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新元号に安倍首相の「安」の字が入る!? 極右勢力が「国体思想の復活」を目指し法制化した元号の危険性
首相官邸ホームページより
新元号をめぐる予想が喧しい。周知のとおり、4月末日の明仁天皇の退位、5月1日の皇太子の新天皇即位に先立って、4月1日に新たな元号が発表される。
新元号を予想するアンケートが様々な企業やSNSなどで盛んに行われている。新元号をいくら予想したところで、複数案を用意しており事前情報の出回ったものは外すというのが定説なので、予想にほとんど意味はないだろう。
しかし気になるのは、多くのアンケートで、「安」の字が上位に食い込んでいることだ。
『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)でも先日、新元号予想の話題を取り上げた際、「安」の字が上位に入っていることについて出演者たちは「安心を求めているのでは?」などと予想していたが、「安」の字がランクインしている理由はそれだけではないだろう。
多くの市民が、新元号に「安」の字を予想しているのは、安倍首相の「安」だからではないか。
1月19日付けの日刊ゲンダイは、〈国民的な関心が高まる中、永田町では「新元号に〈安〉の字が採用されるのではないか」との臆測が広がっている〉と伝えた。安倍政権が改憲戦略や外交で厳しい局面に立たされているなか「新元号に総理の姓である〈安倍〉から一字を取るプランがにわかに現実味を帯びて伝わってきているようです」(与党関係者)とのコメントを掲載している。
前述の通り予想じたいに意味はなく、これだけ予想に上がっているぶん、むしろ「安」の字の使用に現実味があるとは言い難い。逆に、こうしたアンケート結果や観測から言えることは、安倍首相なら自分にゆかりのある「安」の字を使うんじゃないか、そう多くの国民に思わせているということだろう。
言うまでもなく、安倍首相が自らの権勢を誇るために「安」の字をねじ込もうとしているとしたら、私物化もいいところだ。しかし、この間、明仁天皇の退位と改元を巡って、さまざまな策略を巡らしてきた安倍政権、そして、この国の政治や財産を我が物顔で牛耳っている安倍首相のキャラクターを考慮すると、「新元号には“安倍の安”を使う」こともやりかねない。もう一度言うが、支持者・批判者問わず多くの国民がそう思ってしまうほどに、安倍首相の独裁体質、安倍首相による国の私物化が進行しているということではないのか。
しかし、安倍首相の私物化以前に、元号じたいが本質的にもっている問題性が見過ごされていないだろうか。だいたい、元号って本当に必要なのか。
言うまでもなく、日本の官公庁や公的機関の書類は、基本的には元号表記だ。だが、自分の生年は暗記しているとしても、事あるごとに西暦を昭和や平成に換算するのは、率直に言って手間である。たとえば「ワシは大正12年生まれ」と言われれば、役所の窓口の担当者は西暦和暦対照表を探して目が泳ぐ。「1923年」がパッと出てくる人はほとんどいない。
しかも、改元にあたっては当然、政府や民間のデータベースやシステムを「平成」から新元号に刷新せねばならず、その対応には並ならぬ時間と費用を要する。逆にいえば、元号さえなければ、そんなことに憂慮は無用。ようするに、元号が公的機関で西暦と混用されるのは、市民感覚として不便でしかないのだ。
だいたい、元号は国際的には一切用をなさない表記だ。当然だが、外国で「昭和35年生まれです」などと言ってもポカンとされるだけである。
ようするに、多くの人が日常的には西暦を使っていながら、公的機関が元号を使用するから、民間人も正式な書類などで元号を使わざるをえない場面が出ている。それが実情だろう。つまるところ、元号というのはとりわけ国際化が進んだ現代においては面倒くさくてならない。元号などなくして西暦に一本化したほうが、一般の生活者もお役人も楽チンというわけだ。
