三浦瑠麗の再反論“大震災時に北朝鮮工作員の迫撃砲発見”に阪神大震災を取材した記者たちが「聞いたことない」

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三浦瑠麗の再反論大震災時に北朝鮮工作員の迫撃砲発見に阪神大震災を取材した記者たちが「聞いたことない」の画像1
フジテレビ『ワイドナショー』2月11日放送回より


 日本にはスリーパー・セルと呼ばれる北朝鮮のテロリストが潜伏している、とくに大阪がヤバイ──11日放送『ワイドナショー』(フジテレビ)でこのような差別的なフェイク発言をおこない、炎上した国際政治学者の三浦瑠麗氏だが、再反論で今度は震災の被害者への差別につながるようなデマを口にし、炎上を広げている。

 本サイトでは14日配信の記事で、日本の公安では「スリーパー」という呼び方はあるが、「スリーパー・セル」という呼称は一切使ってないこと、公安捜査員や公安担当記者も「大阪がテロの対象になっていてヤバイなんて話は聞いたことがない」と言っていることなどを指摘した。(リンク

 また、三浦氏が反論の根拠として真っ先に挙げたのが、イギリスにおける日本でいう実話誌のようなタブロイド紙「デイリー・スター」を引用した「デイリー・メール」の記事だったことにも、ネット上でツッコミの声があふれた(ちなみに、両紙の記事とも北朝鮮本国が工作員に向けてラジオ放送で暗号を送っているというよく聞く話で、北朝鮮のスリーパー・セルがテロを起こそうとしているなんていう話は書いていない)。

 これまで“上から目線”の解説で「知的な国際政治学者」というイメージを振りまいてきた三浦氏だが、そんな人物がソースとして出してきたのが実話誌レベルの大衆紙に掲載されたヨタ記事──。恥ずかしくて穴があったら入りたくなるような展開だが、しかし、三浦氏はそれをごまかそうとして、さらに傷口を広げてしまった。

 今回のさらなる炎上の原因になったのは、ツイッターで池内恵・東京大学先端科学技術研究センター准教授から〈スリーパーセルについて表に出して参照できる文献はないですか〉と問われた三浦氏が、こんな返答をおこなったことだった。

〈過去の警察白書を通しての記述と大震災時の迫撃砲発見などの事後的な未遂案件で皆さんが納得するレベルでは十分な公開情報がとれます。スリーパーセルというのは単に工作員の形態に着目した呼び方の問題です。もちろんメディア各社できちんと取材されている記者はもっと情報をもらっているはずです。〉

 北朝鮮テロリストが「スリーパー・セルと言われている」と、あれだけ事情通ぶって語っていたのに、いつのまにか「スリーパー・セルというのは単に工作員の形態に着目した呼び方の問題」と話が変わっていることにも笑ったが、問題は三浦氏が新たに提示した〈十分な公開情報〉のことだった。

神戸新聞記者として阪神大震災を取材した西岡研介、松本創も否定

〈過去の警察白書〉についてはすでに先日の記事で古い拉致事件のことを書いてあるだけのものと指摘したが、三浦氏は新たに〈大震災時の迫撃砲発見などの事後的な未遂案件〉とやらがあると言い出したのだ。

「事後的な未遂案件」とは意味不明な日本語だが、とにかく阪神大震災時に倒壊した瓦礫から北朝鮮のスリーパー・セルが所有していた追撃砲が発見されたことがあった──三浦氏はそう言いたいらしい。

 しかし、そんな事件、本当にあったのだろうか。阪神大震災発生から5年間にわたって新聞記事をデータベース上で検索してみたが、該当しそうなニュースはまったく見当たらなかった。

 また、阪神大震災の直後、取材にあたった複数の新聞記者にも聞いてみたが、誰一人、北朝鮮の迫撃砲が発見された事件を知っている者はいなかった。たとえば、阪神大震災当時、地元の神戸新聞の記者だったジャーナリストの西岡研介氏に聞いたところ、こんな明快な否定が返ってきた。

