NMBセンターに抜擢!須藤凛々花の「哲学愛」は本物なのか? 哲学研究者が検証

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 しがない哲学好きの物書きで、別にアイドルとかAKBとか興味ないんですけど、なんで私にそれを聞く?と思ったら、どうもこの人、別の意味でも大型新人であるらしい。なんでもドラフト会議のアピールタイムでは、「偏差値67」という司会者の言葉につづいて、「夢は哲学者とアイドル」とアナウンスされ、会場全体がどよめきに包まれたというのだ。それはどよめくだろう。意味がわからなくて。

 でも、そういうことか。「夢は哲学者」と聞いて、俄然、彼女に興味がわいてきたではないか。さっそくNMB公式ブログに投稿された彼女(以後ストーと呼ぶ。なんか古代ローマの哲学者みたいだ)の自己紹介を覗いてみると……あった。いま追いかけている哲学者として、ジョン・スチュアート・ミル(通称ミルルン師匠)の名が挙げられている。そしてカール・ヤスパースも「ヤスパースさんかっけー」と称えられている。なぜこのふたりなのかについては情報が不足していてよくわからない。とはいえ、わからないなりに考えてみよう。

 まず、J・S・ミルもヤスパースも、まったく流行りとはいえない(だが、きわめて重要な)哲学者という点で共通している。これは、本当に哲学が好きなのだろうと思わせる人選であり、たいへん好感がもてる。これが第一印象だ。

 J・S・ミルは19世紀イギリスの哲学者である。さまざまな分野で業績を残した巨人だが、とくにその政治哲学は後世に大きな影響を与えた。でもそんな説明ではピンとこないだろうから、次のことを考えてみよう。あなたは雑誌を読んだり物を食ったり人とつるんだりする。そんなあなたの自由は、それが他人に危害を加えるものでないかぎり、原則として守られなければならない。競馬でオケラになる愚行の自由すら守られなければならない、と。当たり前だ、そうでなきゃ困るじゃないかと思うかもしれないが、このような考えが当たり前のものになったのは、彼のおかげなのである。彼はこの考え(「危害原理」と呼ばれる)を、人類史上はじめて定式化して世に問うた。いま私たちがある程度の自由を享受できているのは、ミルルン師匠と後継者たちの努力の結果なのだ(そして、そうした自由のない国や地域もあるし、かつてこの国もそうだったし、いまでもそれが脅かされることがあると思い起こすことも、また大事なことだ)。

 さて、ストーはドラフト会議で、“いまの歴史は昔の人の考え方が積み重なってできている。昔の人の思想を勉強して新しい世代へ”云々と述べたという。いま紹介したミルルン師匠の仕事を考え合わせると、彼女の言葉がよりいっそう胸に迫ってくるのではないだろうか。過去の偉大な哲学者は、たとえミルルン師匠のように現在の流行とは無縁の存在になったとしても、私たち現代人の生活や文化にしっかりと息づいている。それを改良し次代へと引き継いでいくのは、私たちがすべき重要な仕事のひとつだ。ミルルンを師匠と仰ぐストーの志は、この点で見事に一貫しているのである。

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