であるからこそ、なぜ、そんな不便な代物がいまだに使われているのか。それは、安倍首相をはじめとする極右勢力にとって、元号は極めてイデオロギッシュなテーマであるからに他ならない。
明治以降でしかない「一世一元」に執着する極右勢力
そもそも、元号とはなんなのか。言うまでもなく、暦の一種である。歴史学の理解では、暦というものは、支配者や指導者が空間(領土や民衆)のみならず時間をも手中におさめようとしてつくられたものと考えられている。代表的なのが中国であり、周知の通り、日本の元号も大陸から伝播したとされる。語源が『漢書』など中国の史書からとられていることは有名だ。
だが、その“パクリ元”である中国すら、いまや元号を使っていない。中国における元号は、漢の皇帝・武帝が創った「建元」(紀元前140〜)が最初とされ、以後、清の末期まで約2000年続いた。その間の正統な皇帝は198代にのぼって、合計450の元号が使われたとされる。だが、1911年の辛亥革命と中華民国の誕生で元号はその役割を終えた。その翌年から中国では西暦を「国民暦」と呼んで用いている。
もっといえば、現在でも中国由来の元号を用いている国は日本だけだ。『日本書紀』によると、孝徳天皇の「大化」(646年)が初めての公式な元号だとされる。元号は現在の「平成」まで北朝を入れると約250もつくられた。日本の天皇は明仁天皇で125代に数えられている。つまり、単純換算で元号は天皇の人数の2倍の数ある。
なぜか。元号は、政治的混乱、飢饉や天災、その他諸々の理由をつけては頻繁に変えられていたからだ。大衆は必ずしも元号を身近に感じておらず、日常的には干支を使っていたといわれている。
現在に通じる「一世一元」は明治に入ってからのことで、大日本帝国憲法および旧皇室典範(第12条「践祚の後元号を建て、一世の間に再び改めざること、明治元年の定制に従う」)によって定められた。天皇を絶対的な権力として、大衆支配のイデオロギーの中心とする「国体思想」。そのなかにおいて改元は、まさに天皇の権勢をアピールするための重要なツールだったのである。
そして、この部分にこそ、安倍首相や保守勢力がいまだに元号にこだわる理由がある。
事実、戦後日本では、国際化の流れのなかで「西暦に統一すべき」という元号廃止論が浮上してきたのだが、そのたびに保守勢力が強く反発し、現在まで温存されてきた。たとえば1992年、政府の臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)の「世界の中の日本」部会では、報告原案に盛り込まれていた「行政文書での西暦併記」が最終報告書では消されていた。保守派や官僚の抵抗によって棚上げを余儀なくされたようだ。部会長を務めた稲盛和夫・京セラ会長(当時)は「私も併記に賛成だが、義務づけると国粋主義のような人がものを言い出して、かえって変なことになるかもしれない」と政治的な配慮を認めたという(朝日新聞1992年5月23日付)。
そして、今回の明仁天皇の生前退位をめぐっても、新元号について、保守派から早期の公表に対する強い反発の声があがっていた。日本会議国会議員懇談会は昨年7月に事前公表に反対することで一致し、同年8月には新天皇による公布を求めて官邸に申し入れを行っている(朝日新聞1月5日付)。新元号の公表が、当初政府内で検討されていた2018年中から、2019年4月1日と大幅に遅れたのは、安倍首相がこうした保守派支持層に配慮したからだ。
「一世一元」に執着する極右勢力は、明仁天皇在位中の改元を「二重権力となる」「今上天皇に失礼」などと主張する。だが、その本音は、大日本帝国的価値観の復活にある。それは、戦後の「元号法制化運動」の軌跡を見れば明らかだろう。
戦前の天皇制や国体思想の復活を目論んだ元号法制化運動
そもそも、明治以降、天皇制のイデオローグとして活用された元号は、第二次世界大戦での敗戦で、その法的根拠を失った。日本国憲法下の皇室典範に元号の定めが置かれなかったためだ。当然、こうした法的問題と、戦後の国際化の流れのなかで、「元号を使うのはもうやめて西暦に統一しようではないか」という廃止論も盛り上がった。そして、昭和天皇の高齢化に伴い、「昭和」の元号が終わりを迎える日が刻一刻と近づいていった。
