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山口組分裂で大忙し! ヤクザ専門ライターが送る壮絶な日常とは? ひっきりなしの電話攻勢、家族旅行への同伴…
『ヤクザ専門ライター365日ビビりまくり日記』(ミリオン出版)
山口組分裂に端を発し一気に加熱した各メディアの報道は、騒動勃発から時が経ったいまもいっこうに収束する気配を見せない。最近も野球賭博にからみ山口組の総本部が家宅捜索されるなど、警察からの締め付けもまた、しばらくはおさまりそうにない情勢だ。
そんな世相を受け、「週刊実話」「週刊大衆」「アサヒ芸能」といった、これまで継続的に濃いヤクザ記事を掲載し続けてきたメディアのみならず、他の週刊誌やテレビ・新聞なども、かなり大きい扱いで山口組の動向を報道し続けている。こんなにも「ヤクザ」ネタがメディアを席巻したのは本当に久しぶりといってもいいのではないだろうか。
そんななか大活躍しているのが、ヤクザ人脈に独自の取材パイプをもったヤクザ専門ライターである。しかし、ここでふと頭をよぎるのは「ヤクザ専門ライターってどんな人たちなのか?」という疑問。取材対象者が取材対象者だけに、相当な気苦労があると想像するが、実情はどうなのか。前述の「週刊実話」や「アサヒ芸能」などにも執筆しているライター・鈴木智彦氏が最近出版した『ヤクザ専門ライター365日ビビりまくり日記』(ミリオン出版)には、気になる彼らの生態が描かれているので、読みながらご紹介していきたい。
ヤクザを取材対象として付き合っていくうえで、「つらい」ことのひとつは、「ヤクザからひっきりなしに電話がかかってくる」ということだという。たとえば、大晦日にはこんな毎年の恒例行事があるようだ。
〈『ゆく年くる年』を観ながら缶ビールを空けた。ぼちぼちヤクザから電話がかかってくる。業界の掟というわけではないが、けっこうな数の組員が、年明けてすぐ、親分や兄貴分に電話で『明けましておめでとうございます』と挨拶するのだ。ついでに親しい友人にも電話をし、気が向くと私もそこに含まれる。
親愛の情だからありがたい。単に年始の挨拶なら問題ない。が、運が悪いと朝方まで組織の愚痴や人生論に付き合わされる。ネタになると思って我慢していても、時間が時間だけにあくびが出る。すんなり眠れるか、徹夜になるか、私にとってのおみくじだ〉
ヤクザからの電話は大切なネタの情報源。どんな時でも出ないわけにはいかない。鈴木氏はヤクザからの電話だけを特別な着信音にするなどの工夫もしているらしい。だから、時にはこんな代償を払うことにもなるそうなのだ。
〈車に乗っていたら電話が鳴った。(中略)去年免停になったが、そのほとんどが走行中の携帯電話が原因だ。もちろん相手はすべてヤクザである〉
免停のリスクを負ってまで出るヤクザからの電話。しかし、その全てがネタになるようなものとは限らない。ある日の日記にはこんな言葉まで綴っている。
〈今月はめっきりヤクザからの電話がなかった。たぶん10回以下だ。嫌な気分にならずにすんだ1ヵ月。こんなめでたいことはない〉
鈴木氏がここまで言うのには理由がある。それは、ヤクザからの電話には、以下のような電話も含まれているからだ。
〈渋滞にはまったところで、また電話だ。登録されていない番号だ。嫌な予感はあるが出るしかない。相手は4年以上前に音信不通になったヤクザだった。また金の無心だ。
「前にあれだけ協力したんだ。交通費だってかかってる。経費を出せよ。てめぇ殺すぞ!」
私は例年、「殺す」と言われるたび、カレンダーに印を付ける。今年はようやく2つである〉
ヤクザに「殺す」と言われてもこれだけの余裕を保てることに驚愕するばかりだが、人並外れた精神的タフさがなければヤクザ専門ライターは務まらないということなのだろう。
というわけで、ヤクザからの電話に関する気苦労は絶えないわけだが、ヤクザ界には電話に関するこんな暗黙のルールもあるらしい。
〈電話がしつこく鳴る。1分以上鳴らし続けるのでマナーモードのバイブでもうるさい。俺に電話してくるのは女かヤクザか編集者だけだ。こんなバカは確実に編集者だ。
ヤクザは長くコールしない。いつも携帯に気を配っているのが当たり前という前提なので、数回呼んで出ない場合は、相手が出られない状況だと判断する〉
電話もそうだが、メシの種であるヤクザとの「付き合い」も決してないがしろにはできない。だから、時にはこういった接待に駆り出されることも……。
〈朝5時、携帯がけたたましく鳴った。寝入りばなで熟睡してなかったので、ついつい電話を取った。
