地方創生フェイクだけじゃない! 安倍首相が施政方針演説で東京五輪聖火最終ランナーの原爆との関わりや平和への思いを無視し改憲扇動に利用

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首相官邸HPより


 昨日の施政方針演説でとんでもないフェイクを垂れ流したことが判明した安倍首相。地方創生の「成功例」として島根県に移住した男性の実名を自慢げにあげたものの、すでにその男性は島根での仕事を辞めて、転出していたのだ。本日夕方には、北村誠吾地方創生相も〈安倍首相が20日の施政方針演説で東京から島根県江津市に移住したと紹介した男性が、昨年末の段階で同市から転居していた〉(読売新聞)ことを会見で認めた。

 この件は本サイトでも記事(https://lite-ra.com/2020/01/post-5217.html)にしているので、詳細はそちらをご一読いただきたいが、「桜を見る会」問題ではあれだけ「個人情報」を理由に説明を拒否し続けたにもかかわらず、自分に都合のよいところは一般人の実名をあげて、しかもフェイク。あらためて、一国の首相としてありえないとしか言いようがない。

 だが、昨日の施政方針演説で個人の名前を歪曲利用したのは、この移住男性のケースだけではなかった。

 安倍首相は今回の施政方針演説で、「桜を見る会」問題もカジノ疑獄も任命大臣のスキャンダルについても一言も口にせず、「東京五輪で一丸となれ」のフレーズでごまかし、戦争政策から終わりの見えぬ被災地復興、果ては改憲までを東京五輪に結びつけた。

 このことについては、すでに「五輪の政治利用だ」「オリンピック憲章違反だ」と激しい批判の声があがっているが、しかし、この安倍首相の「五輪政治利用」がさらに許せないのは、1964年東京大会の聖火リレーで最終走者を務めた坂井義則さんの名前を持ち出したことだ。

 安倍首相はこう切り出した。

「五輪史上初の衛星生中継。世界が見守る中、聖火を手に国立競技場に入ってきたのは、最終ランナーの坂井義則さんでした。8月6日広島生まれ。19歳となった若者の堂々たる走りは、我が国が戦後の焼け野原から復興を成し遂げ、自信と誇りを持って高度成長の新しい時代へと踏み出していく。そのことを、世界に力強く発信するものでありました」

 そしてこう続けた。
「『日本オリンピック』。坂井さんがこう表現した64年大会は、まさに、国民が一丸となって成し遂げました。未来への躍動感あふれる日本の姿に、世界の目は釘付けとなった。半世紀ぶりに、あの感動が、再び、我が国にやってきます。本年のオリンピック・パラリンピックもまた、日本全体が力を合わせて世界中に感動を与える最高の大会とする。そして、そこから国民一丸となって、新しい時代へと、皆さん、共に踏み出していこうではありませんか」

 安倍首相は「国民一丸」のアイコンとして、1964年東京大会の聖火リレーで最終走者を務めた坂井義則さんの名前を持ち出したのだが、しかし、坂井さんをめぐる一番肝心なことに一切触れなかった。

 昨年のNHK大河ドラマ『いだてん』でもクローズアップされたが、坂井さんは1945年8月6日、アメリカが広島に原爆を落とした数時間後に広島県三次市で生まれた。聖火ランナーに選ばれたのもその原爆と深い関係があった。

 あらためて、当時の新聞記事や坂井さんのインタビューを読んでみる。国内メディアは選出された坂井さんに「原爆っ子」と見出しをつけ、海外メディアは「アトミック・ボーイ」と呼んでいた。後年になって坂井さんはメディアに、「本当に俺に資格があるのか」と悩んだ末「一億総国民が団結しているのに、一人だけそっぽを向けない。役に立てるのならば頑張らなければ」との思いで決意したと語っている。

安倍首相が触れなかった聖火リレー最終ランナー坂井義則さんの平和への思い

 父親は被曝手帳を持っているが、爆心地から離れた三次で育った坂井さんは直接の被爆者ではない。短距離で日本陸上競技連盟の五輪強化選手だったものの、代表選考では落選。世界的には「無名のランナー」が聖火リレー最終走者に選ばれたのは、表向き「フォームが綺麗だったから」。しかし、実際には誕生日が目に留まり、「日本の戦後復興と平和の象徴」とすべく白羽の矢を立てられたらしい。選出にあたっては大会組織委のなかで米国をおもんぱかる声もあがったが、『いだてん』で阿部サダヲが演じた招致の中心人物・田畑政治氏はこう記している。

