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安倍首相が施政方針演説でフェイク! 地方創生支援策の成功例として実名を出した移住男性が既に仕事を辞め転居していた
首相官邸HPより
昨日おこなった施政方針演説で、やたら「夢」だの「希望」だのといったフレーズを連発し、ことごとくオリンピックの話題を政策とつなげた安倍首相。これには当然ながら「東京五輪の政治利用だ」という声があがっているが、よりにもよって施政方針演説で中身がスカスカの政策を五輪の話題でごまかすなどというのは、安倍政権の無能っぷりを象徴するかのようだ。
この五輪の政治利用にかんしては別稿でお伝えするのでそれをお待ちいただきたいが、じつは昨日の施政方針演説をめぐって、信じられないような事実があきらかになった。
安倍首相は施政方針演説のなかで地方創生について言及し、ある男性の実名を出しながら、Iターンの事例を紹介した。だが、それがフェイクまがいだったというのだ。
いったい安倍首相は何と語っていたのか。まずは該当部分のスピーチを引用しよう。
「東京から鉄道で7時間。島根県江津市は『東京から一番遠い町』とも呼ばれています。20年以上、転出超過がつづき、人口の1割に当たる2800人が減少した町です。
しかし、若者の起業を積極的に促した結果、ついに一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました。
◯◯◯◯さんはパクチー栽培をおこなうため、東京から移住してきました。農地を借りる交渉をおこなったのは、市役所です。地方創生交付金を活用し、起業資金の支援を受けました。農業のやり方は地元の農家、販路開拓は地元の企業が手助けしてくれたそうです。
『地域みんなで、手伝ってくれました』
地域ぐるみで若者のチャレンジを後押しする環境が、◯◯さんの移住の決め手となりました。
『地方にこそ、チャンスがある』。そう考え、地方に飛び込む若者を、力強く応援してまいります」(注:伏せ字の部分は演説では実名)
普通に演説を聞けば、この移住した男性の話は現在進行形のように思える。だが、中国新聞デジタルが昨晩、こう銘打って記事を配信したのだ。
「安倍首相の施政方針演説の起業支援で紹介の男性、既に島根県江津市から転居していた」
この記事によると、中国新聞の取材ではこの男性は〈昨年末に県外へ転居〉しており、さらに〈昨年末にこの会社を辞め、既に江津を離れていた。個人的な事情という〉と伝えているのだ。
言っておくが、施政方針演説というのは政府のこれからの1年の基本方針を示すためにおこなわれる重要なものだ。そして安倍首相は、この男性のエピソードを地方創生の企業支援政策の“成功例”として紹介した。それが〈個人的な事情〉とはいえ、すでに会社を辞めて土地も離れていたのだ。この男性個人の選択や理由はどうあれ、地方支援の政策の成功例として持ち出すのは、どう考えても不適切だろう。しかも、男性が辞めたことに一切触れないで、『地方にこそ、チャンスがある』などといった政策宣伝につなげるのは、フェイクとしか言いようがない。
それにしても、安倍首相はなぜこの男性の話を実名で持ち出したのか。中国新聞の記事では、市は〈首相が演説で示した市の人口増減のデータなどに関する国からの問い合わせには昨年末に回答していた〉というが、〈男性のことが演説に盛り込まれているとは知らなかった〉という。
施政方針演説というメディアも大々的に伝えるスピーチだというのに、安倍官邸は事実関係を調べていなかったのだろうか。演説では引用したとおり、安倍首相は実名を挙げただけではなく、男性の「地域みんなで、手伝ってくれました」というコメントまで紹介していた。しかし、もし、実名を挙げた男性に安倍官邸側が直接取材したのなら、普通は退社や県外に移った事実を知らされるはずで、こんな紹介の仕方にはなっていないだろう。
