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横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」58
櫻井よしこ氏が“安倍麻生道路”忖度発言の自民党参院候補・塚田一郎氏を応援演説 野党候補・打越さく良氏に事実歪曲の攻撃
明日、参院選が公示されるが、“安倍応援団”ジャーナリストといわれる櫻井よしこ氏が応援演説で事実を歪曲した野党攻撃を行い、批判の声が上がっている。
櫻井よしこ氏といえば、安倍首相の推し進める憲法改正運動の旗振り役であるだけでなく、自ら主宰するインターネット番組「言論テレビ」でも安倍首相をさかんに擁護し、最近でも月刊誌「Hanada」(飛鳥新社)8月号で「無責任野党と朝日新聞に問う 安倍総理、大いに語る」と題するロング対談をするなど“首相の広報官役”も果たしている。
ところが、その櫻井氏が6月25日、塚田一郎参院議員(参院選新潟選挙区予定候補)の集会に登場し、応援演説を行ったのだ。
塚田議員といえば、今年4月、山口県下関市と北九州市を結ぶ道路整備をめぐって、「安倍晋三総理大臣から麻生副総理の地元への、道路の事業が止まっている」「私はすごくものわかりがいい。すぐ忖度する」「今回の予算で国直轄の調査計画に引き上げた」と、忖度による安倍首相、麻生太郎財務相への利益誘導を公言。責任を取って国交副大臣を辞任したばかりだ。
一応、ジャーナリストを名乗っておきながら、そんな候補者の応援演説を引き受ける感覚には首を捻りたくなるが、もっと問題なのはその内容が、事実を歪曲していることだ。候補者に関して虚偽の事実を公にすることは、「虚偽事項公表罪(公職選挙法235条第2項)」違反に当たる可能性がある。
櫻井氏は塚田議員の対抗馬である野党統一候補で弁護士の打越さく良氏に対してこう批判した。
「(参院選の)新潟の場合は塚田さんと打越さんの一騎打ちです。この中で『自衛隊をなくして皇室をなくす』という打越さんがいいと思う人はいるはずがない。(参加者から『そうだ!』『負けてられないよ!』という声)。負けてられないけれどもお父さん、今ね、調査すると、打越さんのほうが少し有利なのですって。恥ずかしくない? (参加者から『恥ずかしい!』との声)だから、これを一日も早く逆転しないといけない。逆転して、そして、さらに彼女に打ち勝って、選挙の当日にはすごい票差でこっちが勝たないといけない。(大きな拍手)皆さん、打越さんに聞きましょう。『あなたは皇室のことをどうなさるおつもり?』『自衛隊を解散するのですか?』。聞いて下さい。だって共産党が一生懸命支援をしている」
しかし櫻井氏が放った「『自衛隊をなくして皇室をなくす』という打越さん」という発言は、フェイクの可能性が高い。というのも筆者は打越氏の集会を取材しているが、予定候補本人はもちろん応援演説をした共産党の国会議員からも、櫻井氏が言うような“自衛隊をなくす”や“皇室廃止”の訴えなど聞くことはなかったからだ。
また打越氏の出馬会見を報じた5月11日の産経新聞でも、打越氏の5本柱の政策が紹介されているが、「(1)格差と差別のない社会(2)地域経済の躍進(3)原発ゼロ(4)暮らしの安心・安全確保(5)新時代の平和政策」という政策であり、“自衛隊解散”も“皇室廃止”も入っていない。
念のため打越氏の選対関係者にも問い合わせたが、「打越氏が街頭演説で自衛隊解散や天皇制廃止を訴えたことはない」と否定しているし、さらに櫻井氏は演説のなかで、打越氏がいつどこで「自衛隊をなくして皇室をなくす」という発言をしたのかの根拠を示すことはなかった。
櫻井よしこ氏が塚田議員の対立候補・打越さく氏を攻撃した演説の中身
応援演説をする櫻井氏(撮影・横田 一)
さらに唖然としたのは、慰安婦に関する櫻井氏の発言だ。少し長くなるが、その部分の演説を引用しよう。
「そして今度の参院選挙でも塚田さんは圧倒的に勝たないといけない。(拍手)打越さんという方、立派な頭のいい弁護士さんなのだと思うのです。私は、打越さんがどういうことを仰っているのかをやっぱりきちんと調べようと思いまして、彼女のいろいろ書いたもの、発信したものを見てみました。
おかしなことが書いてあるのです。これは、2016年9月21日付のネットサイト『LOVE PIECE CLUB』というところに打越さんが書いてありますね。ここで慰安婦の問題について書いています。『かなりリベラルと信頼する友人たちからも“慰安婦って朝日新聞のねつ造なのでしょう”と言われてビックリすることも多い』と彼女は書いています。これは、2016年9月21日のネットサイト『LOVE PIECE CLUB』に書いたものです。
さあ朝日新聞といえば、慰安婦問題で大誤報をしました。で、『間違っていた』ということを彼らは認めましたよね、それが2014年8月5日と6日の紙面です。本当に、こんなに一面も二面も三面も使って大検証をしました。朝日新聞が報道した慰安婦関連記事、吉田清治さんという職業的詐欺師がいた。朝鮮半島に行ったことはないのに、息子さんがちゃんと言っています。『うちのオヤジは済州島なんか行ったことがありません』。にもかかわらず、『戦時中、軍に命令されて済州島に行って若い女性たちを慰安婦狩りをして、何百人も泣き叫ぶ女性たちを連れて行って慰安婦にした』という嘘を書いた人が吉田清治さん。朝日新聞がこのことを大きく取り上げた。そこから慰安婦問題に対する本当に深刻な誤解が始まったのです。朝日新聞はこの吉田清治さんに関する一連の記事の全てを虚偽であるとして訂正をして取り消しました。これが2014年8月5日と6日です。
