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野党が安倍政権に勝てないのは経済政策のせいだ! 民進党は緊縮財政路線を捨て庶民のために金を使う政策を
蓮舫参議院議員HPより
白紙領収書や違法献金、暴言失言など閣僚の不祥事が続出しようが、就任前の米大統領にノコノコ会いに行くという醜態を晒したうえ、北方領土もロシアにやられっぱなしといった外交失策を繰り返そうが、安倍政権の支持率は一向に下がる気配がなく、対する最大野党の民進党は一向に上向かず調査によってはむしろ下がっているくらいだ。
これはいったいどういうことなのか。もちろん、その背後には、安倍政権がメディアを牛耳って、自分たちへの批判、都合の悪い報道を封じ込む一方、ありもしない危機を次々に煽っているという問題が大きいだろう。
しかし、安倍政権がのさばり続けている背景には、もうひとつ大きな問題が横たわっている。それは、民進党をはじめとする野党があまりにだらしなく、国民の求めているものにまったく応えられていないという問題だ。
とくに、最大の原因は経済政策だ、というのが『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)などの著書で知られる立命館大学経済学部教授の松尾匤氏だ。月刊誌「世界」(岩波書店)2016年11月号でも「なぜ日本の野党は勝てないのか? 反緊縮の世界標準スローガン」という論文を発表。数々の失政と横暴にもかかわらず安倍政権の支持率が一向に下がらず、民進党の支持が上がらない背景に、その経済政策があることを指摘している。
松尾氏の論理は明快だ。さまざまなデータから人々の生活は豊かどころか、厳しさが増すばかりだと分析する。そして、どんな調査を見ても有権者が政治に求めているのは、景気や雇用、社会福祉であることが明らかで、大多数の有権者は、憲法改正のような安倍政権の政治姿勢とは関係なく、「景気のためだけ」に自民党に投票しているとの結論を導く。とくに10代の若い世代は、アベノミクスの破綻を喜んで煽っているような野党が政権をとったら、自分たちが就職活動をするときに就職氷河期になるのではないかと本気で恐れているというのである。
だから、野党が自民党に勝つには原発でも安保でも憲法でもない、自民党の政策よりも人々の暮らしの苦しみや不安を取り除き、いまよりも楽に豊かになれるのだということがハッキリわかる政策を打ち出す必要があるという。それができれば選挙に勝ち、できなければ永久に自民党には勝てないだろうというのである。
しかも、実はこうした図式は日本に限ったことではなく、広く先進国全般で見られることだと松尾氏は指摘する。その典型が、アメリカ大統領選を席巻したトランプ現象だ。勝利したドナルド・トランプ氏が選挙戦後半に徹底攻撃していたのが、政治的エスタブリッシュメントだ。政治的エスタブリッシュメントとは、これまで政治の主流を占めてきたのは中道右派・保守政党と中道左派・米国リベラル派といった左右の「真ん中」に近い勢力だ。ところが、そんな左右の中道が進めた新自由主義的グローバリズムで国民が幸せになったかというと、まるでそんなことはなかったことに一般庶民が目を覚ました。そこで、そうした人々の声をくみ上げ、代弁したのがトランプ氏であり、民主党最左派の「社会主義者」バーニー・サンダース氏だったというのだ。
同じことがヨーロッパでも起こっている。フランスやスペインでは中道勢力が軒並み地盤沈下し、極右と極左が不気味な台頭を続けている。イギリスでは、2015年の労働党党首選で泡沫候補と見られた最左翼候補のジェレミー・コービン氏が圧勝し、ブレア元首相以来の「中道」路線に幕が引かれた。緒戦で泡沫扱いされていたのは、まるでトランプ現象と見紛うばかりだ。一方の保守党側でも、EU市場にばかり顔を向けて緊縮路線を続けるデーヴィッド・キャメロン首相らの主流派勢力に対して“もっと右”のEU離脱派が公然と反旗を翻した。結果、国民投票で「EU離脱」が多数を占める事態になった。
こうした状況について松尾氏は、〈八〇年代のサッチャー時代以来緊縮を続けてきたグローバル市場推進の新自由主義路線によって、大企業と大金持ちばかりがもうかる一方で、多くの人々が生活を壊され、はなはだしくは満足な医療や介護を受けられなくて命を落とし、大量の若者が職につけず、怨嗟が渦巻いているから〉だと分析する。
本来、これに対抗するはずの左派のリベラル勢力も、90年代の英労働党ブレア政権の「第3の道」や米民主党クリントン政権以来、グローバル企業ばかりを優遇し、かつての「大きな政府」による福祉国家から「小さな政府」を標榜するようになっていた。こうした状況に対して、“もっと右”“もっと左”からの異議申し立てが起きているというのである。
