失言・炎上に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
NHK『クロ現』も「AV女優出演強要問題」を特集…新聞・テレビのAV叩きの裏で警察と厚労省の怪しい動き
『クローズアップ現代+』HPより
本サイトでも定期的にお伝えしている「AV出演強要問題」。「グラビアモデル」や「モデル」として芸能プロダクションと契約したはずの女性にAV出演を強要し、女性側がそれを断れば「違約金を払え」「親に請求書を送る」などと脅し、出演を余儀なくさせる悪質な手口が現在業界内で横行していると社会問題化しているわけだが、この件が遂にNHKでも取り上げられることになった。25日放送の『クローズアップ現代+』(NHK)では、「私はAV出演を強要された〜“普通の子”が狙われる〜」と題してこの問題を特集した。
番組では、実際に被害に遭った女性のインタビューから前述したような強要の経緯を紹介したうえ、さらに、かつてAVプロダクションを経営していたという男も登場した。彼は、スカウトした女性が契約内容をよく理解しないで契約書にサインさせるために、「アダルトビデオ」ではなく「成人向け」といった分かりにくい文言に書き換えたり、考える間を与えないよう30分以内にサインさせることを目標にしていたなどの手口を語った。
番組ではさらに、プロダクション側はそういった力に任せた強要以外にも、「洗脳」に近いやり方をすることもあると紹介。例えば、プロダクションが主催するクリスマスパーティーなどに出演を拒む女性を呼び、先輩の女優たちから説得をかけたり、「ひとり暮らしをした方がいい」と勧めて親や友人など相談できる人間関係をシャットアウトして孤立に追い込むなどのやり口が紹介された。
この放送を受けて、ネットでは、このような意見が一般視聴者から投稿されていた。
〈AV制作連中が反社会的勢力みたいなのばかりなんだから当然かも〉〈日本は、人権侵害大国だな〉〈変態クソ野郎にニーズがあるんだろうけど、これはひどい〉
確かに、『クローズアップ現代+』で伝えられたような出演強要は実際に行われていることであり、それにより大変な苦痛を受けた女優、元女優も相当数、存在している。当サイトでも折に触れてそのような事例を紹介しているし、今月も「週刊文春」(文藝春秋)が二号連続でAV女優・香西咲氏による出演強要の告発記事を載せていたが、これらは氷山の一角で、声をあげることができず苦しんでいる女性はまだまだたくさんいるだろう。それは間違いない。そして、この問題には一刻も早く業界全体で取り組み、改善を図るべきだ。
しかし、だとしても、今回の『クローズアップ現代+』の報じ方は、少し一方的過ぎるのではないだろうか。
周知のように、このAV強要問題については、強要を告発する証言の一方で、複数のAV女優たちから否定的な意見が寄せられていた。たとえば、人気AV女優の紗倉まなや天使もえ、元AV女優の蒼井そら、やはりAV女優出身で作家の川奈まり子らも一斉に「報告書は今のAV業界の現実とかけ離れている」「過去の話で、今はもう強制や騙しなんてほとんどない」と反発の声をあげた。
しかし、今回の『クローズアップ現代+』では、こうした声は一切取り上げられず、被害者の声や、悪質なプロダクションの存在だけがひたすらクローズアップされることになった。
もちろん、強要に否定的な女優のほとんどは、自ら進んでAVの世界に入った人気女優であり、業界の一番過酷な実態を知らない、という声もある。しかし、これだけ多くの声が寄せられている以上、VTRで悪質な業者による脅迫や洗脳の手口を紹介するだけでなく、やはりスタジオには強要に否定的なAV業界関係者も呼んで反論の機会を与える必要はあったのではないか。
だが、スタジオにいたのは、NHKの記者と、今年3月に「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書」を発表し、AV出演強要問題に火をつけた国際人権NGO団体ヒューマンライツ・ナウ事務局長で弁護士の伊藤和子氏、そして、セックスワーカーに関する問題に取り組み続けている一般社団法人ホワイトハンズ代表理事・坂爪真吾氏だけだった。
坂爪氏は一応、AV業界に理解を示す立場をとっていたが、ほとんど発言の時間が与えられず、放送終了数秒前にこのような言葉を残すのが精一杯だった。
「いま契約書を統一してですね、出演時に基準をつくってですね、強要が起こらないようにしようという動きは起こっています」
