“新解”さん『新明解国語辞典』に隠された秘密のメッセージが泣ける

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 さらに、同じく四版の<時点>の語釈は、こうある。

「一月九日の時点では、その事実は判明していなかった」

 具体的すぎる「1月9日」という日付。そう、山田氏が見坊氏との関係に亀裂が入った、あの打ち上げの日だ。73歳となっていた山田氏に、どんな気持ちの変化があったのか……。しかも、一方の見坊氏も、平成4(1992)年、77歳で改訂した『三国』四版に、新たにこんなことばを加えている。
 
「ブルーフィルム 性行為を写したわいせつな映画」

 豊富な用例採集に裏付けされた「“今”を写し取る『現代語辞典』」をつくりつづけた見坊氏が、なぜ平成の時代に、すでに廃れたブルーフィルムなどということばを取り上げたのか。その事実を突き止めた著者は、最晩年を迎えた見坊氏が「きっと、四人の編者が顔をつき合わせ、ことばについて熱く議論していたあの頃を思い出していたのだろう」と綴っている。そして、『新明解』には、頑なに鑑賞会に参加しなかった山田氏の手によって、初版から「ブルーフィルム」ということばが掲載されていたことも、見坊氏は知っていたのだろう、と。

 無味乾燥だと思いがちな辞書のなかに、隠された友情。この物語の行く末は、ぜひ本書で確かめてほしい。アプローチの仕方は違えども、社会からことばを拾い、解釈し、表現し伝える2人の仕事から、間違いなく辞書への印象はがらりと変わるはずだ。
(田岡 尼)

最終更新:2015.01.19 04:50

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

辞書になった男 ケンボー先生と山田先生

新着芸能・エンタメスキャンダルビジネス社会カルチャーくらし

“新解”さん『新明解国語辞典』に隠された秘密のメッセージが泣けるのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。ノンフィクション文学田岡 尼の記事ならリテラへ。

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