「米国もソ連も中国も、原爆はやめてもらわなければならない。それを口にしないものは、世界平和に背を向けるひきょう者だ」

「選ばれたときは複雑な気持ちだった」という坂井さんだが、聖火ランナーの大役を務めて、五輪本来の理念である平和を真剣に考えた。閉会式では、各国の選手が肩を組み笑顔で歩く姿を見て「それこそが平和じゃないか」と感じたという。しかし同時に、厳しすぎる現実にも直面した。大学卒業後、坂井さんはフジテレビに入社し、記者やディレクターとして五輪に関わった。パレスチナゲリラがイスラエル選手団を殺害するという選手村襲撃事件の起きた1972年ミュンヘン大会、爆弾テロ事件で100人以上が死傷した1996年アトランタ大会も現地で取材した。坂井さんは複数のマスコミに、当時を振り返ってこう語っている。

「平和の祭典などという美しい言葉は捨てた方がいい。五輪はアマチュアの祭典でも平和の祭典でもなくなった。金もうけのための祭典じゃないか」
「アマチュアリズムの理念に立っていた五輪そのものもプロ参入による商業主義が幅を利かせ、金もうけの道具になっています」
「お金や政治に振り回される負の面も見た。純粋な平和の祭典は東京が最後だったかもしれない」

 それでも、2020年東京五輪を待ち望んだ。政治や金ではない「平和の祭典」として、「もう一度、五輪の原点に立ち返らなければいけない」「世界の現実は厳しい。だからこそ、本当の平和とは何かということを、日本から改めて発信してもらいたい」という思いからだ。坂井さんは「今度は3人の孫と一緒に」と願いながら、2014年に亡くなった。

「平和の象徴」として聖火リレー最終走者に選ばれ、現実と向き合いながら、「本来の五輪」と平和を訴えてきた坂井さん。だが、安倍首相はそんな坂井さんの名前を出しておきながら、「8月6日」生まれと触れただけで、「原爆」や「核兵器」という言葉も一切使わず、酒井さんの「平和」への思いについても一切無視した。

坂井義則さんの平和への思いを一切無視し、東京五輪を改憲扇動に利用した安倍首相

 2017年、安倍政権は「唯一の戦争被爆国」であるにもかかわらず、国連が採択した核兵器禁止条約の署名を拒否した。明らかに米国の顔色を伺った追従だと考えられるが、安倍首相は施政方針演説でも米国を忖度したのだろう。

 しかも、安倍首相は原爆のことを無視しただけではない。坂井さんの思いとは真逆に、「国民一丸」のお題目で、五輪を政権の政策や改憲扇動に政治利用したのだ。

「オリンピック・パラリンピックが開催される本年、我が国は、積極的平和主義の旗の下、戦後外交を総決算し、新しい時代の日本外交を確立する。その正念場となる一年であります」
「社会保障をはじめ、国のかたちに関わる大改革を進めていく。令和の新しい時代が始まり、オリンピック・パラリンピックを控え、未来への躍動感にあふれた今こそ、実行の時です。先送りでは、次の世代への責任を果たすことはできません。国のかたちを語るもの。それは憲法です。未来に向かってどのような国を目指すのか。その案を示すのは、私たち国会議員の責任ではないでしょうか。新たな時代を迎えた今こそ、未来を見つめ、歴史的な使命を果たすため、憲法審査会の場で、共に、その責任を果たしていこうではありませんか」(施政方針演説)

 東京オリンピック・パラリンピックと改憲に、いったいなんの関係があるのだろう。共同通信が今月11、12日に実施した世論調査によれば、安倍首相の下での憲法改正に「反対」(52.2%)が「賛成」(35.9%)を大きく上回っている。安倍首相は「憲法審査会を開いて責任を果たす」と言うが、その前に、国民が求める疑惑への「説明責任」を果たすのが筋ではないか。

 しかし、施政方針演説をみてもわかるように、安倍首相には、自分に都合の悪い国民の声に耳を傾けようという気は一切ない。政権の正当化と身勝手な欲望を、五輪の政治利用によってゴリ押しすることしか頭にないのだ。

 繰り返すが、いまこの国では、あらゆる政権の不祥事や問題が消し飛ばされ、いやがおうにも首を縦にふらねばならないよう誘導されかけている。「国民一丸」なるスローガンのもと、不都合なことは隠され、事実は捻じ曲げられる。このままでは、東京五輪は「平和の祭典」どころか、「安倍首相のための祭典」になってしまうだろう。

最終更新:2020.02.04 12:21

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