アイドルが政権批判して何が悪い? 「制服向上委員会」にまで圧力かける自民党の異常性

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橋本美香『脱がない、媚びない、NOと言えるアイドル~制服向上委員会の生き残り戦略』(ヤマハミュージックメディア)

 自民党の傍若無人ぶりが止まらない。神奈川県大和市の市民団体「憲法九条やまとの会」が主催するイベントで、アイドルグループの制服向上委員会が「諸悪の根源、自民党」「自民党を倒しましょう」といった自民党批判の歌詞の曲を歌ったことにより、自民党所属の大和市議が「自分たちの党を非難する活動を後援するのか」「これは政治運動、倒閣運動、反政府運動」「名誉毀損」だと抗議。これによりイベントを後援した大和市と市の教育委員会が後援を取り消した件だ。

 憲法22条では「集会・結社の自由」が保障されており、21条「表現の自由」もある。しかも、制服向上委員会は政治結社や宗教団体として活動を行っているわけではなく、ただ政治権力に対して批判的な歌を歌っただけ。イベントにしても9条を守ることを訴えたもので、現行憲法を守るという公務員の遵守義務を主張した行動だ。それを“特定の政党、宗教、政治団体の活動に関係する”という理由で拒否することは、到底認められるものではない。同じように東京都調布市や千葉県白井市、長野県千曲市、鳥取県鳥取市、栃木県佐野市などでも地方自治体が護憲イベントの後援を拒否する事態が増えているが、こうした動きの背景に安倍政権の空気づくりがあるのは明白だ。

 というのも、昨日、安倍首相シンパの若手自民党議員たちが立ち上げた「文化芸術懇話会」では、出席した議員が「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働きかけてほしい」などと発言し、大きな波紋を広げているが、この制服向上委員会の問題も根底にあるものは同じ。“政権批判を行うものはなんでも弾圧する”という姿勢だ。これは戦前・戦中の言論弾圧のようなものではないか。

 だいたい、制服向上委員会は自民党批判だけを行っているのではない。民主党政権時には、「野田はダメ 枝野ダメ 平野ダメ 岡田もダメ」「何やってんのダメおじさん民主党No Good」という歌詞の、「悪魔NOだっ!民主党」なる楽曲も歌っていた。当然、このとき民主党から抗議など来ていないが、どれだけ自民党は度量が狭いのか、という話だ。

 しかし、もっと恐ろしいのは、今回の問題で制服向上委員会のもとに「こいつら全員ぶっ潰す」「分不相応な方言は滑稽を通り越して殺意を生むことを知れ」(TBS『NEWS23』より)などと“脅迫メール”までもが殺到していること。また、ネット上でも、「女子供を利用するのは左巻きお得意の手口」「制服向上委員会の少女たちは大人に利用されているだけ」という批判も起こっている。

 だが、彼女たちは単なる大人の操り人形ではない。舞台の上の彼女らも、いまの社会や政治に対して真剣な思いをもっている。たとえば、メンバーである齋藤乃愛は、25日のブログでこう綴っている。

「子供だから意見を言っちゃいけないなんて法律はないですよね。未成年でも言いたい事や感じた事、気になった事は沢山あります。嫌な事は嫌と子供も大人も関係なくはっきりと言える環境がもっと増えてほしいです。
決して悪い事をする訳じゃないんだから。大声で訴えるべきだと私は思います」

 さらに、同じくメンバーの齋藤優里彩は、23日、沖縄慰霊の日にこんなブログを書いている。

「戦争を経験してない者だとしても 武力は人に憎しみ、恨みを生み また武力に繋がり…それが繰り返されるだけの戦争は 絶対に良くないことは分かる。だから風化させない事 同じ過ちが繰り返されない為行動するのが 残された者のせめてもの使命だと感じます。
 それに対し危機感を持たなければと、強く思う今。
 国会で毎日交わされる安全保障法制という名の「戦争法案」の激論」

 群雄割拠のアイドル戦国時代のなか、彼女らの特長は、今回の騒動でも分かる通り、アイドルでありながら“社会”について考え、そして、“反体制”の姿勢を貫いている点。しかも、そのアティテュードはブログの文面を読めばわかるように本物だ。結成当初から社会貢献活動に積極的に参加しており、“歴史好きアイドル”や“鉄道オタクアイドル”など、とりあえずなにか特徴的な“○○アイドル”の冠をつけておけば業界内で差別化できるといった甘い考えでのものではない。

 そもそも、制服向上委員会というアイドルグループは1992年に結成された。活動が一躍注目を浴び始めたのは、2011年。「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」なる楽曲を発表したことがきっかけだ。モータウン風のポップでキャッチ―なメロディーに、「忘れないから原発推進派/安全だったらあなたが住めばいい/みんなに迷惑かけちゃって/未熟な大人ではずかしいよネ」という強烈な歌詞が乗るこの楽曲は、それ以降、原発反対を訴える集会のアンセムのひとつとなった。もちろん、ただそのような曲のCDを発売しただけでなく、制服向上委員会も原発再稼働反対のデモに参加している。

 しかも、「さようなら世界夫人よ」「赤軍兵士の歌」「コミック雑誌なんか要らない」など政治的な楽曲が問題となり、アルバムが発売中止となる大騒動を巻き起こした70年代のロックバンド・頭脳警察のPANTAは、同じ所属事務所の先輩として彼女たちに楽曲提供や歌唱指導を行っている。こういったスタッフが脇を固めていることを見ても、お遊びや話題づくりでプロテストソングをつくっているわけではないということの証左である。

 ただ、そのために“彼女たちは大人に利用されている”“大人に洗脳されている”という声があがる理由にもなっている。もちろん、そうした側面もあるのかもしれない。だが、それはおかしいというのなら、秋元康総合プロデュースのAKB48はどうなるのか。ASEAN特別首脳会議の晩餐会で踊ったり、主力メンバー・島崎遥香を自衛隊のオフィシャルマガジン「MAMOR」(扶桑社)の表紙に飾ったりと、秋元もアイドルを政治利用しているではないか。それにくらべれば、メンバー自身も“おかしなことには声を発する”という自覚をもった制服向上委員会のほうが、よほど健全であるように思える。

 そんな彼女たちのささやかな行動にさえ、「反政府運動だ」と締め付けを行う自民党。この異常事態を見ると、どうやら日本はもうすでに戦前の言論統制下に入っているようだ。
(大方草)

最終更新:2015.06.27 12:53

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