「僕は阪神大震災発生時から半年間、震災現場を取材して、その後、(兵庫)県警担当に戻って警察取材をしていたけど、そんな話は一切聞いたことがない。そもそも、そういう危険なものが出てきたら現場を封鎖するから、マスコミにすぐ知れ渡って、記事になってるやろ。現に、瓦礫撤去のときに旧日本軍の手榴弾や砲弾が出てきた話は報道されてるからね。でも、当時、北朝鮮の工作員の迫撃砲が発見されたなんて話は一切なかった。県警担当時代もないね。見つかったら、兵庫県警の外事が絶対に動くはずだけど、そういう動きはみじんもなかった。僕は神戸新聞を辞めた後、公安マターもかなり取材してるし、公安内部に情報源もいるけど、そんな話は本当に聞いたことがない」

 また、やはり当時、神戸新聞記者として、震災取材にあたっていたジャーナリストの松本創氏もこう話す。

「震災から1年余り、在日の人が多い長田区を足場に、主に外国人被災者の取材をしていました。さまざまな民族団体や支援団体に出入りし、領事館や行政・警察にも話を聞いた。そういうなかで、『アジア系外国人の窃盗団』や『瓦礫に連れ込んでレイプ』といった、いまでは公式に否定されているデマは耳にしましたが、迫撃砲発見なんて話は、デマとしても一切聞いたことがない。何年も経ってから捏造された陰謀論の類いでしょう」

 では、なぜ三浦氏は「大震災時の迫撃砲発見」をあたかも公然の事実のようにもち出したのか。しかも、〈皆さんが納得するレベルでは十分な公開情報〉などと大見得をきっていたのだ。

三浦瑠麗のソース?読売記事は根拠もディテールもない「与太記事」

 実は、三浦氏が根拠にしたと思しき記事が、阪神大震災から12年も経った後に読売新聞に掲載されていた。

 2007年1月19日付の読売新聞朝刊の連載「核の脅威 20XX年 北朝鮮が…」3回目の「重要施設を警備せよ」という記事に、こんな記述があるのだ。

〈日本に長年潜入中の休眠工作員(スリーパー)もいる。政府関係者によると、阪神大震災の時、ある被災地の瓦礫から、工作員のものと見られる迫撃砲などの武器が発見されたという〉

 記事自体は迫撃砲発見がメインではなく、ほんの数行、こう書いてあるだけなのだが、おそらく三浦氏はこの読売報道をさして〈公開情報〉と言っているのだろう。というのも、新聞記事検索の範囲をデータベース上の全期間に拡げて調べたが、阪神大震災で北朝鮮工作員の「迫撃砲」が発見されたという新聞報道は後にも先にもこの読売記事しか見つからなかったからだ。

 いや、新聞だけではない。公安プロパガンダの真偽不明な情報が大好きな週刊誌でも「迫撃砲発見」の記事は見つけることができなかった(週刊誌記事の場合は、新聞記事のようにキーワード検索をかけても出てこないケースがあるので、100%ないとは言えないが)。

 しかし、他に報道がまったく見つからないということからもわかるように、この読売の記事じたいが相当に怪しいシロモノだ。「政府関係者によると」というかたちで、なんの根拠もディテールも示さないまま「発見されたという」などと伝聞を書いているだけ。その迫撃砲が見つかった場所も、どういうタイプの迫撃砲だったのかも一切書いていない。これ、公安系のネタによくある典型的な飛ばし記事ではないのか。公安情報に詳しい前出の西岡氏も苦笑しながらこう話す。