ところが打越さんの書いた先ほどの記事、これは2016年9月21日です。朝日新聞は2014年8月に取り消している。ところが彼女は、それから2年以上後に2016年9月になって、自分の友達が『慰安婦問題、朝日のねつ造でしょう』ということを書いたのをビックリしたと言っている。でも2年以上も前に朝日新聞が大訂正をした。『慰安婦問題、吉田清治、嘘でした』と訂正したことに対して、彼女はどう思っているのでしょうか。『お友達が“朝日新聞のねつ造でしょう”とお友達が書いたことにビックリした』と言っているのです。そんなこと(“朝日新聞のねつ造でしょう”)は当たり前で、(打越氏が)ビックリしたことに私たちのほうがビックリした。(参加者から『バカじゃないの』の声)
打越さん自身がやっぱりすごくリベラルで左で、現実を見ることを拒否しているのかも知れないとさえ、私は思いました。いずれにしましても、この共産党を含めた野党が応援する打越さんの政治的立場というのはどこまで信用して良いのか。打越さん自身が極めてリベラルで左かかっている考え方を、どこまで私たちは支持できるのか。信用も出来ないし、支持も出来ないのではないかしら?(大きな拍手)」
朝日の吉田証言誤報を、朝日が慰安婦をねつ造したかのようにすり替えた櫻井氏
これは、明らかに打越氏の記事の一部分をすり替え、事実を歪曲した発言だ。たしかに、朝日新聞は慰安婦を暴力で強制連行したとする吉田清司氏の証言を誤報だとして、取り消した。しかし、その際、右派メディアや歴史修正主義者は、あたかも、慰安婦制度そのものが存在せず、朝日新聞が慰安婦問題全体をでっちあげたかのような間違った認識を広めた。
打越氏が「慰安婦って、朝日新聞の捏造なんでしょ」と友人に言われて「びっくりした」と書いているのは、そのことであり、朝日新聞の吉田清司氏関連記事の誤報を否定したわけではない。
念のために、櫻井氏が問題にしている打越氏の記事も紹介しておこう。『LOVE PIECE CLUB』に発表された「歴史修正主義にのみこまれる危機に瀕している」という表題の記事は、以下のようなものだった。
「『歴史戦』と称して、日本の右派が『慰安婦』問題をはじめとする、植民地主義や戦争責任を否定する歴史修正修正主義のメッセージを発信する動きが活発になっている。『海を渡る「慰安婦」問題――右派の「歴史戦」を問う』(岩波書店、2016年)を読めば、第2次安倍政権成立後、現在では、その動きは『一部の右派によるもの』と見くびっていることは到底できない状況にあることがわかる」「能川元一による第一章は、歴史教育に対する歴史修正主義的な攻撃は1997年前後が転機であったという(中略)」
「能川は、安倍と右派論壇との密接な関係をデータをもって明らかにする。具体的には、2000年2月号から12年10月号までの間に、ポスト小泉の自民党総裁経験者である福田康夫や麻生太郎、谷垣禎一、そして安倍の、雑誌『正論』や『諸君!』(後に『WiLL』)での登場回数を比較する。その間、安倍は『正論』に20回、『諸君!』『WiLL』に17回登場。これに対し、福田は全くなし、麻生は『諸君!』に、谷垣は『正論』に、それぞれ1回の登場のみ。安倍は、07年の首相退任から2度目の党総裁就任までの期間も、『正論』に11回、『諸君!』『WiLL』に10回も登場。安倍は右派論壇から待望された総理大臣なのだ。
能川は、右派論壇の『歴史戦』言説の特徴をまとめてくれる。それはまず、『圧倒的な物量作戦』。まさに『声が大きい方が勝つ』を実践している。通常、アカデミズムやジャーナリズムは、『新規性』という価値に拘束され、同じ内容の繰り返しは忌避される。しかし、『歴史戦』の観点からは、新規性に価値を置かない。そのため、右派メディアとそれらのメディアとの間に情報発信量の著しい非対称性が生じてしまい、市民は否認論にならされてしまっている、という。確かに…。かなりリベラルと信頼する友人たちからも、『慰安婦って、朝日新聞のねつ造なんでしょ?』と言われてびっくりすることも多い。『声が大きい』戦略の威力は侮れない」
打越氏はまさに、朝日の誤報を利用して慰安婦問題全体を否定する、櫻井氏たちのような歴史修正主義の動きに警鐘を鳴らしたのである。そうした打越氏の記事全体の主旨を紹介した上で批判をするのならまだしも、実際には、“友人が信じ込んだ慰安婦朝日ねつ造説”が「当たり前の」であるかのように訴えた上で、それを「びっくりした」と批判的に捉えた打越氏を、極左で現実直視回避癖の疑いがあると指摘、塚田氏への支持を呼びかけたのである。
櫻井氏は、これまでも福島瑞穂氏や元朝日新聞記者・植村隆氏について、発言や記述のねつ造をして攻撃したことが明らかになっている。植村氏のケースでは訴訟にも発展した。
弁護士である打越氏がこの櫻井氏の応援演説に対して、どんな批判や反論をするのか、注目される。
(横田 一)
最終更新:2019.07.03 10:17
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