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生活保護を食い物“貧困ビジネス”が行政と癒着? 生活困窮者には申請拒否の一方で詐欺集団の受給申請はすぐ認可
『潜入 生活保護の闇現場』(ナックルズ選書)
アベノミクスの勇ましい掛け声の一方で、ますます悪化する格差と貧困。それに付随するように生活保護受給者を食い物にする貧困ビジネスも大きくクローズアップされるようになっている。弱者の弱みに付け入りそのわずかな生活保護費を搾取しようと蠢くという卑劣なイメージの貧困ビジネス。だがその実態は決して善悪では図れない魑魅魍魎の世界のようだ。
自らが“生活保護受給者“であり“搾取される側”として貧困ビジネスの実態を体験したライター・長田龍亮氏による『潜入 生活保護の闇現場』(ナックルズ選書)には、意外な貧困ビジネスの裏側、そして多くの矛盾が描かれている。
2013年、海外と日本を行き来する放浪生活をしていた33歳の働き盛りの長田氏は、「個室寮完備」「3食付」「日払い相談可」という好条件の土木作業員の募集広告を見つけ、さいたま市内に面接に出向いた。しかし連れて行かれたのは土木作業の事務所でもなんでもなく、数十人ほどが住む2階建てのプレハブの2畳ほどの個室だった。そして長田氏はここに住めば仕事はないが3食は保証する、だから生活保護を受けないかという摩訶不思議な打診をされる。
このプレハブこそ、貧困ビジネスを展開する宿泊所「ユニティー出発」の「東西堀荘」という寮だ。この思わぬ展開に長田氏はライターとしての興味もありそのまま住むことを決意するが、そこで貧困ビジネスの知られざる数々の実態を体験していく。まずは働けるのに働くなという厳命を受けたことだ。
「ユニティー出発の寮では就職活動をすることが禁止されているのだという。これはかなり重要な規則のようで、後日、ここを訪れた職員から『仕事を探すならここを出てもらう事になるよ』と念を押された」
その理由はもちろん貧困ビジネスが成り立つ仕組みにあった。入居者は毎月の生活保護費を全てユニティーに回収され、その中から施設利用料を徴収(ピンハネ)されるという形式だった。その上で渡されるのは毎日500円の“小遣い”だけ。その差額の10数万円がユニティーの収益となる。しかしそれは“割に合わない”ものだった。
「家賃と食事内容があきらかに徴収されている料金とは割に合わない。家賃4万円だが、2畳ほどのスペースしかなく、食費は4万円取られているがレトルト食品など粗末なものでしかない。その上光熱費と共益費を取られて計10万円が毎月徴収されている。これって高すぎでしょ?」
ユニティーでは多い時には400人ほどの入居者がいたというからかなりの収益だ。そのため仕事を見つけ生活保護から自立されるのはユニティーにとって大損害。もちろん80、90代という高齢者もいるが、30、40代の働き盛りの生活保護受給者も同様の扱いだったという。
「(粗末だが)3食昼寝と小遣い付きの生活を経験してしまうと、徐々に働く意欲は奪われる。もう何年もユニティーの寮で生活して、仕事を探す事もなく、来る日も来る日も小遣いをもらって無意味な1日を過ごしている人を見ると、ある種の病気のようにも見えてしまい、私はこのような人達のことを「ユニティー病」と名付けた」
しかしそれこそが貧困ビジネスの狙いだ。劣悪な環境とは思えるが部屋にはエアコンとテレビが完備され、食事も質素ながら3食保証される。そして「仕事を見つけるなら出て行け」といわれれば、そもそも経済的窮地に陥っていた入居者に抗する手だてはない。さらに、ユニティーでは長田氏のような“求人”を待つだけでなく“接触”的な勧誘さえしていた。
「『貧困ビジネス』と呼ばれる業者は、入居者から徴収する生活保護費は財源であるので、いかにして入居者を多く集めるかが商売のカギとなる。最も広く行われている人集めの手法は、ホームレスの勧誘だ。ホームレスが多く集まる公園へ出向いて声をかけたり、中には炊き出しを開催して集まってくるホームレスに『毎日これ食いたくないですか?』などという甘い言葉をかけることもある」