「たしかに、一目でヨタ記事ってわかる感じの記事やね(笑)。まず、こんな公安情報を『捜査関係者』でなく『政府関係者』が話してるという時点で、信憑性が感じられない。みんな公安のことを誤解しているみたいだから言うとくけど、もし、北朝鮮の迫撃砲が見つかったりしたら、公安は絶対に隠したりせえへんよ。公安にとっては、捜査を広げる千載一遇のチャンスなんやから、総連にガサ入れするなり、絶対に事件化に向けて動き出す。とくに、兵庫県警の外事というのは、北朝鮮がらみの事件はすごく積極的で、“無理筋”の事件でも強引に事件化する傾向があるくらいやからね。迫撃砲を押収しただけでほっとくはずがない。
 迫撃砲が見つかったのに当局が隠したとかいう人がいたら逆に聞きたいけど、それを何十年も隠し続けるメリットってなんなの? 公安はこんなおいしいネタをそのままにしておくほどお人好しじゃない。仮に事件化が無理なケースでも、マスコミには絶対にリークする。しかも、公安がリークするときは、記事にできるだけのディテールをちゃんと流すよ。瓦礫になっていてもその土地が誰の持ち物で誰が住んでいたかはわかるわけやから、所有者の情報は出してくるし、最低限、その迫撃砲がどこの国の製造なのか、型式はどういうものなのかも流す。今回、そういう情報が一切出てこない、読売がそういうディテールを一切書いていないというのは、そんな事実がなかったからとしか思えない。まあ、読み物連載やし、デマをふりまくのが大好きな政治家とかから噂話を聞いて、裏も取らずに適当に書いただけちゃうんかな」

「迫撃砲発見」デマは「旧日本軍の迫撃砲弾発見」が大元か?

 西岡氏の言うとおり、日本の公安が重要なスパイ事件やテロ未遂事件を秘匿し、国民に知らせぬまま闇に葬り去っているなんていうのは、スパイ小説しか読んだことのないドシロウトの発想だ。公安はむしろ、自分たちの予算拡大や捜査権拡充に最大限利用するために、警察組織のなかでも一番積極的にマスコミに情報を出す組織なのだ。

 とくに、北朝鮮がらみは外交への配慮が不要なため、事件が起きたときは大量の情報をリークして世論を煽ってきた。それは、1985年に発覚した北朝鮮工作員の日本人なりすまし事件、通称「西新井事件」の報道を見れば明らかだろう。このとき、公安は協力者を外国人登録法違反(無登録)で逮捕した段階で、主犯が“大物秘密工作員”であるとして指名手配。マスコミは公安のリークに乗っかって、拉致事件への関与からスパイの七つ道具が押収されたという話まで大々的に書き立てた。

 また、2001年に起きた東シナ海の北朝鮮工作船事件でも、沈没していた船に搭載されていた武器の詳細や様々な工作との関係がこれでもかとばかりに流され、報道された。

 これらに比べて、「迫撃砲発見」は不自然なくらいまったく報道されていないのだ。それは、この情報が公安プロパガンダ以前のレベルにあることを物語っている。西岡氏は「デマ好きの政治家の噂話じゃないか」、松本氏は「何年も経ってから捏造された陰謀論の類いだろう」と推測していたが、実際、この話はフェイク、都市伝説の可能性が非常に高い。

 実は、この「迫撃砲発見」デマには元ネタと思しきものがある。それは、先に西岡氏も言っていた、阪神大震災のあとに「旧日本軍の砲弾や手榴弾」が見つかっていることだ。実はそのなかに「迫撃砲弾」が含まれており、新聞も何度か記事にしているのだ。

〈十一日午前十時半ごろ、阪神大震災で倒壊した兵庫県西宮市津門川町の木造アパートのがれきをパワーショベルなどで撤去していた作業員が、迫撃砲弾の不発弾一発を見つけ、西宮署に通報した。陸上自衛隊第三師団司令部(同県伊丹市)第三武器隊が回収し調べたところ、八一ミリ迫撃砲弾(長さ六三センチ)で、安全装置がかかっていた。旧日本陸軍のものとみられる。〉(毎日新聞大阪版朝刊 1995年3月12日付)
〈阪神大震災の護岸工事が進む神戸港で、戦争中に日本軍や米軍が製造、使用したとみられる爆発物が相次いで発見されている。十八日は四月に続いて砲弾などが三個回収された。腐食がひどく爆発の危険性はないが、震災復旧で開港以来の大規模な工事が続いており、神戸海上保安部は「爆発物は、今後も見つかる可能性が高い」とみている。〉(朝日新聞大阪版朝刊 1995年5月19日付)