ということは、コンタクトはとっており事実関係も知らされていたが、それを無視してスピーチに使用したか、あるいは安倍官邸側は男性に取材もせず、過去にメディアで取り上げられた二次情報をもとにスピーチをつくった。そういうことではないか。
当たり前だが、どんなかたちであれ、この男性には何の非もない。しかし、もし安倍官邸側が事実を知りながら無視したり、そもそも取材もしていないとなれば、これは大問題だ。
プライバシーを盾に「桜を見る会」招待者公表を拒否しながら、演説で一般人の実名
こんなありえないことが起きてしまうのが、安倍政権の怖さなのだ。実際、安倍首相には、スピーチや国会答弁で虚偽・フェイクまがいの話を喧伝してきた“前科”がある。
たとえば、安倍首相が9条に自衛隊明記する改憲の理由としてしきりに持ち出していた、「自衛官が息子に『お父さんは違憲なの?』と目に涙を浮かべながら言われた」というエピソードがそうだ。安倍首相はことあるごとにこのエピソードを取り上げ、「自衛隊の幹部から聞いた」「ある自衛官から聞いた」と語ってきた。
しかし、国会で小中学校と自衛隊駐屯地のそばで育ったという立憲民主党の本多平直衆院議員が「こんな話が出たことがない」と質疑のなかで述べると、安倍首相は血相を変えて「私が嘘を言うわけないじゃないですか!」と喚き立て、「資料を出せと言うんであれば出させていただく」と大見得を切った。
ところが、その後の衆院予算委員会で、安倍首相は出すと言っていた資料も出さず、「防衛省担当の総理秘書官を通じて、航空自衛隊の幹部自衛官から伺った話」と答弁。つまり、「自衛隊の幹部から聞いた」「ある自衛官から聞いた」と語ってきたのに、実際には又聞きだったことがわかったのだ。
しかも、本サイトが調べたところ、「お父さん違憲なの?」のネタ元だと思われる元自衛官の話が「正論」(産経新聞社)に掲載された2017年6月と同時期に、同じような話が極右界隈で語られはじめていた。ちなみに安倍首相が9条に自衛隊を明記する改憲案をぶちあげたのは同年5月。ようするに、改憲案を正当化するために、改憲勢力や自衛隊出身の右派論客などが古いエピソードを持ち出した疑いがあるのだ(過去記事参照)。
雑誌などで語られていたような話を「自分が直接聞いた話」だと嘘をついて国会答弁やスピーチで平気で繰り返し、改憲の道具に使う──。大前提として、「お前の父ちゃん憲法違反!」などといじめられた子どもがほんとうにいるのだとしたら、おこなうべきはいじめの解消・解決。そのエピソードを持ち出して改憲の理由にすること自体がどうかしているのだが、ともかく、これが安倍首相の常套手段なのだ。しかも、そのやり口はスピーチライターを含む側近たちに完全に広がり、官邸全体の方法論と化している。
こうした状況を踏まえると、今回の施政方針演説の問題もさもありなんと言わざるを得ないが、今回の演説でもうひとつ指摘しておきたいのは、安倍首相の「個人情報」の考え方だ。
安倍首相は「桜を見る会」問題では、招待者について「個人に関する情報」だと言い張ってすべての回答を拒否している。それは自ら招待されたことを宣伝材料にしていたジャパンライフ会長の件についても同じで、当人が招待されたとあきらかにしているにもかかわらず、安倍首相はやはり「個人に関する情報なので回答は差し控える」の一点張りだ。
事ほどさように「個人情報」の保護遵守を言い募るのに、一方では国会の演説でカジュアルに一般人の実名を挙げて、結果このような騒ぎを巻き起こす……。結局、安倍首相の言う「個人情報」に対する認識とはこの程度のもので、都合が悪いときの隠れ蓑でしかないのだ。
威勢のいい言葉や美辞麗句を並べ立て、中身が空っぽだっただけではなく、地方創生の成功例として語った話が実際にはフェイクまがいだったというこの疑惑。安倍首相に説明が求められることは言うまでもない。
(編集部)
最終更新:2020.01.21 05:34
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