まさに貧困ビジネス業者による“人さらい”とでもいうべきものだが、それほどに貧困ビジネスは旨味があるということだろう。
だがこうした貧困ビジネス以上に問題なのは行政の対応だ。そもそも生活保護に関しては、本当に貧困に喘ぐ人たちにまで行政が難癖をつけて受給させない“水際作戦”を展開している。しかし30代で十分働ける状況にあった長田氏の申請はすんなり通ってしまった。ユニティーの和合秀典社長は事前に長田氏に対し「100%受かるよ」と太鼓判まで押していたというが、それに関し興味深いエピソードが記されている。
それはユニティーが貧困ビジネスをスタートさせた2000年の頃のことだった。
「その頃は、役所の対応が今とはまったく違い、戸田市市役所の福祉課へホームレスを連れて行っても、なかなか申請を受け付けてもらえなかったという。
そこで和合氏が打って出た手段は、同和問題を利用することだった」
なかなか生活保護の申請が受け付けられないことに業を煮やした社長の和合氏だが、暴力団関係者を通じてB連合という同和団体のN氏と知り合うことになったという。そして和合社長とN氏が共同で実行したのが行政機関への仰天の嫌がらせだった。
「新品の洋服・下着・くつ下を購入して、新宿歌舞伎町に向かい、1万円を渡して、ホームレスから洋服を交換した。
臭いが足りなかったので、大久保で、臭豆腐と言う腐敗した中国の食材とクサヤ・釣りえさのオキアミを入れて、腐敗させて戸田市福祉課向かった(略)効果はてき面、N氏の圧力と共に、その日、生活保護が認められるようになった」
貧困ビジネスを成功させるため同和団体を名乗る人物と一緒に嫌がらせを行い、行政に圧力をかけた和合社長。その作戦は大成功をおさめ、味をしめた和合社長はその後自ら同和団体の支部長を名乗り、名刺を作った上で何カ所もの役所に乗り込んだ。その名刺は役所では“印籠”のごとく効果的で、以降ユニティー入居者の生活保護申請は難なく通るようになったという。
こうした行政の対応やユニティーのピンハネについて疑問を持った長田氏は福祉課の担当者に直撃するも「私共に言われても困ります。問題があるなら警察に相談してください」「保護費を支給した後、それがどうなるのか、そこは私共の責任ではない」という逃げ腰の姿勢だったという。
長田氏はこれを「まさか、癒着があるのだろうか?」と記しているが、それだけではない。実はユニティーのような貧困ビジネスは行政にとっても渡りに船という事情があったからだ。
「ユニティーのような施設は、ケースワーカーの業務を簡略化させる一面がある。やはり、個別にアパートに住んでいるより、一つの施設でまとまってくれると業務が楽になるのだ。『ユニティーさんのおかげでうちの業務がかなり楽になってますよ!』とケースワーカーからお礼を言われたという職員もいるぐらいだ」
同和を利用した嫌がらせ、行政の事なかれ主義、そして業務簡略化という様々な面で、行政と貧困ビジネスに“癒着に似た共存関係”があると指摘される。当然、こうした行政の怠慢は貧困ビジネスに搾取される入居者を増加させるものだが、しかし“アパートに住み自立するより搾取されても寮にいたい”という入居者の切なる事情も存在する。
「アパートへ移ったら孤独になることは間違いないが、ここにいれば寮の中に仲の良い酒飲み仲間がいる(略)。もうひとつの利点として、ユニティーにいる高齢者や持病がある者は、寮で生活しれば、すぐ助けを求められることだ(略)。他に行き場もなければ身寄りもないので、致し方なく、ここを選んでいるに違いない」
長田氏はその後ユニティーを相手取った訴訟にも関わっていくが、政府の貧困への根本的無対応、行政の怠慢と狭間が生んだ貧困ビジネスという“必要悪”。そんな言葉さえ思い浮かんでしまうのが、現在の貧困問題の実像だ。様々な社会の矛盾が集約された貧困ビジネスの現場。安倍政権が打ち出す“国家総動員法”といわれる「1億総活躍」の影で、こうした人々は今後も打ち捨てられていくのだろうか。
(林グンマ)
最終更新:2016.07.19 05:30
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