飯塚事件、なぜ再審を行わない? DNA鑑定の捏造、警察による見込み捜査の疑いも浮上…やっぱり冤罪だ!

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日テレHPより


 死刑が確定から30年以上収監された末に2014年に再審が決定した袴田事件、逮捕から17年にして冤罪が明らかになった足利事件……。これまで数多くの冤罪事件が起こってきたが、冤罪が強く疑われながら死刑が執行されてしまったのが、1992年に福岡県で起こった「飯塚事件」である。

 そして、この飯塚事件にスポットをあて、冤罪疑惑に切り込んだドキュメンタリー番組が放送され、ネット上で話題を呼んだ。3日深夜に日本テレビで放送された『死刑執行は正しかったのかⅡ 飯塚事件 冤罪を訴える妻』だ。

 話題となっているのには理由がある。番組では、裁判所が死刑と判断した数々の証拠を検証し、それらに大きな疑問があることをことごとく指摘。警察による見込み捜査によって犯人に仕立て上げられ、ついには死刑を執行された疑いが濃厚であることを告発したのだ。

 まずは事件のあらましを紹介しよう。この事件はいまから25年前の1992年2月20日に起こった。福岡県飯塚市の小1女児2人が登校中に行方不明になり、翌日遺体で発見される。捜査は難航したが、2年7カ月後に逮捕されたのが近所に住む久間三千年氏だ。

 久間氏は一貫して無実を主張。一方、確固たる直接的な証拠がないなかで、99年に福岡地裁は死刑判決を下す。だが、それは数々の状況証拠を積み重ねただけのものだった。

 たとえば、久間氏にアリバイがないことや、久間氏の車内座席から微量の血痕と尿痕が検出され、血液型が被害者の1人と一致したこと。被害者に付着した繊維片が久間氏の車座席シートと類似していること。また、被害者のランドセルなどが発見された場所での目撃された車の特徴が、久間氏が所有するワゴン車の特徴と一致したこと。そして、被害者の遺体から見つかった血液によって血液型とDNA型が判明したが、それが久間氏と一致したこと。これが有罪判決の何よりの決め手とされた。

 そうして2006年10月に最高裁で死刑は確定。わずか2年後の2008年10月28日に久間氏の死刑は執行される。

 問題は、この死刑執行のタイミングだ。じつは2008年1月に今回のドキュメントのチーフディレクターでもある清水潔氏が中心となり、日本テレビが足利事件の犯人として無期懲役が確定していた菅谷利和氏の冤罪報道キャンペーンを開始し、同年12月19日に東京高裁は足利事件のDNA型再鑑定をおこなうことを決定した。だが、10月17日の段階から再鑑定の方針はマスコミで報じられ、大きな話題となっており、菅谷氏と同様、当時の精度の低いDNA鑑定の検査法「MCT118」法によって犯人のDNA型と一致したことが有罪の理由とされ、死刑が確定していた久間氏にも注目が集まろうとしていた。にもかかわらず、足利事件のDNA型再鑑定の方針が報じられて約10日後というタイミングで、久間氏の刑は執行されたのだ。

DNA鑑定の誤りは、意図手的な証拠捏造だった可能性も

 これについては当時から「足利事件で大きな批判を浴びているのに、死刑案件の飯塚事件まで冤罪が明らかになれば司法当局のメンツがもたない。そのため臭いものに蓋をしたのではないか」「死刑執行で冤罪を隠蔽した」といった批判や疑惑が指摘されていた。

 実際、久間氏の死刑執行から約8カ月後の2009年6月に菅谷氏が釈放されると、DNA型鑑定に注目が集まった。しかも、菅谷氏と久間氏のDNA型鑑定は、検査法が同じだっただけではない。「じつは飯塚事件と足利事件のDNA鑑定は、科学警察研究所の同じ技官が、同じ方法でおこなっていた」というのである。

 技官も方法も同じ、さらには検査時期もほぼ同じ。つまり、足利事件と同様、飯塚事件のDNA鑑定も誤りがある可能性が高いということだ。

 また、裁判で証拠として提出されたDNA型鑑定のネガフィルムが意図的に切り取られており、カットされた部分には久間氏でも被害者でもないまったく別のDNAが存在していたことが明らかになっている。その上、弁護団側がおこなった再鑑定でも、犯人と久間氏のDNA型は一致しなかった。

 絶対的証拠だったはずのDNA型鑑定が間違っていた可能性だけでなく、意図的な捏造疑惑が浮上している飯塚事件。そして死刑執行後の2009年、久間氏の妻が異例の再審請求をおこなうが、2014年に福岡地裁はそれを棄却。その理由は驚くべきものだった。