 念のため言っておくが、見つかったのは「迫撃砲」ではなく「迫撃砲弾」、つまり弾のほうであって、しかも、戦時中の旧陸軍や米軍が使用した腐食が進んだものばかりだった。だが、これがいつのまにか事実が捻じ曲げられて「瓦礫の下から北朝鮮スパイの迫撃砲発見」というデマにつながっていったのではないか。

 他に震災と「迫撃砲」を関連づけるような情報が皆無であること、デマが「迫撃砲」というところだけやけに具体的で、それ以外はまったくディテールがないことを考えると、その可能性は非常に高いと言えるだろう。

 しかも、このデマを拡散させたと思われる人物がいた。それは、安倍首相ブレーンの極右イデオローグとして知られる中西輝政・京都大学名誉教授だ。中西教授といえば、コミンテンルン謀略史観を平気で語ったり、つい最近まで“北朝鮮の核開発の黒幕は中国”という説を唱えていたりと、大学教授らしからぬ陰謀論信奉者として有名だが、「Voice」(PHP研究所)2004年3月号の連載でこんなことを書いているのだ。

〈九年前の阪神・淡路大震災直後の救助中に、倒壊した家屋の地下からたくさんの武器庫が見つかったとされる。当時から、消息筋のあいだの噂話として耳にしたが、この事実は現在では多くの信頼できるソースで語られている。〉

 中西氏は「多くの信頼できるソース」などと書いているが、読売の記事同様、具体的な根拠やディテールは一切なく、伝聞した話をなんの裏付けも取らずに書いただけという臭いがぷんぷんする記事だ。

「瓦礫の下から武器」デマの背景にあるグロテスクな在日差別

 しかし、この記事は2ちゃんねるなどで広がり、ネトウヨの間では在日ヘイトとドッキングして、「阪神大震災の瓦礫の下から北朝鮮の工作員の武器が大量に出てきた」「在日朝鮮人がテロを企てていた証拠が出てきた」という話になり、あたかも事実のように流通するようになった。

 三浦氏が根拠にしたと思しき読売の記事はその3年後だから、中西氏が火をつけ、ネトウヨが拡散したこのデマが元になっている可能性もある。

 いずれにしても、三浦氏が〈皆さんが納得するレベルでは十分な公開情報〉などとうそぶき、もち出してきたのはこんなレベルの情報だったのだ。「国際政治学者」「東京大学政策ビジョン研究センター講師」という肩書きでテレビ出演している仮にもアカデミズムの人間がこんなものを情報源にして恥ずかしくないのか。

 いや、実は三浦氏はこの読売新聞の記事の存在を知っていたかどうかすら疑わしい。三浦氏がこの〈大震災時の迫撃砲発見などの事後的な未遂案件〉を根拠とするのなら、なぜ最初の反論の際にこれを出さず、実話誌レベルの「デイリー・スター」とネッシースクープの「デイリー・メール」を根拠に提示するという恥ずかしい行動に出たのか、意味がわからないからだ。

 反論を出したところさらなる反論が返ってきたがために、あわてて新聞データベースで「北朝鮮 スリーパー 工作員」などと検索をかけたところ、読売の記事だけが見つかったので、もち出した……あまりに杜撰な発言、反論を見てきた側としては、そんな想像さえしてしまう。
 
 しかし、三浦氏が罪深いのはそんなことより、やはり、今回の再反論が「大阪ヤバイ」発言に続いて、差別を助長するものであることだ。

 前述したように、三浦氏が読売記事を根拠に口にしたと思われるこのフェイク情報は、明らかに在日朝鮮人差別と結びついており、ネトウヨたちはこの情報をもとに、在日朝鮮人をテロリストよばわりしていた。

 多くの住民が犠牲になった阪神大震災という大災害を利用して、そんなデマを口にするというのは、それこそ、関東大震災で「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマを拡散して、朝鮮人の虐殺を扇動した行為と同じではないか。そして三浦氏の今回の発言は、まさに差別のためのデマをつくり出してきたネトウヨの行動と地続きにある。

 抗弁すればするほど泥沼にはまって、国際政治学者としての知識や情報の乏しさ、フェイクぶりを露呈していく三浦氏。しかし、最大の問題はその無自覚な差別的本質にあるのではないか。

最終更新:2018.02.18 01:39

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