村上春樹はノーベル文学賞にふさわしいのか? 地域差別問題も論議に

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 まず斎藤は、町が圧力をかけたわけでもなく、中頓別町の人口はわずか1900人で、春樹には町民の何百倍もの読者がいるという力関係を考えれば、「町名を出されたくらいでつべこべ言うな」などと抗議の声を封じ込めるべきではないとする一方、春樹氏側も地名を変更せず別の対応でもよかったのではないか、とも主張している。

 しかし、春樹氏側は「『しまった』『痛いところをつかれた』と感じたからこそ、彼は町名の変更を選んだのではないか。」と推察する。

 一体どういうことなのだろうか。「ドライブ・マイ・カー」の物語を見てみよう。

 物語の主人公である50代後半の俳優・家福。その専属運転手として雇われる渡利みさきという女性が、中頓別町出身という設定だった。

 先の煙草のポイ捨ての記述以外にも、宮崎町議が疑問を呈している中頓別町に関する記述がある。運転が非常に上手いみさきは「運転はどこで身につけたのか」と家福に問われ、こんなふうに答えている。

〈北海道の山の中で育ちました。十代の初めから車を運転しています。車がなければ生活できないようなところです。一年の半分近く道路は凍結しています。運転の腕はいやでも良くなります〉

 この記述についても宮崎町議は「車がなくても生活できますし、私は自分の運転が上手いと思ったことは一度もありません。半年近くも道路が凍結するところが日本にあるのか疑問です」と異議をとなえている。

 この異議について斎藤は「このへんはまあ、揚げ足取りに近いかもしれない」が「無視もできない」として、なぜ中頓別町の人たちがこれらの表現を「屈辱的」と感じたか、という点を考察していく。

 では、中頓別町出身という設定のみさきはどのように描かれているか。

 妻を寝取られた主人公の卑俗な感情を受け止める存在として、みさきは「〈北海道のどのへんにあるのか、家福には検討もつかない〉遠い北国の出身」というのが重要な要素であり、「彼が住む世界とは思いっきり遠い世界の住人、極端にいえば異星人」でなければならなかった。

「みさきが放つワイルドな雰囲気は『異世界の人』『異能の人』のイメージに合致するし、『北海道の山の中』『十代の初めから車を運転』『車がなければ生活できない』『一年の半分近く道路は凍結』などの表現もワイルドな北の大地を特徴づける」

 問題の煙草のくだりについても、「たぶん中頓別町(のようなルールに縛られないワイルドな北の大地)ではみんなが普通にやっていることなのだろう」という意味ではなかったか、と。

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