の人ほど通名の人達の気持ちを理解しているような気がする。〉(2月3日)

「匿名の人ほど通名の人達の気持ちを理解しているような気がする」というのは「ネトウヨたちは在日コリアンたちの心境がわかる」という意味ではなく、「なぜ匿名のネトウヨたちは“本名を名乗れない”ことへ想像力が及ばないのか」というキクチ流の問いかけだろう。

 もう一度強調しておくが、「在日特権」とは、有象無象のネット右翼たちが中心となって生み出した“差別の道具”に他ならならない。連中のやっていることは、おぞましい差別主義の正当化だ。

 ウーマンラッシュアワーの村本大輔は3日、自身のTwitterにこう投稿した。

〈新井浩文が在日朝鮮国籍だとわかった瞬間にバッシングが何万倍にもなる。国籍で人を決める人種差別主義者が日本には少なからずいる。彼に籍があるとするなら日本人でも韓国人でもなく役者人。せめて語るなら、せめてそこで。〉

「せめて語るなら役者人として」という言い回しは村本らしいが、彼の言うように、少なくとも今回の新井逮捕の一件で「人種差別主義者が日本に少なからずいる」という事実があらためて浮き彫りになった側面はあるだろう。ところが、これにまたもや“ネトウヨ界のインフルエンサー”である高須克弥・高須クリニック院長だった。

高須院長はウーマン村本への反論で「反日の外国人は敵」と差別扇動

 高須院長は、こんな投稿してウーマン村本に絡んでいた。

〈悪いことしたときにシーマンくん(引用者注:村本を高須氏はそう呼ぶ)のようなことを言って被害者に化ける方々こそ軽蔑されるべきです、
僕は国籍性別で差別はしません。
反日の外国人の方々は敵です。〉(2月4日)

 ウーマン村本は事件を在日コリアンの属性と結びつけるヘイトスピーチについて批判しているだけだ。差別という加害への言及がなぜ「被害者に化ける」ことになるのか、このへんがネトウヨ発想そのものだろう。

 しかも、「国籍性別で差別はしません」と言った直後も「反日の外国人の方々は敵」。高須氏がどう言い繕っても、「反日」「敵」などと認定して発信することが外国人差別の扇動以外何ものでもない。

 タガが外れたメディアもふくめ、韓国や北朝鮮を「反日国家」、市民やルーツを持つ在日を「反日民族」と呼ぶことにためらいのない状況のなかで、「反日外国人は敵」と言いふらすことは、「攻撃対象にせよ」と煽っているのと同じである。

 関東大震災での朝鮮人虐殺では、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が放火してまわっている」というデマによって、無辜の朝鮮出身者が殺害された。それは、単なる非常時のデマではなく、民衆の差別感情と「朝鮮人」という属性へのレッテル貼りが招いたヘイトクライムだった。個人の事件をダシに「強姦がDNAにしみこんでいる」なる醜悪な言葉が飛び交う現代日本社会をみていると、このままでは同じことが起こらない保証はないとさえ感じる。

 繰り返すが、逮捕された新井浩文の容疑が事実であれば、断じて、強く批判されるべきである。しかし在日コリアンという属性を抽出してヘイトスピーチをまきちらすのは論外だ。決して看過してはならない。

最終更新:2019.02.05 12:26

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