ここで坂爪氏が言おうとしていたのは、今月11日に、前述の川奈まり子氏が立ち上げた、プロダクションやメーカーも巻き込んだ出演者のための業界内部の団体「表現者ネットワーク(AVAN)」のこと。この団体では、業界で統一の契約書をつくり、騙して誓約書にサインさせるといった手口が使えないように働きかけていく予定だ。坂爪氏は、AV業界内部でもこういった動きで出演強要の問題を解決しようとしていると説明しようとしていたのだが、時間がまったくないなかでそのことを理解できた一般視聴者はおそらくほとんどいなかっただろう。
放送終了後、坂爪氏はツイッターに、悔恨と反省を込めて以下のように綴っていた。
〈統一契約書の話はギリギリねじ込めましたが、AV業界がVTRに出てくるような極悪人だらけの世界ではない、ということは時間が無くて話せず。業界関係者の皆様、申し訳ございません。。。〉
実際、スタジオでの討論は強要を告発、批判したVTRの内容を補強する意見がほとんどをしめ、伊藤弁護士の以下のような主張が一番説得力をもって語られた。
「これ、リベンジポルノよりもひどい人権侵害だと思うんですけど、規制する立法がないということで、なかなか取り締まり、刑事的な処罰というのも難しい状況なんですね。そういった面で私たちとしても、効果的な規制立法を新たにつくってほしいと訴えているところです」
たしかに、AV出演強要は早急に解決すべき問題だが、刑事的な処罰、規制立法が必要というのは短絡的すぎないだろうか。前述のように、今、AV業界は自主的にこの問題を解決すべく動き始めている、にもかかわらず、当局の法的規制を求めるのは、権力に新たな利権を与えるだけではないのか。
実際、このAV強要問題を、NHKはじめ新聞やテレビが取り上げ始めた裏には、警察や厚労省の存在があるのではないかともいわれている。
前述の通り、「AV出演強要」をめぐる議論が現在のように盛り上がり始めたのは、6月2日に内閣府が「AV出演強要についての実態把握に努める」という答弁書を閣議決定。その9日後に大手AVプロダクションであるマークスジャパンの元社長ら3人が労働者派遣法違反容疑で逮捕されたのがきっかけだった。
実はこの前後から、厚生労働省、警察がやたらマスコミにAV強要問題を取り組んでほしいという意向をPRしていたという。
「厚労省でもなんらかの規制が必要、対策を開始したいとのブリーフィングがあったようですし、警視庁の生活安全部の幹部は、AV出演強要を摘発していくと息巻いていました。その数日後に、マークスジャパンの摘発があったわけですが、警視庁はまだまだやると言っています。大手新聞やNHKまでこのAV出演強要問題を取り上げ始めたのは、その空気に敏感に反応しているからです」(全国紙社会部記者)
しかも、この問題にやたら熱心な厚労省と警視庁の姿勢の裏には、これを機に新たなAV業界の監督団体をつくって、自分たちの利権にしたいという意図があるのではないか、といわれている。実際、過去には、警察がメーカー90社以上が加盟していた審査機関最大手の日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)をつくらせ、そこを警察OBの天下り団体、たとえば事務局長のポジションを天下りポストにしてきた実態もある。
いずれにしても、これから先、マスコミ、政府、警察の三者が一体となったこの出演強要問題追及の動きはさらに激しくなるだろう。特に警視庁は複数のAV女優にアプローチして、出演強要を告発させるべく働きかけているというから、今後、次々とAVプロダクション関係者が逮捕されるという事態も起きるかもしれない。
そして、こうした警視庁や厚労省の裏の動きを見ていると、その摘発の過程で冤罪が起きる可能性も決して否定できない。実際、マークジャパンの事件では、同社の系列事務所に所属しAV女優にとどまらずさまざまなジャンルで活躍を見せている初美沙希が、この事件が冤罪であることをツイッターでほのめかしている。
だが、仮にこうした摘発が冤罪だったとしても、AV出演強要の問題は女性差別の問題も内包しているため、それを訴える声が世論に支持されることは難しい。結果的には、プロダクション側が泣き寝入りし、厚労省や警視庁の新たなAV業界利権化の動きだけが進んでいくことになりかねない。
改めて言うが、AV出演強要は明らかな女性の人権侵害だ。きちんとした実効性のある対策を早急に進めるべきだろう。しかし、同時に、こうした問題を利用して自らの利権を拡大しようという権力の邪な動きについても、注意深くチェックしていく必要がある。
(田中 教)
最終更新:2016.07.29 03:17
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