「夏休みやな。案内してくれるか? 東京観光や。あんたがガイドしてくれ」
一方的にまくしたて、親分は電話を切った。もう10年以上付き合っており、この人の頼みならどちらにしても断れなかったはずだが……。
翌日、東京駅で待ち合わせ、車に乗り込む。東京の企業舎弟たちが運転手で、親分と幹部3人、その家族で総勢17人での東京観光である。
まずは二重橋を見学に行った。関西弁丸出し、おまけに「親分」「若頭」など、会話がヤクザ丸出しだ。おまけにかなり声がでかい。非常にやかましい。歩いているだけで通行人が振り返る。疲れまくる。(中略)
へとへとに疲れ、ようやくホテルに送った。地下鉄に向かって歩いていたら、親分から電話だった。
「みんな喜んでたわ。あんたのおかげでええ家族サービスができた。ありがとうな」
涙が出そうになった。これだからヤクザは嫌いだ〉
ちょっと良い話にホロリとしてしまうが、このように「ヤクザ」であることをおおっぴらに外にアピールすることは年を経るごとにどんどん世の中が許さなくなってきている。暴排条例や暴対法により、ヤクザを取り巻く社会状況はすさまじいスピードで激変しているのだ。それは生活のなかのこんな些細なひとコマにも表れる。
〈この日はヤクザの正月で、事始式という儀式が行われる。主に西日本の組織が行い、親分を前にして挨拶を済ませ、簡単な宴会が行われる。暴排条例が施行される前は、ホテルや料亭で行われていた。温泉旅館を貸し切り、若いお色気コンパニオンを揃えた組もあった。
が、いまは店を貸した側が違法になる。そのため自己保有のビルや本部しか使えない。かつての正月ムードもほとんどない。とある組織に出向いたが、「式が始まったら出て行ってくれ」と素っ気ない。
隣の和室でだらけていたら、若い衆が弁当を持って来てくれた。この弁当さえ、売った側がばれると警察にイヤキチ(意地悪)されるので、はっきりは写真に撮れない。時代は変わった。ヤクザはあと何年生き残れるだろうか……〉
また、いまのヤクザは名刺の発注も普通の印刷屋には頼めない。
〈いまのヤクザは代紋を付けると暴対法でパクられる。組織や代紋入りの名刺を作れば、印刷屋が暴排条例でアウトだ〉
このようにヤクザを取り巻く環境は激変しているわけだが、鈴木氏はそれとはまた別に、ヤクザを扱うメディアの態度が変わってしまったことも嘆く。
〈俺の暴力団取材も、ぼちぼちこれまでのスタイルを変えなければならない。いまの実話誌は、完全に暴力団の支配下に置かれてしまったからだ。御用記者に徹する限り、義理場の表層的な取材は出来ても、その見返りが求められる。たとえば警察に直参が逮捕され、新聞で報道されていながら、それすら報道する自由さえ失われる。昔からヤクザにとって都合のいい部分だけ記事に書き、その反対の記事を避ける傾向は強かったが、もはや完全な広報誌になってしまった感がある。この村にいる限り、言い方を変えれば暴力団の言いなりになっている限り、もはや一種の企業舎弟と判断して差し支えない〉
さらに、鈴木氏はこんな驚きの事実まで暴露する。
〈週刊誌でヤクザ記事を載せている週刊大衆、アサヒ芸能、週刊実話なんかは、山口組に記者の自宅住所まで提出し、つまり山口組の不利益になることは書きませんと宣言して、年末の餅つき等に入れてもらってる〉
先ほど、旧知のヤクザから「てめぇ殺すぞ!」と凄まれたエピソードをご紹介したが、それはハッタリでも何でもない。ヤクザ専門ライターは時には命の危険さえ伴いかねないことを覚悟しながら取材を続けているのだ。
〈自身、御用記者から抜け出したいとあがいてきたことは事実だが、今以上にそうしたいと願うなら、よほど腹を据えなければならぬ。暴力団のすべてから取材拒否をされるかもしれないし、恫喝はいま以上に厳しくなるだろう。極端に言えば、暴力が行使される覚悟もいる。問題は家族だ。暴力団が家族を襲撃しない、などというのは完全な幻想である〉
鈴木氏はなぜそこまでしてヤクザを相手に仕事をするのだろうか。最後にその核心を語った文章を引いて本稿を閉じたい。
〈美辞麗句で飾っても、ヤクザ記事が堅いコンテンツとして存在しているのは、生の殺し合いを安全地帯から観覧して喜ぶ人間の醜悪さに根ざしている。俺はその実況・解説者の1人で、それで飯を食っているのだからまともではない。事実、伝えたいより、観たいが強い。なるべく近くで。細部まで。
これだけは確実にいえる。地獄に堕ちるのは、間違いなく俺だ〉
(井川健二)
最終更新:2016.08.05 06:24
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