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新潟県知事“出馬撤回”の真相はやはり再稼働狙う原発ムラの圧力? 新潟日報ではなく官邸が揺さぶり説
新潟県知事公式ホームページより
いったい何があったのか。8月30日、4選出馬を表明していた新潟県知事・泉田裕彦氏が、突如として知事選出馬を撤回した一件をめぐって、柏崎刈羽原発(東京電力)再稼働をもくろむ原発ムラの圧力ではないか、との見方が流れている。
たしかに、泉田知事といえばこれまでも柏崎刈羽原発再稼働に反対し、東電を再三にわたって批判するなど、厳しい態度でのぞんできた。現在、柏崎刈羽原発では6、7号機の再稼働に向け原子力規制委員会が審査中だが、泉田知事はこれまで「福島第一原発事故の検証と総括がない限り、再稼働は議論しない」と語り、今後も県独自の安全性が認められるまで再稼働を認めないと“原発の安全性”を争点に知事選を戦う決意表明までしていた。
ところが一転しての出馬撤回。その理由として、泉田知事が会見で語ったのが地元紙・新潟日報の報道の影響だった。
新潟日報の報道というのは、今年7月から始まった、新潟とロシア間で使うフェリーの購入問題を追及するキャンペーン記事のこと。県は事業を請け負う「新潟国際海運」にフェリー購入金3億円を出資したが、フェリーの整備などに問題が発覚、引き取りを拒否したことで売り手側の韓国企業とトラブルになっており、この一件に関して新潟日報は県や泉田知事の責任を厳しく追及していた。
泉田知事はこれに対して「このような環境の中では、十分に訴えを県民にお届けすることは難しい」と語り、このキャンペーンの背後に原発再稼働を目論む勢力の思惑があることを示唆した。
朝日新聞のインタビューでは、自分が候補者だと船の問題ばかりが選挙の争点になる危惧があるとし、「原子力防災を争点化した上で選ばれる知事が誕生して欲しい」と発言。「週刊朝日」(朝日新聞出版)の取材に対しても、泉田知事は出馬撤回の理由をこう解説している。
「県内には柏崎刈羽原発がありますが、ヨウ素剤の配布や地震・原発事故の複合災害時の避難などで不備は明らかです。現状の原子力災害対策指針で対処できない事態がいっぱいある。この問題を会見で訴えたり、政府も今春から対処を始めたところでした。
ところが、今回のフェリー購入問題が報道されて以降、原発に関する議論はかき消され、フェリー問題だけが議論の対象となってしまった。私が立候補したままでは県民の生命、安全、健康をどうするかを語る選挙にならない」(「週刊朝日」9月16日号)
さらに、泉田知事の後援会ホームページにはこんな文章もアップされた。
〈東京電力の広告は、(新潟日報に)今年5回掲載されていますが、国の原子力防災会議でも問題が認識されている原子力防災については、例えば、県が指摘している現在の指針に従えば避難が必要になったときにはUPZ圏内の住民40万人強を2時間で避難させなければならなくなる問題等県民の生命・健康を守るうえで重要な論点の報道はありません。このような環境の中では、十分に訴えを県民の皆様にお届けすることは難しいと考えています〉(いずみだ裕彦 後援会 8月30日)
つまり、原子力ムラが新潟日報に広告を出し、その見返りに泉田知事の再選を阻止するためにフェリー購入問題を仕掛けてきた──泉田サイドはそう示唆しているのだ。
たしかに、原発ムラのこれまでのやり口を見ていると、こうした仕掛けもけっして荒唐無稽な話ではない。たとえば、福島第一原発をめぐっては、プルサーマル導入に強硬に反対していた当時の福島県知事・佐藤栄佐久氏が、東京地検特捜部に収賄容疑であまりに不自然なかたちで逮捕され、司法記者の間でも“明らかな国策逮捕”という声が上がった。
また、高浜原発では、2000年代前半、プルサーマル導入に反対する高浜町長に対し、なんと暗殺計画までもちあがっていたことが明らかになっている。冗談のような話だが、当時、高浜原発の警備を担当していた警備会社社長が「週刊現代」(講談社)で、関西電力の幹部である同原発副所長から依頼を受けたと告発したのだ。
ただ、今回のケースは、泉田知事の説明では納得のいかない部分もいくつかある。ひとつは、新潟日報が08年に原発追及キャンペーンで新聞協会賞を受賞するなど、もともと原発に批判的な報道を展開していること。最近はややトーンダウンした印象もあるが、それでも原発に疑義を呈する記事を掲載し続けており、原発ムラに利用されて泉田バッシングを仕掛けるとは考えにくい。