「(DNA鑑定は)『鑑定結果を直ちに有罪認定の根拠とすることはできない』として、事実上、証拠から排除したのである」「それでも裁判所はDNA鑑定を排除しても、それ以外の状況証拠で判決は正しかったと結論づけた」

 決定打とされたDNA型鑑定は証拠から外すが、再審は行わない──。都合の悪いことは“なかったことにする”。これを欺瞞と言わずしてなんと言おう。しかも、すでに犯人とされた者が国家によって死刑が執行されている重大案件なのだ。番組では、久間氏の妻が「最初はDNA鑑定が一致したとして逮捕されたのだから、そのDNA鑑定が一致していないということであれば、これは犯人でないということなんですよね。だから、そこがすごくおかしいと思いました」と強く怒りを訴えているが、その通りだろう。

 だが、DNA鑑定の結果が排除されても、まだ疑うべき重要証拠はある。血液型だ。当初、遺体から発見された血液は被害者と犯人の混合血液で、警察はこれをB型と断定。久間氏の血液型もB型だ。しかし、弁護団の鑑定ではAB型だという結果が出たのだ。

 また、「久間氏の車内座席から検出された血痕の血液型が被害者の1人と一致した」という証拠についても、弁護団は「血痕の血液型は久間氏の家族とも一致する」と主張。「被害者に付着した繊維片が久間氏の車座席シートと類似している」ことも、「シート繊維の鑑定は全種類の車でおこなったわけではなく久間氏の車しか対象にしていない結果」でしかない。

目撃証言にも、警察による誘導の疑いが 

 そして、目撃証言にも重大な疑惑がある。被害者の遺留品が見つかった場所で目撃されたワゴン車と人物の特徴が一致したことで久間氏が捜査線上に浮上したが、一瞬、車ですれ違っただけのその目撃談は、日を追うごとに詳しくなっていったのだ。

 目撃者の証言が得られたのは事件から11日後のことだったが、最初は「紺色のワゴン車」としか話していなかった。それが事件から13日後には「紺色ボンゴ車で後輪はダブルタイヤ」と言い、18日後には「ガラスにフィルムが貼ってあった」と追加された。それは、まるで久間氏の車の特徴に寄せていっているかのような証言だ。さらに番組では、注目すべき点は目撃者が「車はトヨタや日産ではない」「車体にはラインが入っていない」と語っていることだとする。

 久間氏の車には、銀色の細いラインが入っている。しかし、番組の調査によると、もともと久間氏が所有していたワゴン車は銀色のラインだけではなく黄色とオレンジ色のラインが入っているもの。久間氏はこの派手なラインを剥がし、銀色のラインが残った状態で乗っていたのだ。目撃者はこの銀色のラインが残った状態の車を目撃したことになるが、そのため番組は、「黄色とオレンジのラインの存在を知らなければ、銀色のラインを無視して『ラインはなかった』という証言はできないのではないのか」と疑問を呈する。

 しかも、こうした疑問を裏付ける当時の捜査資料を入手。こんな疑惑も明らかにしている。

「事件の日から18日後、警察は目撃者A氏の目撃調書を作成した。これによって久間氏に捜査の的を絞ったはずだった。ところが、A氏の目撃調書をつくる2日前に捜査員自ら久間氏の車を確認していたという。その日の捜査資料には、すでに『車にラインはなかった』などの特徴が書かれていたのだ」

 ようするに捜査員は、あらかじめ「黄色とオレンジのラインが剥がされていた」ということを知っていた、ということだ。さらにこの捜査員こそが、車の目撃者から聞き取りをおこない、調書を書いていたというのである。これは目撃証言を誘導した結果ではないのか。

 ことごとく覆される重要証拠と、見込み捜査の疑い。しかし、肝心の久間氏の死刑はすでに執行されてしまっている。この重すぎる現実を突きつけるこの番組は、あらためて死刑は取り返しのつかない刑だと言われる所以を実感させられるものだった。そんななかで、足利事件をはじめ、桶川ストーカー殺人事件、南京事件など、徹底した調査報道でスクープを連発してきた清水ディレクターがこの問題を追求していることは、大きな救いだろう。

 無罪を訴え、最後まで刑務官に怒りを隠さなかったという久間氏。その無念と、背後でおこなわれていた警察の卑劣な見込み捜査や証拠のでっち上げ、改ざん、司法の闇に対する追求と真相解明を、今後も期待したい。

最終更新:2017.12.07 06:15

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