松尾氏はこの動きの背景に共通するものがあると指摘する。
〈だからそのスローガンは「反緊縮」である。「政府は民衆にもっとお金を使え!」ということである。これを、世界的普遍性を持った階級連帯の論理で言うか、自国民優先の身内扶助の論理で言うかが左右で違っているのである〉
「反緊縮」。要は政府が民衆のためにお金を使う――有権者はそんな政策こそ求めているというのだ。
そこで思い出すのが2009年に民主党(現・民進党)が政権交代を果たしたときに掲げた政策の数々だ。「コンクリートから人へ」をスローガンに、子ども手当、高校無償化、高速道路の無料化、農家の戸別補償、ガソリン暫定税率撤廃……と、いずれも政府が国民のためにお金を使う政策ばかりだった。対する自民党は、これを「バラまき」と批判した。結果はご存知のとおり、財務省の言いなりになって「緊縮」を唱える自民党に、民主党は307議席と圧勝した。
答えは実に簡単なのだ。野党の中心を担う民進党が政権交代時の原点に立ち返り、政府のお金を国民のために使う政策を打ち出すだけでいいのである。財源についても、「足りなければ刷ればいい」というのが松尾氏の主張だ。それが世界の潮流であると、実例をあげつつ説いている。ヨーロッパでは、コービン英労働党党首が掲げる「人民の量的緩和」をはじめ、EUの共産党や左翼党の連合である欧州左翼党、スペインのポデモス、欧州の労働組合の連合である欧州労連などが、中央銀行が財政を直接支えることを主張し、ノーベル賞経済学者のスティグリッツ氏やクルーグマン氏らもコービン支持を表明しているという。
昨年6月には、欧州議会の左翼党系、社会党系、緑の党系の左派三会派(11カ国、18議員)が欧州中央銀行に書簡を送り、欧州中銀がつくった資金を「ヘリコプターマネー」として直接、市民に配当するよう要求した。また同じ月に欧州左翼党とイタリア共産党再建派がコンファレンスを開いた。そこでも、「もっとおカネを刷って、雇用を創出するプランに投資せよ」とか「インフレはまったく問題ではない。価値を失うことを恐れて誰もおカネをポケットに入れたままにしなくなるので、おカネが回るようになるからだ」「欧州中銀はおカネを刷って公共サービスに融資すべきだ」といった発言が相次いだ。詳細は松尾氏の著書(前掲書)を読んでもらいたいが、中央銀行の緩和マネーで財政ファイナンスして民衆のために使えという主張は、欧州左派勢力にとってはほぼ常態化していると言ってもいいようだ。
ところが、日本では肝心の民進党が財務官僚に洗脳された元財務相の野田佳彦氏が幹事長を務めているから大胆な方針転換ができない。
一方、新自由主義政策の“ご本尊”だった自民党は、第2次安倍政権発足後から「アベノミクス」などという言葉の目くらましを使ってかたちだけの方針転換を演出し、景気刺激を展開した。これが功を奏して民衆の支持を集めた。しかも、自民党の場合は本来、批判勢力となるはずの“極右”を取り込んでしまっているため、「右」からの異議申し立てが起きない構造になっている。さらに、欧米と違って「左」からの批判の声もほとんど聞かれない。
だが、アベノミクスは見かけだけの「反緊縮」だから、化けの皮が剥がれるのも早かった。政権側は「アベノミクスは道半ば」などと詭弁を弄して失政を取り繕った。一方、有権者の側もアベノミクスの有効性に疑問を覚えつつも他に有効な選択肢がないから、ダラダラと支持を続けている。これが、現在の「1強」の正体なのだ。
こうなると、勝つための処方箋は明快だ。「反緊縮」「反新自由主義」の旗を掲げ、「政府が庶民のためにお金を使う」「大きな政府」という目標を明確にした本格的な左翼・社会主義的政策を示せばいいのだ。「政府が庶民のためにお金を使う国」がいいのか、「企業が世界でいちばん活躍する国」がいいのかを、有権者に選んでもらうというわけだ。
ところが、民進党の向いている方向はまったく逆だ。野田幹事長にいたっては、国民がこれだけ不景気と生活苦にあえいでいるというのに、消費税10%への引き上げを再延期する自民党の方針を批判し、いまだ「財政健全化」という名の財政緊縮を主張するというトンチンカンぶりだ。
これではいつまでたっても、安倍自民党に勝てるわけがない。緊縮財政などという財務省の言いなり路線はとっとと捨てて、庶民のためにお金を再配分せよ。それしか、自民党政権を倒す方法はない。
(野尻民夫)
最終更新:2017.11.15 05:51
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