また、この新潟日報が追及しているフェリー購入問題は泉田知事の個人的不正ではなく、県とフェリー会社のトラブル。泉田知事の懸念するような選挙での争点になる可能性はかなり低いし、少なくとも、これが原因で出馬撤回しなければならないような話ではない。
そんなところから永田町では、泉田知事の出馬撤回はフェリー問題とは別の理由があったのではないか、という見方がささやかれている。
「フェリー問題程度の話ならば、泉田知事が原発再稼働反対を争点に知事選に出馬すれば、吹き飛ばすことができたはず。それなのに、出馬を撤回したというのは、身辺にもっと決定的な問題があって、それを突きつけられた可能性が高い。ただ、それを明らかにするわけにはいかないので、新潟日報のフェリー問題報道のせいにしたのではないか、と言われてますね」(全国紙政治部記者)
ただし、これは原発再稼働問題と無関係ということではない。昨年くらいから、原発再稼働をもくろむ自民党、官邸、地元財界、東京電力が一体となって、泉田氏に知事選に出馬をさせないように“泉田おろし”に動いていたのは明らかな事実だからだ。
「自民党や官邸、地元財界は原発再稼働に協力的な森民夫長岡市長に候補を一本化しようと動いていました。しかし、泉田氏が立てば、原発が争点になってマスコミに大々的に報道され、逆効果になりかねない。そこで、とにかく泉田氏に出馬を翻意させようと、あの手この手を使って働きかけていた」(地元紙記者)
ただ、それでも泉田知事は翻意することなく、今年2月、知事選出馬を表明した。そこで、泉田氏に決定的な脅しが突きつけられたのではないか、というのだ。
「それも、新聞や週刊誌が取材に動いたということでなく、官邸もしくは自民党が6月ごろ、関係者を通じて泉田知事にスキャンダルの存在をほのめかしたのではないか、と言われています」(前出・全国紙政治部記者)
実は、泉田知事をめぐっては、13年7月、東京電力社長との会談で、柏崎刈羽原発再稼働申請に真っ向から反対姿勢を示した後に、官邸、自民党、原子力ムラが一体となった、ネガティブキャンペーンとスキャンダル探しが行われたことがある。
当時、経済産業省や原子力規制庁の役人がしきりに泉田知事の悪口を流布していたことを、泉田知事と経産省時代の同僚である古賀茂明氏が証言しているし(「週刊現代」13年7月27日・8月3日号)、評論家の佐高信氏は連載コラムで「東電のウソを叱った新潟県知事の「国策逮捕」もあながち空想ではない」と題し、福島県の佐藤栄佐久前知事と同じように泉田氏逮捕の危険性があることまで示唆した(「サンデー毎日」13年7月28日号/毎日新聞出版)。また、泉田知事自身も、「週刊朝日」(13年12月30日号)の室井佑月氏との対談で、「やっぱり車、尾行されたり、女性関係、調べられたりしてるんですか?」と質問され、こう答えている。
「多分、いろいろ調べたんでしょう。私も霞が関にいたので、何をするのか見当がつきます」
このときは、結局、憂慮していた事態は起きず、泉田知事はその後も一貫して再稼働反対の姿勢を貫いていた。しかしそれから3年。原発ムラによる泉田おろしがとうとう、力を発揮してしまったということだろう。
もちろん、こうした見方に対して「陰謀論にすぎない」という批判があることは承知している。根拠のない謀略論を無自覚に流布させることは、一般の人から荒唐無稽と受け取られ、逆に原発推進を利する結果につながりかねないことも自覚しているつもりだ。
しかし、電力会社のバックには、官邸、自民党の存在があり、原発ムラは検察や警察にもネットワークをのばしている。前述したような福島や高浜で起きたケース、原発に批判的な研究者やメディアへのこれまでのさまざまな圧力を考えれば、今回もこうした工作が行われた可能性は非常に高い。
すでに東京電力は、15 年4月に「東京電力新潟本社」を設立し、東京本社からメディア担当を集結させ、以降、新潟で放送される民放各社に複数のCMを復活させている。雑誌や広報誌、そして全国紙の新潟県版にも広告を出稿するなど原発マネーをバラまき、“メディア包囲網”を着々と築いている。
そして新潟知事選は、泉田氏の出馬撤回で森民夫長岡市長に一本化され、森氏が知事に当選すれば、ほどなく柏崎刈羽原発が再稼働されることになるだろう。原発ムラの巨大な闇の前に我々はなす術がないのだろうか。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.11.24 06:53
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