こうした流れに強い危機感を抱き、元号の法制化に邁進したのが、いまの日本会議に繋がる宗教右派・極右運動家たちだった。いま現在、元号は1979年施行の元号法によって法的な地位を得ているが、これは、彼ら極右運動体の“成果”であり、日本会議前史における大きな“成功体験”として刻まれているとされる。
改めて説明しておくと、1997年結成の日本会議は、生長の家や神社本庁などの宗教右派が実質的に集結した「日本を守る会」(1974年結成)と「日本を守る国民会議」(1981年結成)が合わさって生まれたものである。後者はもともと、この元号法制化運動のための「元号法制化実現国民会議」が前身だ。そして、これらの団体の実働部隊が、現在でも日本会議の中心にいる右翼団体・日本青年協議会(日青協)だった。
元号法制化運動が大きく動いた1977年、日青協が中心となって全国各地にキャラバン隊を派遣する。彼らは同年秋に各地の地方議会で元号法制化を求める決議を採択させる運動に熱心に取り組んだ。
日本会議の機関誌「日本の息吹」2017年8月号で、同政策委員会代表の大原康夫・國學院大學名誉教授が「設立20年」をテーマにふりかえるところによれば、元号法制化地方議会決議運動は翌78年7月までに46都道府県、1632市町村(当時の3300市町村の過半数)で決議がなされた。大原氏はこう述べている。
〈地方議会決議を挙げ、中央・地方に全国的組織をつくるキャラバン隊派遣など啓蒙活動を行い、国会議員の会を組織していく。つまり、現在の日本会議の国民運動の骨格であるこの三本柱は、このときに形作られたのです〉
実際、当時の日青協の機関紙「祖國と靑年」は、キャラバン隊の運動の詳細や、森喜朗ら政治家を招いた大規模集会の模様を写真付きで大々的に取り上げている。たとえば1979年11月発行の43号では、キャラバン隊の西日本隊長だった宮崎正治氏が憲法改正を見据えて「吾々の運動の大きな前進」「元号法成立による自信の表明」と胸を張っている。
しかも彼らは、明らかに元号法の制定の先に、戦前の天皇制や国体思想の復活をみていた。
生長の家系の出版社である日本教文社から1977年に刊行された『元号 いま問われているもの』という本がある。そのなかに竹内光則氏、佐藤憲三氏という日青協の運動家ふたりの対談(初出の「祖國と靑年」に加筆したもの)が収録されているのだが、そこでは「元号法制化の意味するもの」と題して、あけすけにこう語られている。
「元号法制化運動の一番根源的な問題は、天皇と国民の紐帯をより強化する、天皇の権威をより高からしめるというところに一番の眼目がある」
「われわれの元号法制化運動は、たんに元号を法制化したらそれで良いという単純な運動ではないわけですね。彼(引用者注:右翼思想研究でも知られる橋川文三氏のこと)が言う様に、『天皇制をとりまく付帯的な事実』としての元号とか、たとえば『神器』の問題とか、そういう戦後の象徴天皇制の下で無視もしくは軽視されて来た問題を復活せしめて行くことによって、『国体恢復』への『大きな流れ』をつくる運動なんだということが理解されなければならないと思うんです」
わたしたちが、なんとなく受け入れてしまっている元号は、右派の元号法制化運動をみてもわかるように、戦前日本の天皇制と国体思想、すなわち民衆を戦争に駆り立てた狂気の発想の復活を目したものに他ならないのである。
そして、その極右勢力が担ぎ上げている指導者こそが安倍晋三首相だ。その意味では、冒頭で触れた「新元号に安倍の“安”が入る」なる観測は、元号のもつ危険性がはからずも漏れ出ているともいえるかもしれない。いずれにしても、大日本帝国のイデオロギー装置の残骸のひとつである元号を、右派が望む思想的本質の方から直視するべきではあるまいか。
(宮島みつや)
最終更新:2019.01.31 08:04
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